全国自然博物館の旅㉑大阪市立自然史博物館
全国共通入試テストが終わり、受験シーズンも大詰めです。理系の受験生の方々は、英数理の勉強に大忙しだと思います。
筆者が受験生の頃、生物を勉強していましたが、難解な理論のマスターには苦慮しておりました。そんな小難しい生物学・生態学の法則をわかりやすく学べる博物館が大阪にあります。学校の勉強をさらに詳しく身につけたい方には、最適の学術施設です。
浪花の緑地に立つハイグレードな自然博物館
大阪のスポーツの聖地であり、市民にとっての憩い場・長居公園。そこには、自然科学の理論を本格的に学べるスーパー学術施設があります。
長居公園の最寄り駅は、その名の通りOsaka Metro御堂筋線の長居駅です。梅田や難波から(天王寺駅止まりの便でなければ)電車1本で到着します。大阪市内の学術施設は総じて交通の便がよく、旅行者には嬉しいところです。
長居公園の駅側入口から自然史博物館までは、およそ徒歩10分。矢印標識がいくつも配置されているので、迷うことはないと思います。
とても広い公園ですので、園内の景観は爽快です。また、長居公園は昔からずっと大阪市民の暮らしの中に根づいており、子供からご年配の方まで、とてもたくさん人々が利用されています。園の中を歩いていれば、きっと笑顔あふれる暖かい光景に出会えます。
大阪市立自然史博物館は、長居植物園に隣接しています。ですが、入園ゲートが見えてきても直進せず、いったん右へと曲がりましょう。
見えてくるのは「花と緑と自然の情報センター」。ここから、いよいよ自然科学の探究が始まります。学びの詰まった大阪屈指の自然博物館へ出発です。
受験生も生物マニアも虜にする大阪の魅力
お金を払いたくなるほど素晴らしい無料ゾーン
繰り返しますが、「花と緑と自然の情報センター」は入館無料です。ただ、施設内の展示内容はすさまじくハイクオリティであり、無料で入るのが申し訳ない気分になります。特に、奥にあるネイチャースクエアの展示が超豪華です!
大阪府は南北に長い形をしており、それぞれの土地に異なる生態系が広がっています。東京に次ぐ日本第2位の大都会である大阪には、実は緑豊かな自然景観が残されているのです。
大阪は巨大都市ですので、自然よりも大阪市中心部のハイテク街や高層ビル街ばかりがメディアで紹介される傾向にあります。本館を訪れたからには、魅力あふれる大阪の自然をしっかり理解したいところですね。
現代の自然環境の解説のみならず、大阪の大地から産出する化石についても、このネイチャースクエアで学ぶことができます。大阪南部には「和泉層群」という地層が走っており、そこから数多くの海洋生物化石が発見されています。
驚くべきことに、太古の海を支配した海洋爬虫類モササウルス類の骨格も見つかっています。中生代の大阪の近海には、大いなる竜が舞っていたのです。
ここでまた「ほんとに、ここ無料で入っていいの?」と言いたくなりますが、ネイチャースクエアには水族展示コーナーもあります。有名な淀川に棲む魚たちの姿を、じっくりと観察できます。
(阪神タイガース優勝のときにお兄さんたちが飛び込む道頓堀川みたいに)大阪の川は街の中を流れてるから濁っている、というイメージは捨ててください。生き物いっぱいの淀川のように、大阪の河川には清らかな流れがあるのです。
琵琶湖を源流とする淀川には、実に多くの淡水魚が棲んでいます。大阪市立自然史博物館は淀川水系のプロなので、展示解説は超明瞭かつ濃密です。
魚マニアの人々が注目したいのは、やはり希少淡水魚イタセンパラでしょう。樹脂標本に収められた魚体をじっくりと見て、彼らの美しさに酔いましょう。
極めつけは大阪府内の生き物たちの標本ラッシュ。無脊椎動物・脊椎動物問わず、美麗な生命の姿にうっとりします。
これほど多種の野生の命が大阪には息づいているのです。旅行で大阪を訪れた際は、USJや通天閣や大阪城だけでなく、生き物探しにも足を運んでみましょう。
関西人が来るまで大阪を支配した野生動物たち
ここからは有料エリアとなります。展示は前半戦が終了したばかりであり、いよいよ大阪市立自然史博物館の中枢に入ります!
入館料を払ったら、情報センターから博物館・植物園エリアへ。目の前に立つ大いなる展示施設こそが、今回のターゲットです。
大阪のおばちゃんや浪速商人の皆さんについては、他の地方民を凌ぐパワフルなイメージがあります。彼ら無敵の大阪人が住む前、太古の大阪を支配していたのは、迫力満点の大型動物たちでした。
エントランスホールに佇むのは、ナウマンゾウとオオツノジカの実物大模型。どちらも更新世の日本を代表する大型動物です。
これだけの大物たちがいきなり出てくると、古生物展示に期待がかかります。本館が擁する古生物たちは生息年代も発見場所も多様であり、我々の期待以上の展示を味わうことができます。
博物館ならではの、大迫力の大型古生物との対面。大人も子供もきっと夢中になることでしょう。
恐竜は多くの博物館で最強のスターですので、本記事では大阪出身の古生物たちをメインに据えたいと思います。古生物ファンお馴染みのマチカネワニに加え、大阪では予想以上にたくさんの大型動物化石が発見されています。
最後の氷期が始まる前の期間(約350万~約30万年前)に火山灰や粘土がたまり、「大阪層群」と呼ばれる地層が大阪平野に形成されました。大阪層群からは、実に多様な古生物たちが見つかっています。
大阪の地からは、クジラの骨格も発見されています。それは決して山の中の崖などからではなく、大都会・大阪市内のど真ん中にて出土しました。
巨大都市である大阪では、昔からビルや地下鉄の工事が盛んでした。そのさなか、東成区の今里駅の地下からクジラの骨が出てきました。当該個体は太古のカツオクジラであることが判明し、今も引き続き研究が進められています。
本館は大阪が誇る自慢の博物館ですので、研究実績もハイレベルです。古代の半水棲哺乳類デスモスチルスの生態的な秘密を、本館の学芸員さんが解き明かしました!
