アイスモロー 2


パート1はこちらから↓

https://note.mu/sattaka/n/n1efcd1b9ae15/edit


「すみません施設長。すぐ戻ってきますから」
「ゆっくり飯を食ってきな。どうせ私と君しかいないんだから」

 皺のある顔が笑顔になる。堀田は御年七十八歳だがしっかりとした足取りで、丸椅子に腰を下ろした。谷川は申し訳なさそうに部屋を後にした。
 川のせせらぎが煌びやかに聞こえる郊外に施設は建っている。二階の窓際にマッサージチェアがあり、それに座ってカップラーメンを食べる。

 冷気で面が凍りそうだ。熱湯を注いだはずなのに急激に汁が冷めていく。谷川は急いで面をするが蒸気でむせ、せき込んだ。

 ここに来てからの生活はとても常人では耐えられないものだった。山奥に突如現れたハイテク施設は動物でも近寄らない程に陰険とした空気を纏っている。しかし、動物が外見を見てあそこは危ないなどと言うはずもなく、人の気配と電子機械の電磁波に警戒して逃げていくのだ。

 森が先に会ったのか、施設が先に会ったのか分からない、二つが交じり合った景観はひっそりと佇んでいるというよりじっとりと隠れていると言った方がいい。その建物の中で谷川は一人寂しく昼食を取っていたが、どうにも様子がおかしい。体調が普段から優れているとは言えない不健康な生活を送る彼は気づかぬふりをしようとして、ふと自分の腕を見やる。

「筋肉が落ちてきたな。運動しなきゃ骸骨になってしまうかもしれない」

 しばらくの間ここに籠りきりで自然散策など思いつかなかった。目の前に広がる風景を当たり前に思い、それ以外の事に目を向けている。あの患者だ。
 思索しながら空き容器をゴミ箱に入れ、病室に戻ろうとしたが足は違う方向にすすんでいた。北側にある小さな図書館だ。

 調べ者をするといった目的もなく館内をうろつく。皆ただの紙が重なって出来た塊に見え手に取ろうとも思わない。しかし谷川は分厚い技術解説本を棚から引き出し、適当にページを開いた。
 医療器具の仕組み。彼がふと思い浮かんだのは人工呼吸器だったが、次のページは人工透析機器の説明だった。

「こういうことを必要とする人もいるんだよな」
「そうだよなぁ」

 後ろから声が聞こえ振り返ると、堀田が目を瞑って立っていた。

「あの、部屋に居なくてもいいんですか?」
「すぐに目を覚ますことはない。どうせあのままだ」

 諦観しきった表情を浮かべるが、彼がどこか本音を言っていないように思えた谷川は眉をひそめた。

「これを外すんだ! お前がいくら抵抗しても無駄だ!」
「なんでそう言い切れるんです⁉ この人はすぐに目を覚まします! 必ず、百パーセントの確立で!」

 堀田は谷川の体を突き飛ばし、フジカの前に立つ。所長としての責任だとか、人類と動物が共通しているなど高度な話をしながら人工呼吸器に手を伸ばした。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

これは投げ銭用の箱です。刺身食べたい。

高宮は 高宮なんだよ 高宮よ
3

高宮聡

短編小説集

短編小説寄せ集めマガジンです。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。