見出し画像

全国水族館の旅⑭世界のメダカ館

まず最初に一言。メダカはすごいです!
水族館に来る人の多くはメダカよりも他の生き物に注目するかもしれませんが、メダカの多様性と神秘はとても奥が深いです。
さらに、彼らは科学の発展にもかなり貢献しています。メダカはスペースシャトルに乗って宇宙へ行ったことがあり、地球外での繁殖に成功した初めての脊椎生物です!
そんなメダカのすごさと秘密を学べる水族館が、名古屋の東山動植物園の中にあります。


世界中のメダカと淡水魚が名古屋に舞う!

世界のメダカ館は1993年にオープンした水族館であり、生き物好きや水族館好きが大満足できる素晴らしい学術施設です。来館すると「メダカってこんなにすごかったの?」と驚くことでしょう。
水族館は観光地として有名な東山動植物園の敷地内にあり、名古屋中心街からのアクセスは容易です。名古屋駅から地下鉄東山線に乗って、星ヶ丘駅へ向かいましょう。そこから坂道を少し登れば、東山動植物園に着きます。

星ヶ丘駅から東山動植物園の入口までは徒歩5分程度。名前の通り、動物園や植物園も入っています。

園内の景観は自然と調和しており、水族館に着くまでの情景を楽しめると思います。植物園に立ち寄ってゆったりと癒されるのも大いにありですね。

東山動植物園には、庭園のような風情あふれるエリアがあります。生き物との出会いを求める人だけでなく、写真が趣味の人も大勢訪れます。

メダカ館は東山スカイタワーの近くにありますので、タワーの方へ進んでいけば問題なく到達できると思います。
近辺には、多くのユニークな生き物を展示している自然動物館があります。水棲生物の展示もありますので、水族館好きの人はメダカ館とセットでの観覧をオススメします。

高さ214 mに達する東山スカイタワー。メダカ館を目指す際の道標の1つとなります。
もちろん、ここまで来たからにはスカイタワーの展望台に上がりました。名古屋の街がよく見えます。
スカイタワーの真向かいにある自然動物館。ここにもかっこいい生き物たちが飼育展示されていますので、ぜひ訪ねてみてください。

スカイタワーから2~3分ほど歩けば、世界のメダカ館はすぐそこです。一般的な存在に感じられる一方で、実は我々がまったく知らなかったメダカの秘密を学びにゆきます。

メダカの飼育種数は世界一。他にも、数々の淡水魚が展示されています。

知れば知るほどハマるメダカの世界

里山の水域に棲む魅力的な小魚

田舎の河川に遊びに行ったとき、誰もがイワナやヤマメのように大きな魚を見つけては大興奮するでしょう。最初からメダカをターゲットにしている人は、よほどの魚マニアです。
そんな彼らのイメージを払拭するほど、本館のメダカの学術展示は濃密で魅力的です。まずは、メダカの基礎知識をじっくりと学びましょう。

エントランスホールの水槽。メダカを含めて数種類の淡水魚が展示されています。
来館者が最初に会うのは「名古屋メダカ」。純粋な名古屋産個体の血を継ぐメダカたちです。現在の名古屋市内ではほとんどメダカが見られないので、この子たちはとても貴重です

メダカ自体は知っているけど、どういった魚なのか説明できる人は少ないと思います。本館では、大きくわかりやすいキャプションを用いて、メダカたちの特徴・生態・現在の生息状況について解説してくれています。

大きくてわかりやすいキャプション。図と写真でメダカについて多くの情報を提供してくれます。
生息地の変化や外来種の侵入によって、メダカたちは数を減らしています。キャプションの解説から、メダカたちの好適な環境について考えてみましょう。

なお、メダカはサンマと同じダツ類に属しています。少しずつ塩分を加えて馴らしていけば、海水でも生きられるようになります。本館の水族展示では「海水で生きるメダカ」を実演してくれています。
もうすでに、メダカの不思議な魅力に引き込まれそうになりますね。

メダカとクマノミが同じ水槽に泳いでいる? そう、メダカは少しずつ馴らすと海水でも生きられます。川が増水して海に流されても、自力で帰ってこられるのです。
メダカの飼育に必要な道具についても紹介してくれています。右側の毛糸は採卵用の道具。毛糸を水槽内に入れておけば、メダカが毛糸に産卵してくれるので、卵を効率よく回収することができます。

