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全国自然博物館の旅㉗みどり市大間々博物館

生き物を探求するために博物館に通い続けると、いつの間にか、それが高じて「博物館好き」になっていたりします。そういった段階になると、町角のレトロな博物館にも積極的に見て入りたくなります。
地域博物館は郷土の自然研究に力を入れているので、来館してみるとマニア垂涎の大発見が多々あったります。今回は、楽しい学びと地方の暖かみがあふれる博物館を訪れました。


町角の博物館で学ぶ太古の記憶

博物館好きの人は「大きな博物館に行って恐竜をたくさん見たい!」という段階を越えると、規模の大小に関係なくコアな学術施設に関心を抱くようになります。郷土研究に特化した地域の博物館はマニアックな標本や展示を有していることが多く、歴然の生物マニアがワクワクして来訪します。
今回の舞台は、群馬県みどり市の大間々町。高崎市でレンタカーを借りて、いろいろな学術施設を巡りながら来ました。

電車で来訪する場合は、上毛電気鉄道の赤城駅が最寄りとなります。レンタカーを借りて、他の名所へハシゴするのもいいかもしれません。

タイミングよく、筆者が訪れた日は大間々で町をあげてのイベントが行われていました。たくさんの露店が道路に並び、広場では大がかりなショーなどが開かれていました。
もちろん筆者は食べ歩きしました(笑)。暖かい町の空気、いいですねえ。

筆者が訪れた日は、大間々の町主催のイベントが執り行われていました。博物館に至る道路は歩行者天国!
たくさんの露店やキッチンカーで大盛況。町の商店も賑わっていました。みどり市の活気に感動です。
宿場町として栄えた大間々。昔懐かしい日本を感じさせる建築物が、町の各所で見られます。博物館に向かいながら、町歩きを楽しんでみるのもいいと思います。

赤城駅から車で3分ほどのところに、みどり市大間々博物館が位置しています。駐車場は博物館から少し離れたおり、標識に従って指定の駐車場に車を停めにいきます。
レトロな建屋に相対すると、大正時代にタイムスリップしたかのような感覚に見舞われます。

大正時代に建てられた銀行を博物館に改装。こういったレトロな雰囲気、通な博物館好きにはたまりませんね!
建物の側のオブジェには「コノドント館」と表記されています。本館がこう呼ばれている理由については、展示の観覧によって明らかとなります。

マニア大満足! 発見と感動に満ちた地域の総合博物館

地域自然から世界の化石まで広範な展示内容

群馬県には尊く豊かな自然環境があり、個々の地域を美しく彩っています。緑広がる大間々町では、四季を通じて様々な生命と出会えます。
本館の展示のトップバッターは、みどり市東部の大地に息づく野生の命。様々なタイプの展示資料から、本地域の自然の特色を学びましょう。

大間々に生息する動植物の写真。群馬県には、豊かな自然が広く残されています。大間々町の地域環境も、大切な地球の財産です。
ツキノワグマとニホンイノシシの頭骨。どちらも雑食動物ですが、見比べてると構造的な違いがよくわかります。
淡水魚の剥製標本。大間々町には渡良瀬川が流れており、おいしいイワナやヤマメが生息しています。

野生動物の標本展示では、剥製がメインとなります。他の多くの博物館と同じように、ジオラマと剥製を組み合わせることで、野生動物の生息環境がリアルに再現されています。

動物剥製を用いたジオラマ。ニホンジカをはじめ、たくさんの鳥獣が大間々に棲んでいるのです。
丘陵地にはツキノワグマも生息しています。どのようにして彼らと共存していくのか、我々にとって大きな課題です。
オオタカの幼鳥。剥製標本はどれも活き活きとしていて、生き物を観察しにフィールドへ行きたい気分になります。

本館には、かっこいい恐竜たちの骨格もあります。多くは有名な海外のスターたちで、来館者の子供たちもきっと興奮するでしょう。レトロモダンな博物館の中で恐竜を見る体験、本当に幸せです。

