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The Lost Universe 古代の巨大植物⑤花の誕生と現生巨大植物

植物の発展に伴い、動物たちも多様な繁栄を遂げました。古代から植物の進化にリードされながら、動物がたくましく強く向上したと言って も過言ではありません。
恐竜時代の中盤になって、植物界ではさらなる革命が巻き起こります。


被子植物とは何者か?

植物界の新たな革命者

裸子植物と並んで、我々が最も普遍的に目にするのが被子植物です。定義としましては、「種子のもとになる胚珠が子房で覆われている維管束植物」となりますが、もっとわかりやすく言うと「果実を作り、花を咲かせる植物」です。

ハルサザンカの花(小石川植物園にて撮影)。自然界でも人の生活圏でも、被子植物は普遍的に見られます。
都会の真ん中にも花があると、彩りと精神的安らぎが生まれます。人類にとって、被子植物のない生活は考えられません。

裸子植物が建材として生活を支えているのならば、被子植物は食糧面や文化面で我々を助けています。私たちが食べている野菜は、ほとんど被子植物です。加えて、美しく咲く花々は生活空間を彩り、結婚式などのお祝いの儀式で大活躍します。

実る1房のバナナ(熱川バナナワニ園にて撮影)。我々人間に野菜や果物を提供してくれる植物は、ほとんど被子植物です。

永い植物進化史において、被子植物は革命的な存在です。その理由は「花」と「果実」の発明にあります。
花とは、被子植物の生殖器官です。風に乗せて花粉を飛ばす大半の裸子植物とは異なり、被子植物は別の手段で雄花から雌花に花粉を渡して受粉しなくてなりません。そのため、花は蜜を生成し、食糧を求めてやってきた動物(昆虫・鳥・コウモリなど)に花粉を付着させるのです。
ちなみに、多くの花が美しいのは、媒介者となる動物の目を引くためなのです。当然ながら、決して人間のために美しい花を咲かせているわけではありません。

生殖器官としての花は植物界の画期的な進化であり、受粉・生殖効率は飛躍的に向上しました。動物たちの協力を得て増殖する被子植物は、その特性を活かして現在でも大繁栄しています。

ウメの蜜を求めてやってきたメジロ(小石川植物園にて撮影)。鳥が花の蜜を吸うことで、花粉は雄花から雌花へと伝わります。鳥の活動によって受粉する被子植物を「鳥媒花」といいます

続いては果実です。果実とは「種子を包む雌花の子房が発達・成熟したもの」です。人間を含め、多くの動物たちがその味をしめて食糧としています。
植物にとって、果実は重要な種子散布の道具です。せっかく受粉したまではいいものの、被子植物には種を遠くへ飛ばす手段は多くありません。そのため、彼らはおいしい果実の中に種子を入れて、動物たちに食べさせるのです。動物に体内に入った種子は、やがて糞と共に排泄され、新天地で芽吹きます。
とにかく植物たちは、動物に食べてもらえるようなおいしくて瑞々しい果実を作ります。例えば、スイカに水分が多いのは、水を求める砂漠の動物たちに食べてもらうためなのです。おいしい果実は、種子を運んでもらう動物への植物からのお礼なのです。

オオハマギキョウの果実(小石川植物園にて撮影)。赤い色の実は動物たちに発見してもらいやすく、種子を運んでもらえる確率が高いのです。

恐竜たちが見た「エデンの園」

被子植物はかなり進化したグループであり、その出現は植物界の中でも後発組です。知られている限りの史上最古の被子植物の化石は、中国にて発見された約1億6400万年前(中生代ジュラ紀)の花のつぼみです。一昔前では、被子植物は恐竜時代の末期に誕生したものと思われていましたが、当該化石の発見で定説は覆りました。この古代植物はフロリゲルミニス・ジュラッシカ(Florigerminis jurassica)と命名され、古生物学界に被子植物の進化史の再考を促しました。

