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2-1. サウジの王族と政治のドロドロした仕組み

【3行まとめ】
・王位継承は、単純な年功序列ではなく、個人の実力で選出される
・能力が不十分な国王の場合、暗殺されることもある実力社会
・次期国王の皇太子は31歳と若く、実績作りのため急進的な政策を行う

2.内政
(1)政治:サウード家による絶対王制国家
・王室の歴史と王位継承プロセス

 第1章でサウジアラビアは絶対王制であることに言及いたしました。憲法において、「司法、行政、立法の三権は、国王の下で、相互に協力して執行される」と定められており、国王が最高権力者であることが明文化されています。

 では、その国王とは何者で、どのように選出されるのでしょうか。まず、王室の歴史について、簡単にさかのぼってみましょう 。初代国王はアブドゥラアジーズ国王(在位1932年〜1953年)であり、第2代国王から現在の第7代サルマン国王にいたる全員は、初代国王の息子がほぼ年齢順に即位しています。

 サウジの王位の継承は、「忠誠委員会」という初代国王の王子(または代理としてその直系男子)34名からなる合議体の多数決によって定められます。34名もの王子と聞くと驚きですが、初代国王の妻は少なくとも40名、一説には100名いたとも言われています。

 王位継承の際に重視されるのは、単純な年功序列ではなく、能力や人柄などといった個人の実力であり、国の将来を託すことのできる人物を、合議体の審議によって慎重に選出しています。

 王族は、その既得権益を守るために、優秀な人物を国王に選出するのです。能力が不十分な国王の場合、王族は国王を暗殺することもあるなど、生き馬の目を抜く実力社会が広がっています。

 実力のみならず、血統、すなわちどの王妃から生まれたかも重視されています。初代国王アブドゥラアジーズ国王が寵愛したスデイリー家の王妃ハッサから生まれた7人の男子は、王族の歴史の中でも権威をふるっており、「スデイリー・セブン」と呼ばれています。

 2017年現在、次期国王の最有力候補と目されているのは、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子です。頭文字をとってMbSと表記されています。なお、「ビン」とは「息子」という意味であり、MbSとは「サルマン国王の息子のムハンマド」という意味です。

 ここでお気づきになるかもしれませんが、これまでの国王が全員国王の「息子」であったのに対し、MbSは初代国王の「孫」にあたります。

 王家が第何世代にあたるのかを区別するために、初代国王を1G(第1世代:ファースト・ジェネレーション)、初代国王の息子を2G、初代国王の孫を3Gと呼称しています。

・第2世代から第3世代への後継争い
 現在、MbSは、皇太子・副首相・国防相を兼務し、政治と軍事を手中に収めて、次期国王への足場を盤石としておりますが、ここに到達するまでには、同じく第三世代であるムハンマド・ビン・ナイーフ前皇太子(MbN)との後継争いがありました。

 名前からもわかる通り、MbNは「ナイーフ氏の息子」であり、サルマン現国王の息子ではありません。サルマン現国王は、最も目をかけている息子のMbSを31歳という若さで皇太子に抜擢し、MbNを全ての職務から解任しました 。

 ちなみに、MbSもMbNも、「スデイリー・セブン」の孫にあたります。「スデイリー・セブン」の孫同士の争いは、MbSの勝利によって終止符が打たれようとしています。

 現皇太子のMbSがMbNの追放を急いだのには、アメリカの大統領選が関係しているとの説があります。トランプ・ヒラリーの争いにおいて、予想外のトランプが勝利を収めたことで、各国の外交当局が対立候補との関係を構築しはじめたため、MbSは慌てて対立候補のMbNを失脚させたと考える専門家もいます。

・若き皇太子の焦燥
 MbSは、形式的には副首相・国防相を兼務し、サルマン国王兼首相に次ぐナンバー2となっていますが、まだまだ油断はできません。次期国王となることは確実視されていますが、国王に就任したとしても、実力不足だと周囲の王族に判断されれば、暗殺されることも起こりえます。

 MbSは、その実力を誇示するため、 内政に外交に急進的な改革を矢継ぎ早に実行しており、イランやカタールとの断交などアグレッシブな政策に踏み切っています。サウジアラビアは従来、内政外政ともに、最も慎重な国の一つとして考えられてきました。近年の変貌には、こうした王位継承争いの仕組みが背景にあると考えられています。

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