大型肉食恐竜タルボサウルスの頭骨。人間を丸呑みにできそうなほどの大きさです。
小型肉食恐竜ヴェロキラプトルの全身骨格。軽快さの伺えるフォルムです。
大型植物食恐竜アパトサウルスの大腿骨。太ももの骨1本だけで人間の体よりも大きいので、恐竜のスケールには改めて驚かされます。

大型恐竜たちは強さとかっこよさが魅力。壁側の大型ガラスケースには、凛々しい恐竜たちの頭骨が並べられています。
頭骨からは口の構造だけでなく、脳の大きさや耳の器官の形などもわかります。解剖学的な構造研究は、恐竜たちの食性や生態について多大なる理解をもたらしてくれるのです。
恐竜たちの個性的な顔を見比べてみると、きっと大きな学びがあります。

頭頂部の分厚い石頭恐竜パキケファロサウルス。レプリカとはいえ、迫力とかっこよさは見ごたえ抜群!
ドラゴンのごとくかっこいいイケメン肉食恐竜アロサウルス。ティラノサウルス類よりも軽量な頭骨をしています。
武装が施された植物食恐竜サイカニアの頭部。全身の復元画像も一緒に展示されているので、生きていたときの姿がイメージできます。

化石マニアの皆さんが気になるのは、収蔵されているコアな標本の内容だと思います。本館には世界の化石コーナーがあり、区画内の展示標本は大半が実物化石です
かくいう筆者もマニアの1人。純粋に興奮して、標本1点1点を楽しみました。

世界の化石の展示コーナー。復元イラストや模型と合わせて、各時代の古生物を詳しく紹介してくれています。
白亜紀のブラジルに生きていたコオロギの仲間の化石。見事な保存状態です。
シロアリ類の入ったマダガスカル産のコハク。コハクは樹液の化石であり、昆虫などが混入した標本もあります。
博物館で化石マニアが気になるのはアンモナイト。復元模型も含めて、たっぷり楽しみましょう。
古生代の代表的生物・三葉虫についての展示。実物化石に加えて、生活様式のイラストや模型を使って解説してくれるという豪華な内容!

世界の化石コーナーということで、貴重な恐竜の標本も展示されています。ほとんどが実物化石ですので、しっかりと目に焼きつけておきましょう。ガラスケースの中から、恐竜たちの息吹が聞こえてきそうです。

モロッコで発見された肉食恐竜スピノサウルスの歯の化石。泳ぎの得意な大型獣脚類であり、成体の全長は15 m以上に達しました。
植物食恐竜サルタサウルスの卵の殻。改めて申しますが、実物の化石です!

主役はコノドント! 古代環境の語り部の声を聞こう!!

本館の二つ名は「コノドント館」。この愛称を聞いた時点で、化石マニアは本館へ行きたい衝動に駆られると思います。
コノドントは太古の微小な歯状化石の総称であり、「コノドント動物」と呼ばれる古生物の歯だと考えられています。世界中の約6億年~約1億8000万年前の地層から発見されており、持ち主の正体は謎のままでした。現在の見解では、コノドント動物とは原始的な脊椎動物であるとされています。

実は、大間々町はコノドントの聖地なのです。1953年、大間々町にて日本で初めてのコノドント化石が発見されました。つまり、日本の古生物学にとって、本館は極めて重要な施設と言えます。
聖地ということもあり、本館のコノドント展示コーナーは、かなりの特別感があります。化石も模型もキャプションもイラストも超充実しており、コノドントの実像を詳しく理解できます。

コノドント展示コーナー。あのコノドントをこれほど専門的に展示してくれている博物館があるとは、マニアは心から大感激!
コノドント器官の化石の拡大模型。実物は顕微鏡で見ないとわからないほど微小です。
コノドント動物の復元模型。原始的な脊椎動物が正体であると考えられています。
コノドント動物の復元図。浅い海域に棲み、小型の海洋生物を捕食していたと思われます。
コノドント器官はあまりにも小さいため、実像を詳しく見るには顕微鏡が必須となります。レンズ越しに実物の化石を見て、コノドントの不思議を感じてください。

コノドントの化石が見つかっているという事実からお察しの方もいらっしゃるかもしれませんが、群馬県は多種多様な生物化石の産地でもあります。
ここからは地域博物館の醍醐味、県内で発見された化石のラッシュです。コノドント動物と同じ古生代の生き物だけでなく、新生代の地層から出土した標本も見ることができます。化石の宝庫、群馬県の懐の広さを感じてください。

