見出し画像

全国自然博物館の旅⑲富山市科学博物館

筆者は北陸地方が大好きです。おいしいものを食べたり、標高3000 mクラスの山に登ってライチョウを見たりと、富山県でいろいろな思い出を作りました。
超高山と雄大な日本海を擁する富山県は、贅沢なほど多種多様な生命であふれています。標高差の異なる環境が複雑に絡み合って築かれた生態系は、まさに奇跡のようです。その不思議で魅力的な自然科学を学べる博物館が、富山市内の街の中に立っています。


富山県の中心部に立つ自然科学の伝導館

富山県の大いなる自然科学の学術拠点。それは、大きなビルが立ち並ぶ富山市内に位置しています。富山市は都会と地方のバランスがちょうどよいと筆者は感じており、きれいな建物が自然と調和しているように思います。

スタートはJR富山駅。東京方面にお住まいの人は、北陸新幹線で来ましょう。
駅前からでも北アルプスの峰々が拝めます。この開放感が魅力的。
静かに流れる水路も風流ですね。街歩きやお店巡りをしていたので、すっかり夕方になってしまいました。

富山市があまりにも美しかったので、ついつい街歩きに熱中してしまい、時刻は夕方(笑)。博物館の近場のホテルに宿泊し、朝一番で来館することにしました。

ホテルをチェックアウトした後、徒歩でゆっくりと城南公園へと向かいました。公園に入ってすぐに見えたのは、知の雰囲気にあふれる富山市科学博物館です。

富山市科学博物館。古代から現代の自然、そして宇宙まで学ぶことができる施設です。自然科学の学習はダイナミックにいきたいですね。
いかにもアカデミックな博物館の外観。富山県の大自然を学びまくりましょう。

トンボさん一家と自然科学の大冒険へ出発!

富山県の大地に眠る恐竜・古生物たち

エントランスホールで出迎えてくれるのは、かっこいいナウマンゾウ復元模型と全身骨格。楽しくわかりやすいキャプションと合わせることで、来館者の興味をそそってくれます。

ナウマンゾウの復元模型と全身骨格。現代のゾウより小柄ですが、牙がとても長いので、迫力では負けていません。
ナウマンゾウとマンモスの違いについての解説。図を用いた説明がとても明瞭。

博物館の花形と言えば、誰もが胸こがれる恐竜たちの化石!
来館者と共に太古の富山県の謎に挑むのは、本館のオリジナルキャラクター「トンボさん一家」です。恐竜化石を狙う探究心旺盛なお父さん(主人公)、美人のお母さん、ITに強い息子さんの3人です。古生物学の魅力に迫っていく一家の姿が漫画形式で描かれるので、とても親しみやすく、スムーズに展示内容を理解することができます。

古生物展示エリア「とやま・時間」。富山県にはどんな恐竜たちがいたのでしょうか。
旅の仲間・トンボさん一家。どれだけ失敗しても恐竜化石の発掘に挑み続けるお父さんが最高!

展示標本はとても多く、見ごたえ抜群です。古生代から生命の進化を学びつつ、恐竜時代までの激動の歴史を学びましょう。
アンモナイト、古代昆虫、古代魚類といったマニア垂涎のラインナップ。不思議な形態をした古生物たちの共演を楽しめます。

系統樹を用いて、生命の進化を解説。生物群同士の系統関係が視覚的にわかります。
石炭紀の巨大トンボ、メガネウラ。古代昆虫の迫力と大きさには、改めて驚かされます。
化石標本にイラストをトレースすることで、アンモナイトの殻の構造を解説。キャプションの内容も興味深く、秀逸な展示だと思います。
硬い体を誇る甲冑魚ボスリオレピス類。甲冑魚の仲間は種類が多く、古生物ファンからかなりの人気があります。
順路を進んでいくと、展示標本も古生代から中生代へと変わります。いよいよ恐竜の登場。アロサウルスかっこいい!

恐竜たちが生きていた時代、富山県は大陸の一部でした。私たちが図鑑で見るような恐竜たちの世界が、富山の大地に広がっていたのです。
いよいよ中生代の地球を学ぶときです。動く恐竜模型「ティラちゃん」と富山県産の恐竜たちが待っています。

2分の1スケールのティラノサウルス模型「ティラちゃん」。台座にタッチすると動いて吠えてくれます。
小型肉食恐竜コンプソグナトゥスの骨格。その軽快な体は、彼らが活発なハンターであったことを教えてくれます。
富山県で発見された恐竜の歯牙化石のレプリカ。様々な種類の恐竜が古代の富山県を闊歩していた証拠です。

