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The Lost Universe 古代の巨大植物③巨大シダ植物

植物の中でも古参のグループの1つ、シダ。我々の身近な植物であり、人間の生活や文化と強く関わっています。
そんな馴染み深いシダ植物は、太古の時代から営々と繁栄していました。草花が地球に誕生するまでは、緑いっぱいのシダが大地に広がっていました。多様な古代のシダの中からは、巨木のごとき大型種も生まれました。


シダ植物とは何者か?

種子植物の先駆となった初期の維管束植物

古代より地球に根づいているシダ植物。彼らは永い生命史の中で様々な生き物と関わっており、我々人類にとっても重要な植物となっています。
少しご年配の方々は、子供の頃に山でワラビやゼンマイを採ってきて親御さんに料理してもらったり、川原で摘んだツクシの炊き込みごはんを作ったりしたのではないでしょうか。それらのシダ植物は主要な山菜であり、我々にとってはありがたい大自然の恵みです。
食糧面のみならず、トクサのように研磨や加工に利用される種類もあります。草花や木と同じように、シダ植物も人類の文化や文明の発展に寄与してきたのです。

オオトクサ(岡山理科大学にて撮影)。トクサ類のシダ植物は茎に小さな突起が並んでおり、ヤスリとして木材の研磨に用いられてきました。

シダ植物は何なのかと言うと、「根・茎・葉を備え、胞子で増える維管束植物」です。なお、全般的に共通する特徴として、地上に出ている部分は葉であり、シダ植物の茎(地下茎)は地中に埋まっています。根は地下茎から生えているので、そこだけはわかりやすいですね(笑)。

前回の記事で紹介した小葉植物と同じく、シダは植物の進化史の早期に誕生し、石炭紀に大繁栄しました。超巨大小葉植物のシギラリアやレピドデンドロンと同じく、シダ植物もリグニンで体を固くして巨大化しました。そして、巨大なシダ植物と小葉植物の遺骸は、膨大な量の石炭へと変わっていったのです。
種子植物が高度に進化するまで、巨樹や草花に該当する生態的地位はシダ植物のものでした。古生代においては大小様々なシダが地球上に進出し、豊かな生態系を構築していたのです。シダ植物たちは世界中に胞子を飛ばし、たくさんの生命に生活の場を与えたことでしょう。

現生の大型シダ植物マルハチ(熱川バナナワニ園にて撮影)。小笠原諸島の固有種です。本種はとても大きいですが、古生代のシダ植物の中には、さらに巨大な種類がいました。

恐竜のごはんになった古代種たち

突然ですが、最近の恐竜図鑑ではステゴサウルスやアパトサウルスを「草食恐竜」ではなく「植物食恐竜」と呼んでいます。それはいったいなぜでしょう?

答えは至ってシンプルであり、恐竜時代の中盤までは被子植物(一般的な草花)が生えていなかったからです。地面には草花の代わりにたくさんのシダが生えており、彼らが恐竜たちの栄養源になったと考えられています。事実、植物食恐竜の骨格の胃の付近から、シダの化石が見つかったこともあります。

ベニシダの一種(岡山理科大学にて撮影)。このタイプのシダ植物は恐竜時代の中頃に出現しました。

恐竜が栄えた中生代において、裸子植物が本格的に進化を遂げました。巨大な木がひしめく中、シダ植物は古生代ほど大きくはなりませんでしたが、それでも下層植生の環境でしたたかに生き延びていきました。
高木の葉はブラキオサウルスなどの大型恐竜が食べていたと思われ、他の植物食恐竜たちは林床のシダ(もちろん低木も)を摂食していたことでしょう。葉っぱだけでなく、我々がツクシを食べるように、栄養満点の胞子穂も恐竜たちの食糧になっていたと考えられます。

古代から現代に至るまで、シダ植物の栄華の歴史はとても永いです。その果てしない時間の流れの中で、数々の大型種が誕生しました。

古代の巨大シダ植物

カラミテス ~そびえ立つ巨大なトクサ! 史上最大のシダ植物!!~

史上最大のシダ植物、その名はカラミテス属(Calamites)。超巨大小葉植物と共に、石炭紀(約3億5900万〜約2億9900万年前)の地上で大群落を形成していたモンスタープラントです。
カラミテスは日本では「ロボク」と呼ばれており、石炭紀の植生を代表する大型シダとして有名です。先述の通り、シギラリアやレピドデンドロンと並んで、石炭の恩恵を我々にもたらしてくれる人類の救世主です。

最大級のシダ植物カラミテスの復元図(栃木県立博物館にて撮影)。成長した植物体の高さは約20 mにも及びます。

現生の小笠原諸島の固有種マルハチは巨大なシダ植物であり、リグニンの産生によって頑丈な身体を獲得しており、全高10 m級の大きさに成長します。カラミテスも、木質の強固なボディを備えていました。ただ、カラミテスはマルハチよりもさらに大きく、高さ20 mクラスになったと考えられています。
カラミテスの幹の上部からは枝葉がたくさん生えており、枝の先端には胞子の穂がありました。当時の巨大な昆虫たちが葉の先にとまって休息する姿は、とても幻想的だったことでしょう。また、胞子穂は昆虫たちにとって重要な食糧だったと考えられており、カラミテスの周りには多くの生命が集まっていたと思われます。