群馬県内で発見された化石。古生代の海の生き物が多数見つかっており、彼らはコノドント動物と同じ時代を生きていました。
ウミユリやフズリナの化石を含む岩。石灰岩が風化すると、岩の表面に化石が浮き出てきます。
新生代の貝類の化石。1971年、桐生市での採石作業の最中に大量の化石が発見され、マニアの間で有名スポットとなりました。

化石マニアの皆さんへの嬉しい展示は、さらに続きます。群馬県のみならず、関東地方の他県で採集された数々の化石が現れます。
関東には化石スポットがたくさん。本館で理解を深めたら、東日本における太古の聖地を訪れてみましょう。

千葉県で出土した完新世のヤマトオサガニの化石。とても丁寧にクリーニングされていて、甲殻がはっきりとみえます。
埼玉県や栃木県より産出した貝類の化石。関東には有名な化石産出スポットが多くありますので、採集旅行に出かけてみるのも超楽しそうですね。

化石の展示室を抜けると、壁面に大きな岩肌の写真パネルが出現。群馬県南部の神流町の恐竜スポット「漣岩さざなみいわ」の拡大写真画像です。白亜紀において、この地層は泥と砂の土壌であったと考えられ、恐竜の足跡が多数残されています。
漣岩を有する神流町は、恐竜化石の重要な産地です。当地には、恐竜専門の素晴らしい博物館「神流町恐竜センター」がありますので、ぜひ訪れてみてください(下記リンク参照)。

群馬県神流町の漣岩に刻まれた恐竜の足跡化石の写真パネル。神流町では、サンチュウリュウという恐竜の化石が発見されています。

コノドント館の異名は伊達ではなく、期待を大きく超えて超満足しました。博物館の素晴らしさとは規模ではなく、学術的な烈情を駆り立てる内容の強さだと感じました。
大間々町の魅力が詰め込まれた学術施設。コノドントを含め、古生物を愛する全ての化石マニアの方々に強くオススメできる施設です。

博物館のマスコットキャラクター「コノちゃん」と「ドントくん」。コノドント由来のキャラクターがいるとは、古生物マニア大感激です!

みどり市大間々博物館 総合レビュー

所在地:群馬県みどり市大間々町大間々1030

強み:コノドントを主役に据えた濃密な専門的解説展示、幅広い国と地域から収集・寄贈された貴重な実物化石標本、レトロな雰囲気に包まれた館全体の趣深い空気感

アクセス面:車での来館を推奨。旅行者の方は高崎市でレンタカーを借りて、様々なスポットを巡りつつ本館に向かうのが吉だと思います。上毛電気鉄道の赤城駅からは徒歩15〜20分ほどで到着しますので、電車での来館も十分可能です。なお、他の観光スポットを巡る時間は十二分に生まれると思いますので、赤城駅からレンタカーを利用することも視野に入れてみてください。わたらせ渓谷鐵道で自然景観を巡るご予定でしたら、そのまま電車旅を楽しみましょう。

レトロな雰囲気がたまらない地域博物館。大正時代の空気が香る空間で、化石・剥製標本を観覧する時間はとても特別に感じられます。博物館好きの人だけでなく、近代建築が好きな人も本館に吸い寄せられると思います。
「コノドント館」の愛称がつくほどコノドントについての展示は充実しており、化石マニアならばぜひ訪れておきたい施設です。加えて、世界の化石コーナーの標本はほとんどが貴重な実物化石であり、眼福の極みだと言えます。さらに、かっこいい恐竜たちの頭骨の豪華な展示もあり、全体的に見応えはかなり強いです。
地域博物館のすごさ、改めて実感しました。大衆向けな大型博物館も素晴らしいですが、ときには町の一角にある展示施設も訪れてみてください。きっと、その博物館だけが持つ魅力を味わえるはずです。

2階は人文科学の展示室となっており、大間々町の歴史や民俗について学べます。郷土文化を詳しく知るには、地域博物館を訪れるのが一番ですね。

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