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やさしさで私はフォアグラになる

私は今ロンドンのアイスクリームトラックで働いている。
ひとり気ままなもので、割れたコーンとかカスカスのアイスを食べながら好きな音楽かけて適当にやっている、季節はほとんど夏の盛りを過ぎており、ほとんど人もまばらである。

この日は小雨プラスなかなかの寒さでもはやだれもアイスクリームに見向きもせず、さかさかそれぞれの目的地へと通り過ぎて行く。

雨だな…とトラックから顔を出していると、
ハーイ!
と手を振りながらこちらに向かってくる小さな女の人がいた。

何だか見覚えがあるなあと思っていたら、すぐ近所でコーヒー屋さんを営んでいるポルトガル人のミグエルちゃんだった。
何回か、トラックを抜け出して彼女の店にコーヒーを買いに行ったことがあった。

「何のむ?」

と背の小さなミグエルちゃんはうんと背伸びしながら私に尋ねた。

節約中だよと答えると、お代はいらないからアイスクリームくれとのこと。
お安い御用である、私がカプチーノを頼むと、ミグエルちゃんは嬉しそうに小走りで店に戻っていた。

さてと暇の度が過ぎてきたのでトラックの掃除なんかをはじめた頃に、
ミグエルちゃんは大きなカップに入ったカプチーノとあつあつのステーキサンドイッチを私に運んできてくれた。

これからお腹が減ったら毎日うちにきてね、
何でも食べていいんだよ!
あと、飲み物もいつでも頼んでね!

とのこと。

――え、なぜ?

私の脳裏に真っ先に浮かんだ感情は上記であった。
うちのアイスはこのステーキサンドイッチの10分の1の価値もないだろう、私は彼女に何かしただろうか?
すっかり謙遜しきった私にミグエルちゃんは「いいからバブルガム味のアイスくれ」といって、真っ青ケミカル上等カラーのアイスを受け取るとウキウキ走って去って行った。
少しボリューミーな愛されボディがパツパツのジーンズに押し込まれているのを見送ると、私は早速ステーキサンドイッチを頬張り、
そのうまさに溺れた。

それからというもの、
ミグエルちゃんは次々とバイトの子たちを私のトラックに送り込み、アイスと引き換えに凄まじく美味しいオーガニックコーヒー&フードを毎日私に届けてくれた。

いつもチョコミントアイスを頼んでトラック周りでサボっているバイトのレイチェルに、
何で私こんな天国みたいな待遇受けてるんだろう?なんかしたかな?
と聞いてみる、
するとレイチェルは「ミグエルがアイス食べたいからじゃない?」とサクサクコーンをかじっていた。

本当に?

いや、彼女はビジネスオーナーである、アイスとステーキの原価の違いなど100も承知であろう。
どう考えても採算が取れないだろう。
しかも私は彼女にとってある意味ビジネスライバルであり更に私たちはほとんど会話だって交わしたこともないのである。

そうか、
頃合いをみて彼女はいつか私を食べる気なのかもしれない。

トラックの中に一日中いて昼も夜も栄養たっぷりの料理を次々と与えられている私は、ほとんどフォアグラである。


また今日もポークラディッシュサラダとエッグベネディクトが運ばれてきた。


謎に心を躍らせながらも まあいいかとナプキンを膝に敷いて、
わたしはむしゃむしゃ無節操にひとのやさしさを摂り続けている。


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