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全国水族館の旅㉗山梨県立富士湧水の里水族館

富士の清流。透き通る清らかな水の中、陽の光を浴びて泳ぐ淡水魚の姿には、言葉では表せないほどの美しさがあります。
清廉な水環境に恵まれた山梨県では、富士の湧水を淡水生物の養殖に活用しています。全国的にハイレベルな山梨県の水産業と富士山の水系の生態系を学ぶために、森の中に立つダイナミックな淡水専門水族館を訪れました。


富士の清流に抱かれる淡水生物水族館

関東にお住まいの方なら、富士山の付近に行ったことは何度かあるのではないでしょうか。高速に乗れば東京から富士山付近まで、1.5〜2時間ほどで辿り着けます。自宅から車を運転して行っても無理なくアクセスできますので、悠々自適なドライブ旅を楽しみましょう。
富士山の周辺は著名な観光地ですので、もちろん公共交通機関でも容易にアクセスできます。バスタ新宿から高速バスに乗れば、河口湖駅まで約2時間で到着します。

高台から眺めた富士山。関東・中部地方の方でしたら、富士山周辺までのアクセスは車でも十分可能です。遠方にお住まいの人は、現地までは公共交通機関で向かいましょう。

立地の関係上、やはり水族館に行くならオススメは車です。筆者のようにマイカーを持っていない場合は、河口湖駅などの観光拠点にてレンタカーを借りるのがよいでしょう。車さえあれば、富士山周辺の有名スポットにスムーズを回れます。

レンタカーで富士観光へ出発。富士五湖や道の駅を巡る旅は、風光明媚な自然の景観を独り占めしたような気分になります。水族館含めて、富士の思い出をたくさん作りましょう。

富士五湖の周辺には飲食店が多く、好きなタイミングでランチや軽食がとれます。筆者は大まかなコースを決めて、あとはノリで走りました(笑)。
富士五湖の1つ、山中湖。水族館は山中湖から近いので、セットで観光するには最適です。

山中湖を車で1周しながら、徐々に目的地へと向かっていきます。森の中の道をゆったり突き進んでいくと、水族館を擁する「さかな公園」が見えてきます。
富士山の見える街で水族館で学ぶという至上の贅沢。この貴重な時間を心ゆくまで楽しみたいと思います。

水族館は「さかな公園」の敷地内にあります。真向かいの駐車場に車を停めたら、淡水魚たちの楽園に向かいましょう。
真向かいに見える施設こそ、山梨県立富士湧水の里水族館。森の中の水族館、きっと素敵で美しい体験が待っています。

山梨県の水域環境と未来の養殖業を学ぶ

清流の中で強く生きる淡水生物たち

清流の淡水環境は燦々と輝き、生命感に満ちています。本館では自然界の湖沼や河川で生き抜く生き物たちの水族展示に加えて、水産業に関わる解説展示も豊富です。
陽の差し込む暖かなエントランスでは、淡水魚や甲殻類と共に、瑞々しい水生植物たちが展示されています。養殖業と農業が一体化した循環型技術「アクアポニックス」の実演もありますので、自然環境と産業の未来を考える重要なきっかけを与えてくれます。

エントランスの水槽内では、植物が展示されています。水辺を好む植物、水の中に体を沈めて生きる植物など、淡水環境と関わり深い子たちです。
きれいな清流にのみ生息する植物バイカモ。初夏から夏期にかけて、水面に美しい花を咲かせます。
魚の水族展示と一体化したワサビの栽培。未来の循環型一次産業「アクアポニックス」の実演展示です。
アクアポニックス水槽のアマゴ。彼らの排泄物は濾過槽で浄化され、栄養分の高い水がワサビへと送られます。
アクアポニックスについてのキャプション。魚の養殖と野菜の栽培の両立はとても効率が良いです。このシステムが発展すれば、新たな産業の境地が開けるかもしれません。

それでは、本格的に清流の淡水生物の世界へと入っていきます。
まずは山梨県の淡水環境の現状を学びましょう。最初の区画では県内の希少種が展示されており、どのような生き物たちが危機的状況に立たされているのかが理解できます。

立ち並ぶたくさんの水槽。この区画では、山梨県の希少な淡水生物たちにスポットが当てられています。
超貴重なホトケドジョウ。多くのドジョウとは異なり、あまり土中には潜らず、中層を泳ぎ回ります。
山梨県の天然記念物・フジマリモ。富士五湖の清流に棲む植物です。生息地周辺の人為的な環境変化により、その数は減少しています。
山梨県内では絶滅したとされる底生魚アユカケ。他の魚に襲いかかって丸呑みにする恐ろしいハンターです。

