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初めて男の人に鳥になってくれと言われた春

すっかり飲みすぎて目覚めればとっくに昼過ぎ、のそのそ起き上がり冷蔵庫を開けると、そこには私宛のメモが貼り付けてあるプレートがあった。

「Good Luck! :) Love, セリーヌより」

プレートの上には、綺麗に焼かれた薄いクレープが何枚も重なっていた。
メモの端には、「ジャムか砂糖をつけて食べるとおいしいよ」と思い出したような走り書きがしてある。
そうだった――私は、きょう新居に引っ越してしまうセリーヌと、最後に朝ごはんをいっしょに食べようと約束していたんだった。
フレンチクレープをいっぱい焼くからね、と張り切る彼女、そして楽しみだなあと阿保のように舞い上がっていた自分の言葉を、昨晩のやけ酒ですっかり忘れた。
メモの端には、彼女の電話番号とハートマークが書いてある。それをみながら、クレープにびっしりラズベリージャムをつけて食べた。
おいしくて、申し訳なかった。

私は予定より早くこの宿をチェックアウトし、ジョージ宅に転がり込むことに決めた。

それから、たった何日かの予定がもう一週間も彼の家に居座っている。
やはりいまだに仕事もなく、ただ夜な夜な音楽を浴びるばかりの生活である。そしてジョージと毎日明け方までケラケラと酒を飲んでいる。

そんな私を慮り、やさしい友人が私に安い単身アパートを探してきてくれた。
彼女は手作りの石鹸をそっとプレゼントしてくれるようなやさしいスコットランド人の女の子で、何かというとこれはどう? あれはどう? と私を助けようとしてくれているのに、結局私は何もかも自分で選びたい愚か者なのである、うんいいねー、ありがとうねーと言いながら、
わたしはただ、ジョージと一緒にいたかった。

この日もジョージ宅で4ポンドの安ワインをせっせとあけながら、
ふと さすがにこのままではだめだよなあ、と思った。

ほんのちょっとだけ置いてやるつもりだったのに、このアジア人一体いつまでいるんだ?と彼もそろそろしびれを切らしているに違いない。
目の前の彼は、タバコをくるくる巻きながら何か口ずさんでいる。無職のわたしの晩酌に毎日付き合わされているせいか、こころなしか目の下が黒ずんでいる。

わたしは2つのマグカップにワインを存分に注ぎながら、

もう数日以内に出て行くからね、と宣言をする。

するとジョージは、ちらとわたしの方を興味なさげに見やってから、

きみが出たいと思ったらいつでも勝手に出て行けばいいけど、俺に気を使ってるならそれは間違ってる。

と言った。


自分のしたいようにすればいい、
そのために君はここに来たんだろ。


とグラスゴーらしいぶっきらぼうな口ぶりの、彼の言葉が耳にひびいた。

I wanna see you fly, you know.(君が飛ぶのがみたいんだよ)

と言った、

彼の期待に私は応えられるのだろうか。


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