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J-POPにみるもう一人じゃないよ主義

納豆子持ち昆布ご飯をかきこむ昼下がり、またも仕事にあぶれた私にラジオから甲高い女性アイドルたちの喚き声が聴こえてくる、そして彼らしきりに「もう一人じゃないよ〜」と歌い上げている。
「君は、もう一人じゃないよ!」そうか、うん、そっか、いや何年も前からどうも蔓延してる感じのこの孤独、ダメ!絶対!主義はなんなんだろうとすする味噌汁。
さて、やっと一人でホッとひと息、と腰を下ろそうとしたらワ〜!っと団体で押し寄せてきて無理やりさぁ行くよ!振り返らないで!君は一人じゃない!未来はこの手に!とどこか賑やかな場所にさらわれていく感じ。
ずっとモヤモヤして、この手の歌を聞くたびに私は妙にヘラヘラしていたんだけど、今日は徹底的にこの「君はもう一人じゃない主義」と正座して向き合ってみたい。

まず、歌詞全文検索サイトにて”もう一人じゃない”で検索してみた。
147件のHIT。
意外に少ない。
そんな馬鹿な、と思い”一人じゃない”で検索。
1950件がヒットした。
「もう」以外にもたくさんのバリエーションがあることが発覚した。
私が思うよりずっと世界は一人じゃないようだ。
以下さっと目についた"一人じゃない"セレクションをご覧いただきたい。

いつだって一人じゃない
僕らは一人じゃない
どんな時も一人じゃない
君は一人じゃない
一人じゃないさ!

私:あ、そろそろ……

でも一人じゃない
いつも一人じゃない
一人じゃないだろ?

私:あ、はい、あっでも

そうさ一人じゃない
同じ空の下一人じゃない
知らない街でも一人じゃない

私:えっそれは、なぜでしょうか、知らない街でもひとりじゃないとは具体的に

一人じゃないから僕ら
人は誰も一人じゃない
Your life 一人じゃないから
やっぱバンドは僕一人じゃない
ずっと一人じゃないからね
今は一人じゃないから
一人じゃないでしょ
みんな一人じゃないから

私:ああ……

お分かりいただけただろうか?
だんだん”一人”という言葉の持つ意味がわからなくなるゲシュタルト崩壊状態に近づき、
あれ? 一人って何だっけ?

ひと‐り【一人/独り】の意味

意味例文慣用句画像
出典:デジタル大辞泉(小学館)
[名]
1 人数が1であること。一個の人。いちにん。「—に一つずつ配る」「乗客の—」
2 仲間・相手がいなくて、その人だけであること。単独。「—で悩む」「—でいるのが好きだ」
3 他の人の助けを借りず、その人だけですること。独力。自力 (じりき) 。「—ではなに一つ満足にできない」「—で解決する」
4 配偶者のないこと。独身。「いまだに—でいる」
[副]
1 物事をその人だけでするさま。単独で。「—読書に励む」「—物思いにふける」
2 打消しの語を伴って、ある物事だけに限ったことではないという気持ちを表す。ただ。単に。「—現象にとどまらず、本質に迫るべきだ」
3 ひとりでに。自然に。
「むつかしくもぢれたるもの、—さばくるといへり」〈三冊子・黒双紙〉

やっと戻ってきた。
そうだ、一人は、一人なんだ。

いつからこのJ-POPひとりじゃないの百花繚乱は始まったのか、歌詞の年代から調べようと思ったが論文レベルの作業になりそうなので今回は私の個人的な感覚で述べると、
どうも平成という時代が始まってからその傾向がどんどん強まっていったように思う。
吉田拓郎や井上陽水から「ねぇ、君は一人じゃないよ?」と言われたらチビると思う。
彼らはどちらかというと自身の孤独をさらけだすことで、
一人の人に「あ、こういうこと思ってたの俺だけじゃないんだ」と間接的に"ひとりじゃないよ”感をお送りしていたのだと思う。
見ず知らずの人にいきなり
「僕らはひとりじゃないんだ!」と言われたら「はい?」となること必至だが、
「俺さ、実は、さみしくってさ」とこっそり言われたら、「わかる」と肩を組みたくなる。
そういうことなのかもしれない。
だから、ひとりじゃないよ!という歌詞はそのアーティストのことを十二分に知っているファンの人からしたら大変嬉しいものなのかもしれない。
私も井上陽水から言われたら嬉しい。いや、ちょっと怖いかもしれない。やっぱりどちらかというと彼にはペリカンとかリンゴ売りとかの摩訶不思議な歌を歌っていてほしい。

よく知らない連中といるより、一人のまま、じっと誰かを待っていたい。
それまで、素敵に一人でいてみたい。

最後に素敵な一人の歌をひとつ;

嵐の夜に抱かれて 終わらない夢を見た
空と陸の交わったところに
私はひとり たたずんでいる
音もなく 色もなく 風も吹かない
とつぜん遠くの方で 誰かの声がした
誰かが唄えって言ってるんだ

月の出ない夜に埋もれて 終わらない夢を見た
空と陸の交わったところに
私はひとり うずくまっている
音もなく 色もなく 風も吹かない
天使が舞い降りてきて 翼をくれたんだ
背中をおされるようにして
私は唄う

もっと遠く もっと遠くへ飛べるように

("空と陸の交わったところ" 歌手:カルメン・マキ 作詞:Carmen Maki 作曲:谷有益)

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