清流の生き物たちの展示はまだまだ続きます。魚だけでなく、両生類や爬虫類も淡水生態系を構成する重要なメンバーです。清らかな富士の水を浴びて生きるサンショウウオの姿はとても清廉で、まさしく湧水の妖精です。

まだまだたくさんの水槽、たくさんの生き物たちが待っています。楽しい観察の時間は長く続くのです。
美麗な模様が素敵なヒガシヒダサンショウウオ。サンショウウオの分類が細分化されたこともあり、2018年に新種として記載されました。
ニホンイシガメ。低温に強く、冷たい富士の清流の中でもたくましく生きています。
水槽内のコケを食べるボウズハゼ。強力な吸盤を有しており、急流の中でもしっかりと石にしがみつくことができます。
外来魚コクチバス。我々のよく知る一般的なブラックバス(オオクチバス)より低水温に強く、冬でも活発に狩りを行います。

清流の野生淡水魚に加えて、本館ではおいしそうな養殖魚の飼育展示もあります。
なお、山梨県は全国有数の養殖魚の産地です。ご存じの通り、山梨は四方を陸地に囲まれており、海がありません。ですが、富士の清流という至宝の水に恵まれており、冷たくきれいな水はマス類の養殖に適しています。
最先端の養殖技術と富士の清流によって生まれたのは、山梨県オリジナルのハイブリッド養殖魚「富士の介」。キングサーモンとニジマスの奇跡の融合、ぜひおいしく味わいたいですね!

山梨県オリジナルの養殖魚「富士の介」。山梨県水産技術センターにて誕生した、キングサーモンとニジマスのハイブリッド種です。
「富士の介」の料理法の紹介解説付きキャプション。キングサーモンもニジマスもおいしいので、その2種の融合は最強確定ですね!
さかなクンによって描かれた「富士の介」のイラスト。絵全体から愛があふれていますね。

観覧を進めると、来館者への嬉しいサプライズがあります。多種多様な世界中の爬虫類たちの生体展示です!
人気の高いトカゲ・ヘビ・カメのオンパレードであり、生物マニアにはたまらないと思います。少ない表情の中に愛嬌を有する彼らの魅力、たっぷりと感じさせていただきました。

ディモルフィカスカメレオンモドキ。カメレオンのようにも見えますが、アノールトカゲの仲間です。
アオダイショウではなくアカダイショウ。木登りの上手なヘビで、飼育容器の管理が甘いと脱走してしまいます。
巧みに泳ぐヒラリーカエルガメ。人工飼料に慣れやすいですが、甲長40 cmほどに成長するので、一般家庭での飼育は困難と思われます。

壮観な数々の大型水槽も本館の見どころポイントです。
山梨県の渓流を想起させる雰囲気が素敵。国内の淡水環境の奥深さを感じさせてくれます。

壁面いっぱいの大型水槽。富士の清流水域の一部がやってきたかのようです。
オープンで見ごたえある水槽。広い空間で泳ぐ淡水魚の姿は、生き物好きにとって癒しの効果があります(笑)。
タモロコ、フナ類、モツゴなどがひしめく大型水槽。淡水魚の静謐な美ににうっとりします。
施設外周の池の内部を覗ける横見水槽。チョウザメとソウギョが泳ぐ不思議な光景を、畳の上に寝そべりながら眺められます。

大型水槽の見ごたえは最高! 本当に清流の河川の中に入ったかのようです。
ですが、驚くのはこれからです。
さらなる不思議な巨大水槽が来館者を待ち受けます。

その名は「二重回遊水槽」。本館屈指の大型水槽であり、大小様々なマス類の淡水魚が活発に泳いでいます。野生と養殖、日本と海外のボーダーを越えたマスたちの奇跡の共演です。
本館の大型水槽には富士山の湧水が利用されており、水の美しさにも息を呑んでしまいます。究極の淡水水槽の魅力に、筆者はしばらく見とれてしまいました。

展示ホール中央には、円柱型の巨大水槽があります。水量180 tに及ぶ「二重回遊水槽」です。
二重回遊水槽には約3000個体もの魚たちが泳いでいます。展示されている魚はマスの仲間であり、小型魚から大型魚まで豊富な種類が見られます。
アルビノのニジマスは神秘性抜群。加えて、迫力抜群の大型魚イトウ、海外産のカマワスやブラウントラウトも見られるので眼福です!