カラミテスの幹(豊橋市自然史博物館にて撮影)。リグニンによって強化された体はとても頑丈で、彼らは力強くそびえ立つことができました。

カラミテスの植物体には節があり、その幹はタケのように見えたかもしれません。なお、とても頑強なカラミテスですが、彼らは木ではなくシダですので、幹の中はスカスカの中空でした。幹がポキッと折れたカラミテスの化石も発見されており、その隙間は樹脂で埋まっていました。
カラミテスほど巨大なシダ植物は、現在の地球上には存在しません。ですが、大型シダが完全についえたわけではありません。小笠原諸島のマルハチのように、大物はまだまだ雄々しく生き続けています。古代種の理解を深めるために、大迫力のシダが群生する自然環境を訪れてみるのも、きっと素晴らしい学びになると思います。

ネオカラミテス ~永き時代を生きたシダ! 特大のツクシごはんを作れる?~

暖かな春の日、野原でツクシを採集して調理した方もいらっしゃるのではないでしょうか。ツクシとはスギナというシダ植物の胞子茎であり、絵本や童話でよく出てくる馴染み深い存在です。そのスギナに近縁なシダ植物が、恐竜時代の大地に根を広げていました。

代表的な種類がネオカラミテス・メリアンイ(Neocalamites merianii)です。三畳紀のシダ植物として扱われる場合もありますが、本属の存続期間はペルム紀後期からジュラ紀前期まで及んだという説があります。いずれにせよ、かなりのスパンに渡って大繁栄していたシダ植物であることは確実です。

ネオカラミテスの化石と復元図(豊橋市自然史博物館にて撮影)。カラミテスと同様、植物体にはタケのような節があります。

大半の現生シダ植物と比較すると、ネオカラミテスはかなりの大きさがあります。ただ、石炭紀のカラミテス(全高20 m)に比べるとスケールは小さく、ネオカラミテスの植物体の高さは約2 mほどであったと考えられています。世界中に分布していたことが明らかになっており、川岸などの湿った場所に生えていたと思われます。
巨大な群落を構成する高さ2 mのネオカラミテスは、三畳紀の恐竜にとっては手頃な食糧となっていたことでしょう。当時栄えていた裸子植物のソテツ類に比べてシダ植物の葉は柔らかく、恐竜の中にはシダを好んで食べる種類がいました。きっと植物食恐竜たちは、シダ植物の葉も胞子茎もおいしそうにむしゃむしゃと食んでいたと思われます。

ネオカラミテスの葉の化石(豊橋市自然史博物館にて撮影)。世界中に分布していたことが判明しており、中生代ではたくさんの恐竜たちの食糧になったと思われます。

系統的には、ネオカラミテスは現生のトクサ類に近縁だと考えられています。スギナの胞子茎ーーすなわちツクシは、食用に調理されて様々な献立になります。特に、ツクシの炊き込みごはんはすごくおいしそうですね!
高さ2 mもの大きなネオカラミテスなら、かなりたくさんの胞子茎がとれるでしょう。仮に、ネオカラミテスからツクシごはんを作ったのなら、果たして何十人分の量になるでしょうか?

胞子で増殖する維管束植物たちは、古生代からの勢いに乗って、中生代に入っても大いに繁栄していきます。しかし、ネオカラミテスの事例を見ればわかるように、石炭紀の仲間ほどの巨大種は生まれませんでした。
その理由の1つとして、シダ植物や小葉植物に取って代わる好敵手の出現があげられます。しっかりした根を大地に張り、頑丈な幹の支えによって高層ビル並みの大きさに育つ巨樹ーー我々のよく知る「木」の誕生です。

【前回の記事】

【参考文献】
田川基二(1959)『原色日本羊歯植物図鑑』保育社
伊藤元己(2012)『植物の系統と進化』裳華房
土屋健(2014)『石炭紀・ペルム紀の生物』技術出版社
Odd News(2020)1億年前の恐竜が食べた「最後のえさ」、珍しい胃の内容物の化石から判明 https://www.cnn.co.jp/fringe/35154734.html
Villalva, A. S., et al.(2023)Systematic and organ relationships of Neocalamites (Halle) Vladimirovicz, and Nododendron (Artabe and Zamuner) emend. from the Triassic of Patagonia. Palaeobiogeographic, palaeoenvironments and palaeoecology considerations. Review of Palaeobotany and Palynology. 316: 104939.
学研キッズネスト せきたんき【石炭紀】https://kids.gakken.co.jp/jiten/dictionary03400288/ 
godmotherの料理レシピ日記「土筆(つくし)ご飯とツクシのお浸し」http://godmothers.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/post_5c86.html
シゼコン 自然観察コンクール「トクサの研究-伝統工芸に見る磨きの技の謎に迫る-」https://www.shizecon.net/award/detail.html?id=181
豊橋市自然史博物館の展示キャプション
岡山理科大学内の植物展示キャプション

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