見出し画像

繋がる百二十五年『いちごまんじゅう』

はじめに
地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのは、宮之城名物『いちごまんじゅう』を作る是枝商店の 是枝 樹さんです。

長い歴史の中で地元の方々に愛され続け、現代にもその伝統ある味を受け継ぐ名物お菓子。曾祖母から祖母へ。さらに祖母から両親へと伝えられた手仕事は、脈々と現代にも受け継がれ、今もなお古びることなくさつま町で愛され続けています。その背景にある歴史と想いとは…。



聞き手:青嵜(以下省略)
さつま町でおまんじゅう屋を営んでいる是枝商店さんの認証品『いちごまんじゅう』。地元に長年愛されている宮之城(さつま町の地名)の名物ですが、その認証品のお話を伺う前に、まず是枝商店さんの歴史的からお伺いさせてください。創業は何年からですか?

創業は明治31年です。今年でちょうど125年になりますね。

もともと僕の曾祖母が是枝家に嫁いできたのがいちごまんじゅうの始まりです。

今でこそ「いちごまんじゅう」と呼ばれていますが、曾祖母が関さんという方で”おせっちゃん”と呼ばれていたらしく、おせっちゃんが作るおまんじゅう、という意味で最初の頃は”おせっちゃんまんじゅう”と呼ばれていたようです。

その後、祖母が曾祖母の後を継ぐのですが、その頃には既にいちごまんじゅうと呼ばれるようになっていたようですね。

いちごまんじゅうという呼び名になったのは2つの説があるのですが、おまんじゅうの色がいちごの白い花が咲いて黄色く色づいて赤く実が成る過程を表現しているのと、表面の粒々がいちごの粒々感を表したおまんじゅうというのが一つの説。

もう一つは、「一個まんじゅうください」って言っていた言葉が、

一個(いっこ)まんじゅうくいやーん(ください)
 ↓
いっこまんじゅう、くいやーん
 ↓
いっごまんじゅう
 ↓
いちごまんじゅう

みたいな感じに変わってきたという説があるんですが、どっちが本当なのかというのはよくわからないんです。

いちごが実る過程という説を表現する着色したあらびきの米粉


ちなみに、いちごの花の成長過程というのは、何かいちごと関係があったんですか。

それが分からないのですよ。

ちゃんとした理由を祖母はたぶん知っていたんだと思うんですけど、祖母から父と母へ受け継ぐ中で、そういったことを全然聞いてなかったので正しい説は分からないままなのです。

ただ、この2つが有力なんじゃないか、みたいな話を祖母と母がちょっと話していたみたいで、その2つを説として受け継いでいます。

最後の蒸しを待つおまんじゅう


ロゴマークにうさぎの絵が描かれていますが、十五夜とは関係があるのですか?

ロゴマークには、もともとはカーネーションが描かれていたんですよ。
母から母へと受け継がれてきた伝統のおまんじゅうだったから。

それで、父の代でデザインを新しくすることになって、デザイナーの方と相談して、おまんじゅうと言えばお月見、お月様といえばうさぎ、という流れで今のデザインになったそうです。

なので、いちごまんじゅうの名前の由来とは関係ないですが、十五夜とは多少関係があるかな。

今は是枝さんのご両親がお店をされていますが、一番最初は曾祖母が始められたということですね。その夫である曾祖父は家業として別のことをされていたのですか?

店内の至るところに歴史の味わいを感じる

曾祖父はその当時、染物屋さんをやっていたんです。

もともとお店がある宮之城という地域は、昔、製糸工場があって養蚕業が盛んだったのです。そこに関連するお仕事としてしていたようですね。

それで、染物屋さんの傍らで曾祖母が飴やおまんじゅう等のお菓子を作って売っていたようです。お菓子の他には貸本とかもしていたみたいですね。


いちごまんじゅうは、その曾祖母の代から引き継がれてきたわけですけども、いちごまんじゅうの作り方は代々受け継がれているレシピか何かがあるのですか?

レシピはないですね。
口伝というか、「大体これぐらいの生地にこうしてる」みたいな感じで伝わってきたようです。
ただ、両親はお菓子作りの仕事をしたことがなかったので、ご縁があって職人さんから和菓子の技術を教えてもらったことがあったようですね。

ただ、基本になる黒糖あんこの調合は昔から受け継いできたものです。
黒糖自体が今と昔とでは違いますけど、昔から変わらないような感じの調合をしながら、現代の味に合わせていく工夫をしています。

営業開始に間に合うよう、毎日早朝からまんじゅうづくりが始まる


いちごまんじゅうのあんこは、粒あんとこしあん、どちらとも言えないようなちょうど中間ぐらいの感じだと思うのですが、それもその当時からなのですか?

はい。そうですね。

小豆は北海道産の大粒のものにこだわっていて、ずっと一緒の取引先から仕入れさせてもらっています。ちなみに、米粉は地元さつま町産です。


工程全てが手作業で、材料はいたってシンプル。

しかも、伝統を守りつつ、現代に合わせた工夫が求められる...これってすごく難しいことですよね?