富山県の大地には、1億1000万年前(白亜紀前期)に刻まれた恐竜たちの足跡が発見されています。産出現場の状況が再現されているだけでなく、恐竜たちがどのようにして足跡をつけたのか、映像展示で視覚的に説いてくれます。
恐竜たちがどのように歩いていたかを学ぶこともできるので、とても理解しやすい展示手法だと思います。標本展示と同じくらい、映像の持つインパクトも大きいですね。

古代の富山を歩いたアンキロサウルス類の足跡の再現。恐竜が大地に刻んだ生活の跡です。
後方のスクリーンに恐竜が出現。歩き方をじっくり見てみましょう。
足跡のつく様子についても、映像で詳しく知ることができます。歩き方や足跡の形は、恐竜の種類によって様々です。

富山県では、新生代の生物化石も豊富に発見されています。約1600万年前の地層からは、暖かいマングローブ林の干潟に生息する貝類の化石が発見されています。つまり、当時の富山県には、沖縄のような暖かい海が広がっていたのです。
キャプションと一緒にトンボさんの漫画を読んで、彼と感動を分かち合いましょう。

富山県の約1600万年前の地層から発見された貝類の化石。写真右上のムカシセンニンガイはマングローブ林の干潟に棲む貝類であり、大昔の富山には暖かい海があったことを示しています。
半水棲哺乳類デスモスチルスの復元模型。富山県の海が暖かかった時代、デスモスチルスの仲間が沿岸域に生息していました。
展示区画の各所に配されたトンボさんの漫画。見事な貝類の化石をゲットしたトンボさんですが、彼は意地でも恐竜の化石を発見したい模様です(笑)。

富山県が誇る大地の遺産と言えば立山連峰。この巨大な山々には、天然記念物のライチョウをはじめ、数多くの生き物が暮らしています。その環境が形作られた過程を、見やすく明瞭なキャプションで解説してくれます。

富山県が誇る生命豊かな高山・立山連峰の成り立ちについての展示。本館の立山への愛が伝わってくるほどの充実っぷり。
トンボさんの漫画はとてもおもしろくて、思わず見入ってしまいます。なお、立山にてトンボさんが発見したのは恐竜の爪痕ではなく、流動する氷河が岩肌につけた擦痕です

古代から現代までの富山県の成り立ちを深く理解できる素晴らしいエリアです。富山県に恐竜と出会える大地があると知ったら、トンボさんみたいに探しに行きたくなりますね。
そして、トンボさんとは富山県の自然環境ついての展示エリアでも出会えます。次も大活躍を期待してしまいますね(笑)。

トンボさん、山の地層の中からついに恐竜を発見? その真偽は、ぜひ博物館を訪れてご確認ください。

高山は生き物でいっぱい! 富山県が誇る天空の生物王国

続いては、2階の展示エリアへ。
先述の立山連峰には標高3000 mを越える超高度地点もあり、まさに天空の世界です。そこには、私たちが普段見ることのない高山性の生命がたくらん暮らしています。富山県の博物館だからこそ、高山生態系について詳しく濃密に解説してくれます。

大型ジオラマ満載の2階展示エリア。剥製との組み合わせで迫力抜群です。
こちらでもトンボさん一家登場! とても心強く感じられますね(笑)。

立山連峰を訪れる観光客が求めるのは、大自然の絶景! そして天然記念物のライチョウです!!
2階のジオラマ展示では、剥製で可愛いライチョウの姿を拝むことができます。彼らの生態や現在の生息状況についての情報も、キャプションでしっかり学べます。

夏毛のライチョウの剥製標本。飛ぶことはできず、ハイマツという背の低い植物の下に隠れて身を守っています。
冬毛のライチョウ。高山や寒冷地の動物の中には、雪景色に擬態するために、冬季に体毛が生え替わる種類もいます。
ライチョウの天敵は猛禽類。高山の天空から獲物を探し、ものすごいスピードでライチョウに襲いかかります。

高山に行くと、必ず興奮するのは昆虫マニア! 麓の世界とはまったく違う、天空の世界に棲む個性的な虫たち。夏が短い高山でも、彼らはたくましく命をつないでいます。

ドイツ箱に立山の写真を貼って、昆虫標本を活き活きと見せています。高山のどのような環境で虫たちが暮らしているのか、視覚的に学ぶことができます。
クロセンブリ。亜高山域の弥陀ケ原で捕獲された個体です。
高山に棲むカオジロトンボ。高山地域の生き物を見る機会は少ないので、本当に興奮します!
高山の花に集まるタカネベッコウハナアブ。ハナアブは本当に可愛いです。
雪山に暮らすセッケイカワゲラの仲間。セッケイカワゲラは冬のスキー場にも生息しています

