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心の中のパンクスが騒ぎ出すガッデムグラスゴー

すでに心が折れそう。雨雨雨風の嵐である。なぜグラスゴーの人々は皆雨なのに傘をささないんだろう?と常々不思議に思っていたのだが理由がわかった、意味がないのである。
日本から持ってきた折り畳み傘はすっかりグラスゴーの洗礼にやられもはや折りたためない状態にまで打ちのめされている。
ロンドンに比べて、オシャレな人が少ないな〜なんてのんきに思っていたのだが、これはもはやおしゃれどころの騒ぎではない。髪も化粧も何もかも一瞬でリセットされるこの雨風である。

グラスゴーに到着したのは、夜の7時を回る頃だった。

ロンドン〜グラスゴーまではバスで9時間ほどの道のり。
車窓からみえたのは、なんか枯れた土地……羊……山…羊羊羊…羊……その風景の5割は、羊が草を一生懸命食べている姿であった。
バスの中では、皆暇なのか電話ばかりしている。
いろんな国の言葉が入り乱れている、いっときはこの閉じられた空間の中で一斉に6ヶ国語くらいがギャーギャー飛び交い始めたのでうるせー!もう1ヶ国語加えたるぞ!と私の心の中に何かパンク的な精神の目覚めを感じたが抑える。それにしてもよくそんな話すことがあるなと思うくらい、日本以外の国の人はよく電話をしている。

私の斜め前の席にいる本当にトレインスポッティングのキャラクターみたいなヤバそうな見た目のオッサンが、低い音量で鳴った電話をゆっくりととる。じっと一点を見つめた後に「I’ll be there」とだけ渋く言って電話を切っていた。どこに行くの!私はすっかりオッサンの声にシビれてしまった。
かたや、前の席ではトレインスポッティングおじさんとは対照的に長々と電話をするやたら声の甲高い白人のオッサン、
内容から察するにどうやら別居中の妻と電話をしているらしく、ひたすら「だからバスで行くって言っただろ!俺に飛行機で来いってか?そのぶんの金は誰が払うんだよ?ん?え?もう来なくていいって?待て待て待て!」と言ったやりとりを1時間以上繰り返している。妻よ早く電話を切ってくれ。私だったら冒頭1分でもう切っている。かと思えば、何か彼ら二人にしかわからないジョークで盛大に笑いあったり、全く夫婦というものはよくわからないものだなと思った。

賑やかすぎるBus rideが終わり、バスはGlasow City Centreに到着した。
City Centre,街の中心部である……

街の……

中心部?

スーツケースとともに駅前に降り立つ。
冷や汗がジュワッと出てくるのを感じる。

マジで何もない。

街灯もまばらな適当な感じの石畳の道を、険しい顔をした人々がちらほら歩いている。
バーガーキングと、スターバックス……あとは、なんかチェーン店っぽいもの。

寒い。
風やばい、雨降っている。

ビニール袋わっと風に舞う。

……これはそうだ、そう!多分バスの発着地点だからきっと本当の街の中心部はもっとこう!違うんだよ!うん!

と気を取り直して、借りているアパートのある場所に向かって歩き始める。

そうそう!東京だって、皆東京駅じゃなくて新宿とか渋谷に行くじゃないか!そして横浜だって横浜駅には大して何もないもの!きっとこれもそういうものだよ!ね!

と見えない友達に同意を求めながら冷や汗をぬぐいぬぐい歩き始める。
石畳ボコボコ過ぎてスーツケースゴロゴロの難易度が高すぎるしこの風よマジで目も開けられないしゴミ飛んでくるしOhなんとかしてくれ寒い寒い寒いと私の心の中のパンクスが小さく歌い始める。

焦りを隠しながら横断歩道、信号を待つ私の横でたっぷりと肥えた蛍光ピンクヘアの白人女性がむしゃむしゃピザを食べている。

雨風に打たれながら、彼女はピザを食べている。

私なら  あー風!髪の毛にチーズついた!あっこの、パン屑ポロポロするしびちょびちょだしああもうヤダヤダとなりそうなこの状況下だが、
彼女の立ち姿は堂々としており、一瞬の迷いも感じさせない。
あまりにもスタイリッシュにピザを召し上がった彼女は、ピピッと手を払ってまたカバンからチップス的なものを出して食べ始めた。そして歩き始める。信号は赤である。
私は奇妙な感銘を受けながら、彼女の後ろについて歩き始めるが、スーツケースが引っかかり車にクラクションを鳴らされたりしているうちにああ信号は青になり、彼女はどこかのビルの地下に消えていった。

息も絶え絶えになりながら、アパートのあるCessnock駅に降り立つ。

マジで、何もない。

ホームレスのオッサンがタバコの吸い殻を集めている。横殴りの雨。以上。

アパート管理人のダグラスがOh hello! Welcome!と言ってあたたかく迎えてくれたのがこの日の唯一の救いであった。
荷物を部屋に投げ込む、なぜだか無性にやりきれない気持ちが湧いてきて、私は雨の中外に飛び出し、パブでビールとスコッチウィスキーをたのむ。
安いしうまい。
天気がこんな調子では、パブくらいしか楽しみがなくなるのはなんとなくわかる気がした。
バーテンダーのショーンはおしゃれな音楽好きの青年で、グラスゴーのオススメのライブハウスはと聞くとありすぎてどれから言っていいのかわからん、と笑っていたので、すこし元気がでてきた。
住むのに良さそうなエリアを教えてもらったので、明日行ってみようと思う。


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