まだまだ展示は序盤戦。メダカたちの世界にどっぷり入る前に、ここで日本の清水に棲む淡水生物たちが出迎えてくれます。本館にはホトケドジョウやハリヨなどの希少魚類が展示されていますので、ぜひしっかりと目に焼きつけたいところです。

メダカ以外の水棲生物の展示エリア。スロープを進みながら上の階を目指していきます。
有名な魚種から貴重な絶滅危惧種まで幅広く展示してあります。メダカ以外の水族展示においても、淡水生物水族館として素晴らしいクオリティです。

タナゴ類が多いので、(おそらくかなりの数がいるであろう)タナゴファンにはとってもオススメです。魚マニアの人ならば、彼らの違いを見比べるだけでもかなり楽しいですね。

絶滅危惧種のスイゲンゼニタナゴ。他にも多くのタナゴ亜科を展示しているので、タナゴファンは大喜びですね。
大型魚も飼育されています。こちらのニホンウナギは、いい感じにポーズを取ってくれました。
水槽の中にいるヌマエビや巻貝類にも注目してください。彼らが魚の食べ残しを藻類を食べてくれるので、水槽内は常にきれいに保たれているのです。

楚々として麗しい国内の水棲生物を見たら、いよいよ世界へ飛び出しましょう。神秘的で妖艶な海外のメダカたちとの出会いが始まります。

驚異の多様性! 海外産のメダカ大集合!!

本館は、メダカ研究において目覚ましい活躍をしているハイレベルな学術施設です。大学と共同で海外のメダカを調査し、新種を次々と発見。それらを飼育・研究することで、彼らの進化の秘密にも迫っています。

本館は琉球大学と共同研究を行い、インドネシアにて新種のメダカを発見しています。そのうえ、新種のメダカたちを飼育し、種の保全面でも学術界に大きく貢献しているのです。
複数の区画にて世界のメダカたちを飼育展示。その数はとても多く、メダカの多様性には本当に驚かされます。

展示室に入った途端、日本種とはまるで違う数々の海外産メダカたちに驚かされるでしょう。色や形はもちろん、大きさまでもが異なります。
本記事では、ほんの一部の種類をご紹介します。百花繚乱とも言うべき海外のメダカたちの舞を皆さんにも見ていただきたいので、ぜひ本館を訪れて全てのメダカたちと対面しましょう。

メコンメダカ。東南アジアのメコン川の流域に棲むメダカです。日本のメダカに比べて、鮮やかな色合いをしています。
テイウメダカ。インドネシアのスラウェシ島のテイウ湖に棲んでいます。スラウェシ島のメダカは、ほとんどが固有種です。
スラウェシ島に棲むランダンギメダカ。2022年に発見された新種のメダカです!
ネブローサスメダカ。オスの色は黒味が強いです。スラウェシ島のボソ湖に生息しています。
ポプタメダカ。全長14 cmにも達する世界最大のメダカです

紹介できていないメダカは、まだまだたくさんあります。さらに言うと、ここでしか会えない海外産メダカがたくさんいます。淡水魚好き・生き物好きならば、これほど希少で美しい魚たちの共演を見逃す手はありません。

膨大な数の海外メダカについて、その特徴を個々にキャプションで解説してくれています。地域ごとに異なる生態があって、とてもおもしろいです。

これほど多様性に花咲いた理由はいったい何なのでしょうか。
その秘密も本館で研究されており、それぞれのメダカのDNAの塩基配列を比較分析することにより、メダカたちの進化の謎に迫っています。メダカの世界って、本当に奥が深いですね。

メダカの進化についても、明瞭なキャプションで体系的に学べます。メダカの秘密を幅広く知ることのできる素敵な水族館です。

そして、本館では「メダカのそっくりさん」についても紹介してくれます。
それはカダヤシ類というグループです。かつてメダカと同じグループに分類されたこともあり、系統的に近縁な仲間たちです。カダヤシ類にもかなりの多様性があり、世界各地の個性豊かな種類が本館で飼育展示されています。