標高の高い地域には、ユニークな高山植物が生えています。ある高度になると「森林限界」というラインに達し、それより高い場所には背の高い木は1本も生えません(代わりにハイマツなど背の低い裸子植物が生えています)。登山が趣味の人ならおわかりだと思いますが、標高2500 mあたりになると、アルプスのような見渡す限りの草原が広がっています。
本館では、亜高山地域や高山地域に生える植物を標本やジオラマで見ることができます。立山連峰の山の中では自然を荒らしたり、みだりに動植物を採ることはご法度ですので、標本をじっくり見るならやはり博物館がベストですね。

植物標本が壁にズラリ。見やすさと美しさが両立されていますね。
コケ類の液浸標本。高山にはどんなコケが生えているのか、興味深いですね。
森林限界より下の高度では大きな木々が生えています。ダケカンバはスキー場などの山でも見られる樹木です。
奇怪な形の木の模型ジオラマ。枯れたスギの上に他の植物の種子が落ちてきて、新たに発芽・成長している姿です。森の中では、至るところでこのような世代交代が行われています。
森の生命のサイクルについて詳細に説かれたキャプション。富山の豊かな山々をイメージしながら、自然界の営みを学びましょう。

豊かな植生があるのなら、山林の生態系には多くの動物たちがいます。たくさんの山が連なり、果てしない緑が続く富山県の生命は、とても多様です。本展示エリアでは大小問わず様々な生き物たちの標本や資料が取りそろえられており、総合的に生態系を理解することができます。
多種多様な山と森の生命。活き活きとした展示を見れば、富山県の大自然の中へ飛び込みたくなりますね。

林床に座るニホンカモシカ。休みながら食べ物をゆっくり消化している姿の再現ですね。
成体と幼体の剥製を用いた、子育て中のニホンザルの展示。サルの糞の造形物も一緒に展示されており、自然界での暮らしぶりをはっきりとイメージさせてくれます。
クロサンショウウオの模型と卵の写真。寒冷地に生息する両生類です。雪解け水が溜まった池などに卵を産みます。
大型のカタツムリ、クロマイマイ。大型種は湿った場所でないと生きていけないので、富山県のような降雪量の多い日本海側地域に暮らしています。
鳥類などの森に棲む多種の生き物たち。展示標本の膨大な数から、山林の生態系の豊かさがよくわかります。

富山県の山林は超広大であるため、本エリアにも膨大な学術的資料が展示されています。ぜひ、心から納得するまでじっくりと楽しんで見ていただきたいと思います。
参考になるのは、不屈の探究心を持つトンボさん。彼のスタンスは、全ての自然科学を学ぶ人の指標になると思います。

展示スタイルにはかなりの工夫が見られます。朽木の模型を設置し、そこに合わせて木を食べる昆虫たちの標本が展示されています。
トンボさん一家の漫画は、各キャプションのすぐ側にあります。新種発見を目指して奮闘する姿に感動!

無数の生命と出会える富山の水域環境

高山から海へと続く壮大な水環境が富山県にはあります。標高3000 mクラスの山々の上流から日本海へと続く水の流れには、様々な生命が息づいています。次なる展示エリアでは、それぞれの水域に生きる動植物に出会えます。

広々とした展示エリア。富山県の水域環境の秘密が学べます。
トンボさん一家の冒険も続きます。富山県の水がつなぐ、人類と生き物たちの物語です。
天井からは、富山県に生きる多種の鳥類が吊り下げ展示されています。翼を広げた剥製は、とても凛々しいです。

上流から下流へと、水と生命の流れを辿る旅が始まります。立山連峰から標高の低い地域へと下がりつつ、それぞれの高度の地域に生息する生き物たちを紹介してくれます。
展示マップ上の場所ごとに、そこに棲む生物たちの標本が配されています。山岳地と人里で生物相にどのような違いがあるのか、仔細にわかります。

マップの上に配された生き物の剥製・液浸標本。とても長大で、情報満載な展示です。
立山連峰のマップ上に設置されたカワガラスの剥製。渓流を泳ぎ、水中の小動物を捕食します。
高山から流れた川は、平野の田園地帯へと注ぎます。アユやオイカワといった、お馴染みの淡水魚が現れます。
水棲昆虫は液浸標本にて展示。同じトンボでも、ヤンマ類とサナエ類ではヤゴの形態が異なります。
水域環境の展示には、トンボさん一家の漫画もたくさん。トンボさんの言う通り、「恐るべし、富山の自然」ですね!