昆虫が花粉を媒介者となり、被子植物の受粉を助ける。このような光景が、ジュラ紀にはすでに始まっていたと思われます。

現在のところは、恐竜たちが繁栄する時代の中で、地球上に花が誕生したと考えられています。令和初期までの恐竜図鑑とは違って、これからの書籍には、ジュラ紀の環境復元画の中に花が描かれるようになるかもしれません。
一般的に恐竜時代の風景と言えば、シダやソテツが生い茂る緑一色の風景のイメージが強いと思います。しかし実際は、エデンの園のようにカラフルな花の大地を恐竜たちも見たはずなのです。

約1億6000万年前の中国に生きていた植物食恐竜トゥオジャンゴサウルスの模型(福井県立恐竜博物館にて撮影)。近い時代に古代被子植物フロリゲルミニスが存在していたので、もしかしたら、いつかこのジオラマにも花の模型が添えられるかもしれません。

被子植物は動物たちとの関係を深めながら、勢力を拡大していきました。少なくとも白亜紀においては、被子植物はかなり多様化しており、昆虫や古代の鳥類、もしかすると小型の恐竜も花粉の媒介者になっていたかもしれません。
新生代に突入すると、環境激変が度々起こり、気温の変化が何度も地球を襲いました。その中にあっても、被子植物は最も反映している植物であり続けました。これは彼らの生存戦術が極めて有利に働いていた結果だと思われます。

ヤシ類の一種サバリテス属の化石(豊橋市自然史博物館にて撮影)。この葉の持ち主はかなりの巨木であり、約5000万年前(新生代中新世)のアメリカに生えていました。
新生代後期のクスノキの化石(山形県立博物館にて撮影)。大きな木であるクスノキは裸子植物だと思われがちですが、花を咲かせる被子植物なのです。

シダ植物や裸子植物にとって、動物は自分を食べる敵のような存在です。しかし、被子植物は動物を繁殖のパートナーに選ぶことで、揺るぎない繁栄を手に入れました。他の生き物と共同して栄華を築く姿からは、大きな生命の可能性を感じることができます。
多様性を極め、地球の大地を覆う被子植物。彼らの中には、我々の想像を超えるダイナミックな種類が存在しています。

現代の巨大被子植物

ショクダイオオコンニャク ~限られた時間に咲き誇る世界最大の花!~

「なんでいきなり古代から現代に飛んだんだ?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。実は、被子植物に関しては古代種よりも現代種の方が大きいのです

木にしろ草本にしろ、現代の被子植物にはとてつもなく巨大な種類がたくさんいます。あげればきりがありませんので、ここは被子植物のトレードマークである花に注目します。ということで、世界最大の花であるショクダイオオコンニャクを紹介いたします。

2023年、小石川植物園で咲いたショクダイオオコンニャクの巨大な花。わずか2日間しか開花しなかったので、見られた人は相当ラッキーです。

ショクダイオオコンニャクは、インドネシアのスマトラ島に生息するサトイモ科の被子植物です。数年間のうちに2日間ほどしか花は咲きませんが、開花したときのインパクトにはすさまじいものがあります。
なんと、咲いた花の高さは3 m以上、直径1.5 mにも達するという最大級のジャイアントフラワーです。ただし、これは花序(花の集合体)としての大きさであり、単体の花として見ればラフレシア(東南アジアに生息する寄生性の被子植物)が世界最大になります。現在のところ、ギネスブックにおいては「ショクダイオオコンニャクが世界最大の花」と記載しています。

ショクダイオオコンニャクの複葉(小石川植物園にて撮影)。人間の背丈よりも大きいです。なお、これは1枚の葉です

ショクダイオオコンニャクの葉は光合成活動を行い、地中のコンニャクイモに栄養分を貯蔵します。そして、準備が整うとイモから花芽が出て、約1ヶ月後に花を咲かせます。開花した後は、付属体(棒状の突出している部分)が発熱して臭いを出し、花粉の媒介者となる昆虫を引きつけます。
これほど存在感の強いショクダイオオコンニャクですが、先述の通り、花を咲かせるのはわずか数日間だけです。また、種子を撒いてから開花するまで14年以上かかると言われています。そのレアリティも、ショクダイオオコンニャクの神秘性を高めていると思います。