カダヤシ類の展示室。水槽の数を見ればわかるように、メダカたちにも劣らぬ驚異的な多様性です。
こちらは1階に展示されているカダヤシ。もともとボウフラ駆除のために台湾から導入されました。現在において、田んぼの水路などではメダカよりもカダヤシの方が多くなっています。
フンデュロパンチャクス・ガルドネリ。カダヤシ類の中には、人気の高い熱帯魚が数多くいます。
ポロパンチャクス・ノルマニ。目の上の部分が光を反射しているので、大きな目のように見えます。
ヨツメウオ。彼らもカダヤシの仲間です。目の半分を水面上に出しており、鳥などの天敵を早期発見することが可能です。

とても嬉しいことに、カダヤシ類の興味深い生態についても、キャプションで詳細に学ぶことができます。メダカもカダヤシも学術面や飼育面でとても魅力的な魚であり、我々を強く惹きつけています。その素晴らしさを本館の展示で再発見できるのです。

カダヤシ類の産卵についての解説。卵ではなく稚魚を産む「卵胎生」の種類が、カダヤシの仲間では多く見られます。
水槽上部には多数のキャプションパネルが見られます。専門的な概念も詳しく説明してくれるので、とても理解しやすいです。

最後に、本館の素晴らしき活動をお伝えしたいと思います。水族館の職務の1つである教育面につきまして、様々な面で精力的かつ広範に取り組まれています。
本館では一般層を対象としたメダカ講座、子供たちと共に実施するメダカの保全活動などを実施し、貴重なメダカたちを守るために日々努めておられます。活動の輪がどんどん広がっていけば、一昔前のように、普通にメダカたちと出会える里山の水辺が戻ってくることでしょう。

名古屋市内の小学生と共に、貴重な名古屋市産メダカを繁殖させる環境教育「名古屋メダカ里親プロジェクト」。希少メダカの域外保全を行うだけでなく、子供たちに命の尊さを知ってもらう狙いもあります。
環境問題についての解説パネルもあります。プラスチックごみは、地球規模の大問題であり、これを放っておいては自然環境の浄化は叶いません。
河口にて回収されたプラスチックごみ。プラスチックは細かくなって、環境中に拡散していきます。それにより、プラスチックを食べた生き物たちが死んでしまう事態につながるのです。プラスチックごみは自然環境中では分解されにくいので、我々人間が改善策を実施するしかありません

メダカの世界は、小さな宇宙のように奥が深いです。メダカを探究・保全し続ける本館は魚類学において超重要な水族館であり、今後の研究活動の成果がとても楽しみな学術施設だと思います。来館後、メダカにハマる魚マニアが続出しそうです(笑)。

世界のメダカ館 総合レビュー

所在地:愛知県名古屋市千種区東山元町3-70

強み:メダカに特化したマニア心をくすぐる展示内容、あらゆるメダカの飼育・研究によって培われた権威レベルの圧倒的な学術的知見、多種のメダカを含めた美麗な世界中の淡水魚たち

アクセス面:東山動植物園には広い駐車場がありますので、中部地方にお住まいの方は自家用車で来館するのがオススメです。電車移動の場合、地下鉄の東山線で向かい、東山公園駅または星ヶ丘駅で降りましょう。入園後は東山スカイタワー付近まで徒歩移動となりますが、園内には多数の見どころや休憩所があるので、それほど疲れることなくメダカ館まで辿り着けると思います。

メダカ専門の研究施設としてはもちろん、淡水生物の飼育展示施設としても超ハイクオリティな素晴らしい水族館です。形態もカラーリングも多様なメダカたちの姿に、きっと誰もが見とれてしまうでしょう。学術的に重要な種類が多く、1つ1つの種類をじっくり見ていただきたいと思います。加えて、キャプションの情報も濃密であり、メダカの生態や進化に関する知識が一気に増えます。
タナゴ類やナマズなど淡水水族館の主要な魚たちも多数飼育されているに加え、他の施設では着目されることの少ないカダヤシ類の生体展示が豊富なのは非常に嬉しいところ。これを機に、カダヤシ類の多様性についても来館者の方々に知っていただきたいと思います。

メダカという1つの生物でこれほど壮大な展示ができるのは、水族館スタッフの知識と努力の賜物でしょう。本当にメダカを愛する人々によって生み出された水族館なのだと、誰もが心から理解できます。

先述の通り、近くの自然動物館にも水棲生物の展示があります。特に爬虫類・両生類マニアにオススメです。ナイルワニ、超絶かっこいい!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?