人にとって身近な自然と言えば、小川や雑木林。小さな昆虫から強大な猛禽類まで、たくさんの生き物が関わり合って暮らしています。私たちが生物を観察する機会の多い場所ですので、改めて里山や小川の自然環境について学びましょう。

雑木林に棲む鳥類や哺乳類の剥製。かっこよくポージングされた猛禽類に見惚れてしまいます。
貝類や両生類の標本展示。ホクリクサンショウウオは卵の模型付きです。
哺乳類の剥製もポージングが工夫されています。特にキツネがかっこいい。
アズマヒキガエルの産卵シーンを模型ジオラマで再現。他にも、複数の生き物の暮らしのワンシーンをジオラマで見ることができます。
小川に生きる動植物たちの模型・標本展示。魚だけでなくヒル類にも注目していただきたいです。

川からさらに水が流れ着く先は、富山湾の海です。おいしい幸がいっぱいの富山湾には、数えきれぬ生命が暮らしています。本エリアでは浜辺から沖合まで、あらゆる種類の海洋生物を紹介してくれるうえに、展示スタイルにも工夫があふれていて見ごたえがあります。

富山の海に生息する海洋生物たちを紹介。ここでは表層の魚たちがメインです。バショウカジキがイケメンすぎますね。
深海の生物たちの展示もあります。あらゆる深度で、様々な生命がしたたかに暮らしているのがわかります。
富山県の海の幸として有名なホタルイカ。春になると、富山湾では大迫力のホタルイカ漁が始まります。
浜辺のジオラマ。流れ着いたゴミの様子も再現されていて、現在の富山の海の状況を来館者に訴えています。
浜のジオラマの裏に回れば、沿岸部の海の中が覗けます。四方から立体的に楽しめる展示となっています。

本館では、大いなる海洋脊椎動物の骨格にもお目にかかれます。特に全長10 mものツチクジラの全身骨格は迫力満点です。富山湾では大型ヒゲクジラ類だけでなく、愛らしいカマイルカなどもやってきます。

全長10 mに達するツチクジラの全身骨格。2001年に秋田県に漂着した個体です。
ミンククジラの頭骨。立派なクジラヒゲが見えます。
天井にはウミガメの骨格が吊り下げられています。骨の付き方を下から見るチャンスですので、ぜひ骨格の構造をじっくりと学んでください。

本館は富山県の自然環境に関する展示が非常に充実しており、得られる情報量はすさまじいと思います。ここで県内の生態系の基礎を学んだら、トンボさんのように実際にフィールドに出て、生き物たちに会いに行きましょう。
これほど壮美な自然の世界が富山県にあることを、多くの方に知ってほしいです。そして、地球規模での環境保全を考えるきっかけとしていただきたいと思います。

ゴミが散乱した海辺の状況を嘆くトンボさん。漫画の至るところに環境問題に関するメッセージが込められています。
新たなフィールドを目指して意気込むトンボさん。我々も、自然の中へ飛び込んで探索してみましょう。

富山市科学博物館 総合レビュー

所在地:富山県富山市西中野町1-8-31

強み:富山県産の古生物・古環境に関する膨大な知見と工夫された展示スタイル、生物標本とジオラマを融合させた学術性と視覚的インパクトを両立させた美麗な展示、博物館独自のキャラクターを活用した展示内容の理解補助

アクセス面:博物館は富山市内に位置しているので、バスに乗って向かえばすぐに到着します。JR富山駅から歩いていくことも十分可能であり、富山城などの名所を回りながら向かうと旅の楽しさが倍増します。博物館と合わせて、富山市の観光を思いきり楽しみましょう。

富山県の大自然に関して、この上なく濃密な学習ができる博物館です。化石も剥製も富山県産の標本がメインであり、郷土・富山の自然環境が徹底的に深掘りされています。はるか恐竜の時代から現代まで、富山の自然環境はどのような姿だったのか、とても詳しく体系的に学べます。トンボさん一家という愛すべきキャラクターたちを介して、富山県の生命と自然をわかりやすく説いてくれる点も、来館者の理解を助けてくれています。
視覚的に強く印象に残る展示が多く、目で楽しみながら、スムーズに内容を理解することができます。自然の豊かな富山県だからこそ、現代の自然環境に関する各種展示が充実しており、来館者を日本海や北アルプスに行ってみたい気分にさせてくれるでしょう。
来館者の方に大切にしていただきたいと思うのは、トンボさんのような熱い学術的探究心です。自然科学の歴史を動かしてきたのは、いつの時代も好奇心と情熱です。恐竜化石や新種生物を追い求めるトンボさんの強い想いは、全ての科学に関わる人の指針になるでしょう。

博物館で学んだら、ぜひ富山県の大自然に繰り出しましょう。筆者は夏に立山連峰に登って、ライチョウと至近距離で対面しました!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?