ロンドンでホームレスと一緒にテレビ見る夜

みなさまお元気ですか。私は今ロンドンで17人のヒッピーたちと一緒に暮らしています。
巨大な倉庫を改装してベニヤ板でひとつひとつ仕切っただけの簡単な部屋がひとつずつ割り当てられており、もちろん窓なんてものはないので皆自ずと唯一太陽の光の差し込む巨大なリビングルームに集まってきて、おのおの何かをやっています。
3匹の犬が常に家中を走り回っており、どこからかやたら低音の効いたテクノが聴こえてくる火曜の昼下がりです。

ここまでの経緯を少しずつ記していきたいと思う。
5月、大好きだったグラスゴー生活に活路を見出せなかった私は一時帰国し日本でG20テロ対策警備員として小金を稼いだのちさぁこれからやったるぞとやる気満々でどういうわけか東京〜ロンドンではなく東京〜バルセロナ便を予約してしまい(酔っ払っていたんだろうね)この際だからとバルセロナのビーチをこの世の春の如くエンジョイした挙句に小麦色の肌にアロハ姿でまだうすら寒いロンドンへと到着したのが一週間前のことであった。

アロハに短パンが寒すぎたので上に秋物のジャケットを着用してビクトリア駅に降り立つ(東京でいう東京駅のような大きな駅である)
と、なんだかやたらレインボーな人が多い街だなと思ったのもそのはず、この日はプライドパレードの日だったようだ。
そこからまた1時間ほど電車で行くと、街並みや人々がどんどんと黒ずんでいく。宿のある駅に着いた頃には、街はすっかり夜の闇に包まれて閑散としていた。黒人のティーンエイジャーたちが大きな声で喧嘩をしているのを、道の脇にぼうっと立ち尽くす人々が眺めていた。

小さなスーツケースを引きずって歩くこと10分、やっとこさ宿のある場所にたどり着く。
入り口と思われる場所の周りに、ビール片手に50人くらいの人間たちが完全なるよっぱらい状態で騒ぎ散らかしていた。
宿の1階はパブだったらしく、土曜日かつプライドパレードの今夜は皆のめや歌えやの大騒ぎであった。
普段ならやったちょうどいい私も仲間に入れておくれと参加するところだが、この日私は死ぬほどに疲れていた。
札幌〜東京〜バルセロナ〜ウェールズ〜ロンドン〜そこからさらにこの南西部の駅まで、移動を繰り返した疲れがやたらに溜まっていてもはや英語を話すことすら億劫であった。
スーツケースに陽気なアロハの日本人に興味を持った酔っ払いたちが次々とハーイ!と挨拶をしてくるのを「はい」と答えてやり過ごし、宿のオーナーが出てくるのを待っていた。
無愛想な人間はアロハを着るべきではない。

しばらくしてバーの奥から出てきた背の高い黒人男性は、何も言わず私を2階へと連れて行き、そして10コほど並んだ3段ベッドドミトリーの一番下のベッドを指差し「ここ」と言った。
やっと横になれる、もう今日はさっさと寝ようとベッドにかかったカーテンを開けると、白人の女の子がポテチを食べていた。

え、なんでここでポテチ食べてんの?
咄嗟に私の口からでた言葉はこれであった。
すると彼女は
Hello、と私に向かって微笑んだ。

どういうことなんですかこれとオーナーに食ってかかると、オーナーはポテチを食べ続ける白人の女の子に怒鳴り散らし始めた。
疲れが無限大に膨れ上がりもはや爆発寸前の私はもういいやとにかくベッドが空いたら教えておくれと共用リビングに向かう。
するとそこでは4、5人のホームレスらしき男性たちがじっとテレビを眺めているばかりであった。
とんでもない異臭がするので、一体どういうことなんだこれはと立ち尽くしていたら
「冷蔵庫が壊れてるから中のものが全部腐ってんだよ」
とヒゲを胸まで伸ばした裸足の男性がテレビから目を離さずに言った。

テレビでは、毎日ハンバーガー食ってそうな白人男性が危険な生物を持ってイエーイとか叫んでいた。

「冷蔵庫いつから壊れてるの?」
と私は裸足の男性に聞いた。
「ずっとまえから」
と答えた男性の足の指がやたらに黄色いのを、私はただ見つめていた。

しばらくしてベッドが空いたので私はポテチのカスも気にせずすぐに横になって眠った。
あの女の子の微笑みがなんだか胸から離れなかった。

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