実は、二重回遊水槽はドーナッツタイプの構造となっており、水槽中央部のスペースに入ることができます。無数の淡水魚に取り巻かれて、本当に富士の清流に飛び込んだような心地になれます。
ぜひ、二重回遊水槽の中心で爽快な水中体験を楽しんでください。

二重回遊水槽の隣に階段発見。導かれるままに下っていくと……。
二重回遊水槽の内部へ! 淡水魚の力強さと清水の流れを感じましょう。
中央のスペースから見た二重回遊水槽の様子。魚たちの美と生命力を引き出す素晴らしい展示です。
水の世界を心ゆくまで堪能。まさに「淡水の竜宮城」と言ったところですね。

二重回遊水槽の中央空間には階段があり、そこから2階の展示エリアへ上っていきます。その際、水槽を上部から見ることができるので、しっかり観察しておきましょう。たくましいマスたちは、どの角度から見てもかっこいい!

大型水槽の中央スペースに階段があるという大胆な構造。マスたちの舞を楽しみながら、2階へと上がりましょう。
上から見た二重回遊水槽。その名前の通り、水槽は二重構造に仕切られていて、内側には比較的小型の魚たちが泳いでいました。
外側の層ではイトウなどの大型魚が泳いでいます。様々な要素において特殊な水槽であり、本当に見ごたえがあります。

山梨県、驚異の生産力! 養殖業と湧水の自然環境を学ぶ

二重回遊水槽の中央階段を上がると、2階の展示空間に出てきます。こちらでは山梨県の養殖業や不思議な淡水生物について学べます。
得られる知識がとても多いエリアです。淡水の生態学と水産学の濃密な学習が始まります。

2階の展示空間に到着。ここからでも、二重回遊水槽の上部を見ることができます。
このエリアでは、有名人のサインをたくさんお目にかかれます。歌手の一青窈さんも来館されているのですね。

お待たせしました。いよいよ本格的な養殖業のキャプション展示です!
高品質なニジマス養殖で有名な山梨県。どのような技術が用いられ、どのような作業を経ておいしい養殖魚が誕生するのか、詳しく明瞭に説かれています。私たちの「食」に関わるテーマですので、しっかり学びたいと思います。

ニジマスの養殖サイクルについての展示。山梨県の重要な産業、ぜひとも詳しく学びたいです。
ニジマスの卵の液浸標本。オスから取り出した精子をかけて受精させ、大切に育てていきます。
山梨県の清水と養殖についてのキャプション。冷たくきれいな水に恵まれた環境ですので、山梨県は冷水性魚類の飼育に適しているのです。
県内で養殖されている魚種の紹介。メイン魚種は淡水魚ですが、少数ながら海洋生物の陸上養殖も行われています。
養殖魚を使った料理例の紹介。QRコードを読み込めば、調理法を見ることができます。チョウザメのポワレ、めっちゃおいしそう!

養殖対象の淡水生物の生体展示は、本エリアの大きな見どころ。どの生き物も、きれいでおいしそうな子たち。これほどの恵みを与えてくれる山梨県の水環境と技術者の方々に大感謝ですね!

山梨県で養殖されている淡水生物たちの生体展示。水族館観覧後は、県内の料亭にいきたくなるのではないでしょうか。
馴染み深い養殖魚と言えばニホンウナギ。富士の清流で生まれたウナギはおいしそう!
養殖が進められているオニテナガエビ。山梨県で特大のエビ天丼が食べられる日を楽しみに待ちましょう!
ニシキゴイも重要な養殖魚。品評会で2億円の値がつけられた個体もいます。

続いては、プランクトンの生体展示!
筆者が特に興味を抱いたのは、淡水に棲むマミズクラゲです。実は、筆者は学生時代に水族館でマミズクラゲ飼育のアルバイトをしていたことがあり、本種の展示を見ると、並々ならぬ好奇心が湧き上がってきます。
小さくて可愛いマミズクラゲ、最高! とっても癒されます。

淡水性クラゲの一種、マミズクラゲの幼生。海のクラゲと同様に触手を広げ、水中のプランクトンなどを捕食します。
シャーレに入っているのはマミズクラゲのポリプ。ここから元気なクラゲの赤ちゃんが出芽します。
マミズクラゲの生活環についての解説。彼らは有性生殖も無性生殖も行うことができます。
写真展示による生態解説。マミズクラゲの餌には、ワムシ類などの微小生物をスポイトで流し入れて与えます。
クラゲと同じプランクトンということで、すぐ側にはオオミジンコの展示水槽があります。ただ、大きすぎるうえに殻が硬いので、マミズクラゲの餌としては不適です。

個性的な数々の生体に加えて、標本展示も魅力的です。
昆虫標本が好きな生物マニアは、甲殻類の標本にも惹かれることが多々あるはずです。パワフルなオニテナガエビの全体像を観察しているうちに、きっと深く惚れ込んでしまうでしょう。

養殖対象となっているオニテナガエビの標本。芸術的なほど立派な個体です。
海洋性の甲殻類の標本。イガグリガニについては、脱皮殻も展示されているのが嬉しいです!