素晴らしい標本がありすぎて、古生物エリアは本当に見ごたえ抜群です。ぜひ来館して、本館自慢の恐竜も他の古生物と間近で対面してください。
大型動物たちに代わって、今は大阪人(人類)が大阪の支配者となっています。大阪の街の生き物や身近な自然についても、本館の展示解説で詳しく学ぶことができます。
ネイチャースクエアと同じく、本館でも大阪の自然環境についての展示があります。ここまでの観覧でとても多くの大阪の生き物たちに会ってきたので、フィールドでの探究意欲も高まってきたのではないでしょうか。
大阪北部や南部に足を伸ばして、たくさんの生き物を探しに行くのも素晴らしい体験になりそうです。
大阪の自然環境の過去と現在を学んだら、2階の展示エリアへ進みましょう。ここからは大阪を飛び出し、地球規模の大自然を見ていきます。大小問わず豊富な生き物たちの標本に、思わず圧倒されてしまいます。
最もスケールの大きな自然環境は海洋です。特に深海は未知なる超巨大フロンティアであり、今なお新種が続々と発見されています。本館の展示に触れれば、そのすごさがひしひしと伝わってくると思います。
本館の生物標本資料の多さ、展示の濃密さには、常に圧倒されっぱなしです。さすが大阪、街だけでなく、博物館まで究極のほんまもんですね(笑)
受験生の強い味方! 博物館で生態学理論を学ぼう
高校生の皆様、お待たせしました。いよいよ受験勉強に役立つ展示エリアに突入です!
「生き物好きだから、高校の理科は生物選択だ」という理由で多くの人がコース決定しますが、遺伝計算や生態学のグラフ読解などで数的能力を要求されます(笑)。生物学は理系分野ですので、数字との戦いは必然です。そこで理論や概念をしっかりわかっていると、学習が大いに捗ります。
本館は、まさに「巨大な飛び出す教科書」です。教科書で学んだ生態学の真理を復習し、より強固に理解していただきたいと思います。
まずは、有名な生存曲線から見ていきましょう。
生存曲線と同じく有名な生態学のグラフと言えば、ロジスティック関数。「関数」と聞くともう数学の匂いがしてきますが、非常におもしろい理論です。
本館の展示では明瞭な事例を示してくれているので、とてもわかりやすいです。教科書と併用すれば理解度200%です!
続いては、相変異など環境と生き物の関係についてです。こちらの基礎理論は学校で先生から教えていただいていると思いますが、より理解を深めるために、本館の視覚的な展示解説をフルに活用しましょう。
ここでしっかり補強すれば、2次試験でどんな問題が来ても怖くありませんね?
ここからは、大学生や大学院生にとっても勉強になる話です。なんと、生き物の擬態様式ーーベーツ型擬態とミュラー型擬態について展示解説をしてくれています(私がこれらの概念を知ったのは大学に入ってからです)。
高校生の皆さんは、受験勉強の先を見越して、どんどん学んでいきましょう。学問に王道があるとすれば、「楽しく学ぶこと」です!
高校生の皆様、決して受験の結果が全てではありません。しかし、受験とは自分の限界にチャレンジできる貴重な戦いであり、間違いなく大いなる躍進を促してくれる挑戦なのです。
受験は1年にも満たない戦いですが、これほど全身全霊で戦う機会は人生の中でもそうめったにありません。自然界の生き物と同じように「重ねる試練こそが個体を成長させる」という真理は、人間にも当てはまるのだと思います。
大阪市立自然史博物館 総合レビュー
所在地:大阪市東住吉区長居公園1-23
強み:大阪産出の化石動物をメインに据えた学術性の高い古生物展示、大阪の自然環境を理解できる濃密なキャプションと膨大な標本資料、生態学の理論が明瞭に理解できる工夫満載の特殊展示
アクセス面:博物館は大阪市の東住吉区に位置していますので、交通の便はかなり良好です。最寄り駅はOsaka Metro御堂筋線の長居駅であり、梅田・難波・天王寺といった大阪の主要都市から電車1本でアクセスできます。長居駅から博物館までは、徒歩10分余りで到着します。長居公園内にはカフェなどの飲食店が複数ありますので、観覧前後で休憩を挟むのもいいと思います。
受験勉強に応用できるほど、本格的な自然科学の学習ができる究極の学術施設です。展示内容の超充実した本館はもちろん、無料ゾーンのネイチャースクエアも合わせて、すさまじい量の標本と情報に触れられます。迫力とインパクトもかなりのもので、大型古生物の化石標本や模型が多く、恐竜の好きな大人も子供も大満足できると思います。
筆者が特筆したいのは、やはり生態学の理論を種々の展示によって詳しく解説してくれている点です。他の博物館ならキャプションの数行で済まされることが多い学術的理論について、本館では大きな図や模型を使って、誰にでもわかりやすく説いているのです。受験生はもちろん、生物系の大学生や大学院生にとってもありがたい展示だと思います。
もう1点、本館で得られた大きな学びは、大阪には特別な自然環境が数多く残されていることです。日本第2位の巨大都市としての側面だけではなく、美しい自然を守り続けているという事実に、大阪の偉大さを感じます。
天王寺であべのハルカスを楽しんだ後は、ぜひ自然史博物館を訪れて、大阪のさらなる魅力を学びましょう。
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