見出し画像

2-4. 外国人労働者がサウジを嫌う理由

【3行まとめ】
・サウジ経済は外国人労働者によって支えられている
・外国人労働者の労働環境は過酷を極めており、人権侵害が課題
・サウジは政策立案から軍事まで欧米コンサルに依存しており脆弱な構造

(写真は、首都リヤドのインド・パキスタン系の外国人労働者が居住する地区。きらびやかな建物とは正反対。トラックに山積みの靴を路上で売っている。サウジに着いてしばらくは、この地区に住んでいました。)

・出稼ぎ外国人労働者の過酷な労働環境
 国民の多くが労働を嫌う中、サウジはどのように経済を維持しているのでしょうか。サウジは石油などの資源で得たお金で、労働力を海外から購入することで、日々の生活を維持しています。

  サウジは労働力人口800万人のうち、ほぼ半分の400万人を外国人労働者に依存しています。外国人労働者は、大きく単純労働者と、欧米系の高度人材に大別することができます。

 まず、大多数を占める単純労働者について述べたいと思います。外国人人口約1,000万人のうち、インド人が約250万人、パキスタン・バングラデシュ人があわせて約250万人、フィリピン人が約150万人、残りの約350万人がイエメンやスーダンなどの周辺国出身というのが大きな姿です。

 賃金が良いのと、聖地の近くで働くことができるという点が魅力であり、毎年多くのイスラム系外国人労働者がサウジに就労に訪れています。

 一部の彼らの労働環境は劣悪であり、猛暑の中での建設作業やプラント保守作業など、危険な業務にも従事させられています。また、職場にもよりますが、ほとんど休日が与えられない職場もあります。

 サウジの首都リヤド滞在中にお世話になったクリーニング屋のスーダン人のおじさんは、朝早くから夜遅くまで土日も休みなく毎日お店に立っていました。話を聞くと、オーナーが厳しくてほとんど休みがもらえないようでした。

 ところで、このおじさんは、ハッジ(メッカへの巡礼)のために久しぶりに休みがとれると、とても楽しみそうに話していたので、あらためて聖地の魅力を実感いたしました。

 また、女性の多くは、メイドとしてサウジ人の家で働いているのですが、家庭内で虐待を受けてしまう事例もあります。

 家の中に住み込みで働くため、家の主人から性的虐待を受けたり、奥さんから嫌がらせを受けたり、いろいろな事件が起こっていますが、表沙汰になっても、外国人労働者に不利な扱いを受けることが多いので、被害者の多くは泣き寝入りをしているのが現状です。

 近年では、スリランカ人の18歳のメイドが、乳児にミルクを与えていた際に誤って窒息させてしまった際に、過失致死に問われて死刑が執行されてしまうという痛ましい事案が発生しました。

 スリランカ大使館からサウジ政府に対して抗議も行われたのですが、その抗議も実らず、結局死刑は執行されてしまいました。未成年者に対して、十分に司法のプロセスが踏まれずに執行された死刑は、各国から批判を受けています。

 他に、私が現地で聞いたメイドのトラブルでは、日本人女性がサウジ人の家を訪問した際に、サウジ人の子供が料理にケチャップとマヨネーズを大量にかけてぐちゃぐちゃにしたものを、メイドに食べさせるような目も当てられない光景を目撃したそうです。
 
  こうした話を聞いて問題意識を持ち、サウジ滞在中、外国人労働者に対して、「サウジをどう思っているのか」、と日々の生活の中でなるべく質問をするように心がけていました。

 返ってきた答えを集約すると、「サウジは住みづらい。娯楽がない。お金のために仕方なく来ているが、できれば日本など他の国に行きたい。」と嘆いているのが大多数で、現状に満足している外国人労働者は皆無でした。

 出稼ぎ外国人労働者の苦悩は、サウジを無事に出国できるまで続きます。まず、サウジが特殊なのは、入国だけでなく出国にもビザが必要になります。

 入国審査よりも出国審査が厳しいと言われており、最近では、10数年前のビザの虚偽申請の容疑で、フィリピン人が出国審査の際に逮捕されたそうです。

 外国人労働者の人権侵害は、いまだに残る課題といえます。

・大きな実権を持つ欧米コンサル
 サウジが外国人労働力に依存しているのは、単純労働のブルーカラーの分野だけではありません。専門知識を有した高度人材についても、外国人に依存しています。

 例えば、石油プラント建設、軍事、経営、はたまた政府の政策立案にいたるまで、欧米系のコンサルティング会社(マッキンゼー、ボストン・コンサルティング、KPMGなど)が非常に大きな役割を果たしています。 
 
 日本のコンサル会社のイメージというと、「第三者的意見をもたらしてくれる客観的な存在」といったものだと思いますが、サウジではコンサル会社は第三者ではなく当事者です。クライアントの客先に常駐して、業務に必要なことを自ら進めていく必要があります。

 私が勤務していた政府機関でも、コンサルと政策当局とのやりとりが活発だったので、着任して最初の週に、「政府で大きな方針を決めて、細かなところをコンサルに任せるというのはリーズナブルなやり方ですね」とサウジ人職員に伝えたところ、彼は「いやいや。大きな方針もコンサルに任せているよ。彼らには大変な金額を払っているのだから、それくらいやってもらわないとな。」と言っていたのが印象に残っています。

 サウジ政府での勤務を経験して、全体的にサウジ人はオーナーシップ、すなわち物事の主導権を積極的に取りに行く姿勢が弱いように感じられました。

 他方、欧米のコンサル業者の商売が上手だなと感じたのは、業務や経営上のアドバイスをするのと同時に、ITなどのシステムを導入し、コンサル抜きでは業務が続かないように首根っこをつかまえているところです。結果として、コンサルの契約期間は短期間ではなく、かなりの長期間続いています。

 欧米系の軍事コンサルの話によると、サウジには兵器を売るだけでなく、使い方を教える必要がある。完璧に使いこなすようになることはないので、軍事コンサルが不要になることはないとのことでした。

 日常の生活のサービスから、はたまた軍事産業まで外部に依存するサウジの経済・社会構造は、非常に脆弱と言わざるを得ません。

↓次はこちら


これまでの連載の目次 → https://goo.gl/pBiqQw 
ツイッターはこちら  → https://goo.gl/3tGJox
その他のお問合せ先  → https://goo.gl/Ei4UKQ