これほどまでに魅力的な展示を目の当たりにすると、山梨県の自然環境の実像が気になるところです。窓側の解説パネルには、県内の自然の特色、希少生物の現状が記されています。そして、シアタールームでは山梨県の淡水生態系の解説映像が放映されていて、楽しみながら生物の特徴や生態を学習できます。
スタッフさんの想いが込められた展示。ぜひとも、余すことなく目を通して、山梨の水域環境への理解を深めましょう。

山梨県の希少淡水魚に関する解説パネル。絶滅危惧種を救うために、水族館と山梨県水産技術センターは様々な保全対策を実施されておられます。
水族館の大型水槽や、水産技術センターの養殖に使用されている湧水の地理的解説。富士の恵みの水は、とても広いを流れているのですね。
シアタールームでは、山梨県の淡水生態系を映像で学べます。研究員の「甲斐のカメ吉くん」が、様々な淡水生物について解説してくれます。

屋内展示を見終わったら、外周部の池に向かってみましょう。実は、こちらは1階の横見水槽であり、屋外で悠々と泳ぐ大型魚たちを間近で観察できます。
静かな森と水に身を委ね、時を忘れてまったりしてみましょう。マイペースで悠々とベステルチョウザメの姿には、心が洗われるほどの静謐さがあります。

1階の横見水槽は、水族館の外周部からも観察できます。澄みきった富士の湧水の麗しさが見事すぎます!
富士の清水の中、チョウザメやソウギョが静かに泳ぐ光景。筆者には、とても幻想的に感じられました。

素敵な清流の水族館の観覧はこれにて終了となりますが、より深く富士の自然の秘密を学ぶために、隣の「森の自然館」へハシゴしましょう。水族館との相乗効果で、山梨県の自然環境の知識がさらに身につきます。富士山によって築かれた生命豊かな大地がいかに尊い環境であるのか、学術的な観点からしっかりと学ぶことができるのです。

水族館の隣に位置する「森の学習館」。無料で入れる展示施設です。
「森の学習館」では、富士の森に棲む野生動物や、自然と人との関わりについて学べます。水族館と合わせて、がっつりと本格的な自然学習ができます。

山梨県立富士湧水の里水族館 総合レビュー

所在地:山梨県南都留郡忍野村忍草3098-1

強み:富士の湧水を活用した大型水槽による視覚的インパクト抜群の水族展示、プランクトンから大型淡水魚まで幅広い種類の飼育生物、養殖業を体系的に学べる生体展示や解説キャプション

アクセス面:車がオススメです! 関東・中部在住で自家用車をお持ちの方は、マイカーを運転して水族館へ直行しましょう。他の地方からお越しの場合、河口湖駅などの観光拠点でレンタカーを借りるのがベストです。レンタカーの予約が埋まっていた場合は、富士急バスに乗って向かってください。富士湧水の里水族館だけでなく、山の中にある水族館へ行くには、基本的にレンタカー・自家用車が最良手となります。

展示水槽の迫力・学術性の高さ・美しい生体展示の3拍子を兼ね備えた、究極レベルの淡水生物水族館です。滾々と湧く富士の清流の地域に位置しているので、入館すると清らかな水の世界に潜ったような心地になります。
富士の湧水が活用された水槽は、水の美しさも構造的なギミックも抜群で、上質な視覚的インパクトを味わえます。さらに、展示生物は多様性に富んでいて、メインとなる淡水魚に加えて、愛らしい両生類や爬虫類がたくさん飼育されています。マミズクラゲやオオミジンコなどの摩訶不思議なプランクトンたちにも注目です。

特筆すべきは、やはり養殖業を大々的なテーマに掲げている点です。山梨県の優れた養殖技術、多様な養殖魚・甲殻類について、重要な知識をたくさん身につけられます。本館の水産学習を通して、富士山の清水は我々に大いなる恵みを与え続けてくれているのだと理解できました。

清水を森に送り、自然界の生命や養殖業を育てる富士の山。この一帯の生態系は、富士山によって形成されたものなのです。

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