ショクダイオオコンニャクの生活環についてのキャプション(小石川植物園にて撮影)。風変わりな生態をしており、とても興味深い植物です。

スマトラ島の固有種であるショクダイオオコンニャクですが、日本国内では国立科学博物館筑波実験植物園や小石川植物園で栽培個体を見ることができます。自然界では生息数が非常に少なく、絶滅が危惧されています。ショクダイオオコンニャクに世界一の花を咲かせ続けてもらうためには、現地での繁殖・保全活動はもちろん、植物園での域外保全が必要不可欠であると思われます。

ポシドニア・オーストラリス ~長さ180 km! 海底を覆う大いなる草~

1本の木としては、裸子植物のセコイア類が地球史上最大の生物と言えます(少なくとも、高さでは間違いなくセコイア類が全ての生物の中でNo.1です)。しかし、地下に張り巡らされた根とクローン集合体のボリュームを総括すると、史上最大の生物は被子植物ということになります。

当該植物の名は、ポシドニア・オーストラリス。一般的に「海草」と呼ばわれる水棲の被子植物の一種です。特筆すべきは、根茎の拡大とクローン増殖によって形成された規格外の面積と全長です。
その長さたるや、100 mや200 mどころではなく、なんと180000 mにも及びます。180 kmというのは、山手線の路線の5倍以上の長さであり、1個体の生物として考えるなら文句なしに最大の生命ということになります。

ポシドニア・オーストラリスは、世界遺産であるオーストラリア州のシャーク湾にて繁茂しています。この海草の増殖方法とは、同じ遺伝子情報を持ったクローンの産生です。1本の根茎がどんどん伸びていき、そこから新しい草が無数に生えてくるのです。
西オーストラリア大学の研究チームの発表によると、シャーク湾のポシドニア・オーストラリスの年齢は4500歳。気の遠くなるような時間の中でゆっくりと根を伸ばし、ここまで広大な海草の原を形成したのです。なお、生殖ではなく根茎の拡大によって海草が生えてくるので、理論上は無限に大きくなっていく可能性があります

いかがでしたでしょうか。植物の驚異的な生態には、知る度に度肝を抜かれます。彼らの能力は人智をはるかに超えるものであり、これまで地球の歴史において、動物の進化に何度も影響を与えてきました。

私たちに大いなる恵みをもたらし、地球の生態系を支え続ける植物たち。植物がいるからこそ、我々は生きていけるのです。植物と共に生きていくことが、人類の繁栄の前提にあると筆者は考えます。

【前回の記事】

【参考文献】
八杉龍一, 小関 治男, 古谷雅樹, 日高敏隆(1996)『岩波 生物学辞典 第4版』岩波書店
種生物学会 編 (2001)『花生態学の最前線 美しさの進化的背景を探る』文一総合出版
巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也, 塚谷 裕一(2013)『岩波 生物学辞典 第4版』岩波書店
池谷和信(2014)『人間にとってスイカとは何か:カラハリ狩猟民と考える』臨川書店
大石航樹(2022)ナゾロジー 史上最古の「花のつぼみ」の化石を発見! ダーウィンも悩んだ花の登場時期に新たな答え https://nazology.net/archives/103379 
Odd News(2022)「世界最大の植物、オーストラリアで発見 クローン繁殖で全長180キロ」https://www.cnn.co.jp/fringe/35188353.html
にほんまつ動物病院 地球と生命の誕生と進化「13.被子植物の誕生と恐竜の絶滅(中生代後半)」https://nihon.matsu.net/seimei/13.hisi_zetumetu.html 
フラワーパークかごしま 花図鑑 ショクダイオオコンニャク https://www.fp-k.org/hanazukan/4461/


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