めちゃ難しいです。

シンプルなだけにごまかしが効かなくて、その時の状態やおまんじゅうの水分だったり、というのが露骨に違いとして出るんですよ。

例えば、生地で言うと最初固いので水を足しながら伸ばしていくんですね。
でも毎日の変化に応じてちゃんと微調整しないと同じような硬さのものを作り続けることができないんです。

それに、時間が経つと固くなってしまうから日持ちしないおまんじゅうでもあったのですが、工程を一部工夫したことで、次の日くらいまでは柔らかく食べられるというお声も聞こえてきます。

ひとつずつ丁寧にあんこを生地に包んでいく


そんな代々続く伝統を受け継いで今に繋げていらっしゃる訳ですが、薩摩のさつまの活動には次世代の支援といった未来へ向けた取り組みも含まれています。

100年以上の歴史のある物づくりの家に生まれるって、どんな気持ちなんだろうという点からお聞きしたいのですが、後を継ぐということや老舗であることが自分の人生に影響をしたことってありますか?

めっちゃありますよね。
まあ、なんていうか、100年以上続いてると途絶えさせることはできないという想いがあります。

僕は3人兄弟の2番目なのですが、兄弟からすればここを閉めるっていうことはないよね。続けないといけないよねっていう感覚がまずあるんですよ。

100年続いてるとやめられないっていう責任感で、誰が継ぐのかという話は小さい頃からあったので、足枷と言ったら語弊がありますけど、そのぐらいちょっと考える感じでもありました。


その上で、今は是枝さんがご兄弟の中で家業を受け継いでいらっしゃる訳ですけど、今度は是枝さんが100年続く家業を受け継ぎ伝えていく番になられたのだと思います。

ちょうど最近お子さんがお生まれになったと聞きましたが、家業を継いでほしいとか、そういった想いは今の時点であるのですか?

自分の子にですか?うーん…。

今までは両親が僕ら兄弟に対して、別に継がなくてもいいんだよみたいなことを結構言うんですよ。
家業を継ぐよりは他のところに勤めた方が給料もいいし、みたいなこと言うんです。

けど、僕は「無くすわけにはいかないから」みたいなことを散々言って、結局、受け継いでやってるんですが、20年後とかに息子がそんなこと言ってきたら、うわー!!って思いますよね(笑)

自分が両親に言ってきたように、子どもが僕に「無くすわけにはいかないじゃん!これだけ続いているんだから」とか言われたら、なんて返せばいいか…。

親として子どもを思うが故の気持ちですよね。

今のままでもお店としては残していけるかもしれないけど、それでもギリギリのラインだと思うんですよ。

だから、そういう綱渡りみたいな状態のお店を子どもに受け継がせてもいいのかと思うと、それよりは自分がやりたいことを仕事にした方がいいんじゃないかって言いたくはなると思うんです。

先程の是枝さんのご両親が言われた言葉と重なるものがありますね。

両親からは、別に辞めてもいいし、強制的にやれなんてことも言わない。
あとはもうお前たちが考えなさいみたいなことを言われましたね。

でも、そう言われると「お前たちが考えなさいっていうことは誰かがやんなさいよ、っていうことに捉えますよ?」みたいな感じに言い返すのですが、それはお前たちに任せるから好きにしろと…。

親から子へ、子からまたその先へ。
思いやりが故の言葉も時代を越えて受け継がれている、そんな歴史のように勝手ながら感じてしまいました。

ただ、Uターンで帰ってきてからお店をやらせてもらっていますが、来ていただいているお客さんたちから「これからもおまんじゅうを食べれる」「美味しいから買いに来た」と言っていただけると、これからも続けていかないとな!といつもやる気をいただいています。

なので、先のことは分かりませんが、今できることとして、母と僕がやれる限りおまんじゅうを続けていきたいと思っています。


今できることこそが、次へまたその次へと着実に繋がっていくのかもしれませんね。
今日は貴重なお話をありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。


※取材/撮影:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)


◆◆◆ 認証品のご紹介 ◆◆◆

是枝商店『いちごまんじゅう』

創業、明治31年(1898 年)。初代の関さんが是枝家に嫁いできて始めた伝統あるおまんじゅう、お関ちゃん饅頭。のちの、いちごまんじゅうである。
うるち米を粉にして生地を作り、 独自に練り上げたあんこを包んだシンプルなお菓子。自家製のあんこは、黒糖と黒砂糖ブレンドし小豆を入れ、こし餡でもつぶあんでもない、唯一無二のあんこ。
街の人々に愛され、世代を越えてお客さん1人1人と友に歩んだ100年以上の歴史を味わうことができる逸品です。


SNSでも背景を配信!認証品はこちら↓のリンクからもお求めいただけます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?