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信頼性・透明性のある調査手法による人気のサウナ施設ランキング

概要

近年のサウナブームに伴い、様々なメディアがそれぞれ独自の観点によってサウナ施設の評価を行い、ランキングを公表している。これらのランキングは一般的なサウナーだけでなく、サウナ施設経営者やサウナ施設の研究者にとっても有用である。
しかし、現在公表されている様々なメディアによるサウナ施設ランキングは参考になるものの信頼性や透明性の面から問題がある。
本研究では信頼性や透明性を確保しつつ、定期的・安価に実施できる手法により、サウナ施設の人気度を客観的に定量化し、人気のサウナ施設ランキングを決定した。
この結果のランキングは既存のランキングよりも人気度という観点で妥当であり、信頼性や透明性、安価という面で有利である。
今後このランキング結果を基に、他の情報と組み合わせることで「より人気が出るサウナ施設」、「より良いサウナ施設」の検討に役立てていきたい。

1. はじめに

近年、サウナがメディアや SNS で取り上げられることが多くなり、サウナブームが到来していると言われている[1]。

ブームに伴い、様々なメディアがそれぞれ独自の観点によってサウナ施設の評価を行い、ランキングを公表している。
SAUNACHELIN(サウナシュラン)は 2018 年から毎年「今行くべき全国のサウナ施設」上位 11 位をプロサウナー達による審査によって選出し、表彰を行っている[2]。
週刊 SPA!サウナ大賞ではサウナー 1000 人にアンケートを取り「行って良かった!サウナ」上位 30 位を選出している [3]。
また、 SPA&サウナ&日帰り温泉ガイド [4]では記事中で「今入るべき SPA 7」や「サウナBEST 100」などのランキングを公表している。

これらのランキングは一般的なサウナーにとって行くべきサウナ施設の参考となるものであるとともに、サウナ施設の経営者にとっては自身のサウナ施設の知名度を測るためや、上位のサウナ施設を参考として自身のサウナ施設の魅力を向上させる活動のインプットとするためにも重要である。
またサウナ施設の研究者にとっても、サウナ施設の人気度という基礎的な情報が提供されるという点で有用である。
例えば、サウナ施設の他の情報(サウナ温度やトトノイイスの数など)と人気度の相関分析などへの活用が考えられる。

現在公表されている様々なメディアによるサウナ施設ランキングは参考になるものの信頼性や透明性の面から問題がある。
メディアはスポンサーの意向や広告収入、取材先への配慮などの理由により、公正なランキングを公表しにくいという信頼性についての懸念がある。
また、これらのランキングでは選定者は公表されているものの、その選定基準や観点は公表されておらず、透明性の観点での問題がある。

またランキングに求められる性質として、定期的に更新できることと、安価に実施できることが挙げられる。
サウナ施設は新規開業や閉業が起こりうるため、ランキングを一度作るだけでは不十分であり定期的に更新できることが重要である。
定期的に実施するにあたってその作業に多くの工数やコストがかかるのは避けたいことから安価に実施できることも重要である。

本研究では信頼性や透明性を確保しつつ、定期的・安価に実施できる手法により、サウナ施設の人気度を定量化し、人気のサウナ施設ランキングを決定する。
具体的には刊行されている雑誌記事や公表されているメディアにおいて言及された数を指標値として人気の定量化を行い、その指標値を基に「人気のサウナ施設ランキング」を決定する。

2 章ではサウナ施設の人気の定量化手法と、本手法で用いる調査対象の雑誌記事やメディアの抽出方法およびその結果について述べる。
3 章ではサウナ施設の人気を本手法で定量化した調査結果について述べる。
4章では人気ランキングの結果に対して妥当性への脅威を含んだ考察を行う。
5 章では結論と今後の展望を述べる。

2. サウナ施設の人気度の定量化手法

人気度を信頼性や透明性を確保しつつ定量化するため、本研究ではサウナ施設のランキングやオススメをしている雑誌記事や メディアなどを調査し、その言及数を「人気」の指標とする。
また、言及数が多いサウナを「人気のサウナ施設」と定義する。

人気や名声を定量化する指標として、言及数や被引用数を用いる例は多く、有名なものとしてはインパクトファクター[5]が挙げられる。
多様な記事を基に言及数を収集することで、情報源が内包するバイアスの影響を相対的に小さくすることができ、結果の信頼性を確保することができる。
また、公開されている記事を対象とすることで、第三者による検証を行うこともでき透明性を確保することができる。

言及数の集計は以下の考え方に従って目視によって行う。

・同一雑誌内に複数の記事が存在し、同一のサウナ施設が複数回言及されている場合、それぞれ別の言及として集計する。

・複数人へのインタビューなど同一記事内で同一のサウナ施設が別個に複数回言及されている場合、それぞれ別の言及として集計する。

・同一記事内で複数回同一のサウナ施設が単純に掲載されている場合、異なるインタビューアなどの事情がない限り一回の言及として集計する。

調査対象の雑誌記事やメディアは、日本サウナ総研が「年表で振り返る現代サウナの盛衰[1]」において報告している日本のサウナの近代史に登場する代表的な書籍、雑誌、ドラマなどを基に選定した以下の 16 種類である。

・ムック「saunner」[6]
・マンガ「サ道」[7], [8]
・ムック「サウナの教科書」[9]
・ムック「SPA&サウナ&日帰り温泉 完全ガイド」[4]
・ドラマ「サ道」[10]
・書籍「Saunner BOOK」[11]
・マンガ「極上!サウナめし」[12]
・ムック「サウナ for ビギナーズ 2021」[13]
・ムック「SAUNA BROS」[14]
・ムック「saunner+」[1]
・テレビ番組「サウナを愛でたい」[15]
・テレビ番組「&sauna」[16]
・ラジオ番組「マグ万平の のちほどサウナで」[17]
・ランキング「SAUNACHELIN」[18], [19], [2]
・ランキング「週刊SPA!サウナ大賞」[3]
・ランキング「サウナイキタイ」[20]

上記の 1. 〜 6. は日本サウナ総研が挙げていたものである。
7. 以降は近年のマンガやムック、番組、ランキングを筆者が独自に追加している。
5. および 11 .〜 13.は各番組のロケ地となったサウナ施設をそれぞれ 1 度の言及として集計した。
 16. はサウナ情報サイトであるサウナイキタイが公表しているサウナ施設一覧を「イキタイ多い順」と「サ活多い順」でそれぞれ並び替え、各上位 50 サウナ施設についてそれぞれを 1 度の言及として集計した。

3. 人気のサウナ施設ランキング

今回の調査対象からは 494 軒のサウナ施設が抽出された。表 1 に人気のサウナ施設ランキング上位 31 位を示す。
また全ての調査結果に関しては Google Docs で公開している。

信頼性・透明性のある調査手法による人気のサウナ施設ランキング_-_Google_ドキュメント

1 位はサウナーの聖地とも称される静岡の「サウナしきじ」であった。
2 位はサウナ室から横浜の夜景が見られる「スカイスパYOKOHAMA」、3位には590円という破格の値段で 3 種のサウナが楽しめる熊本の「湯らっくす」がランクインした。
その後には東京の「マルシンスパ」、埼玉の「草加健康センター」が続いている。

所在地別では上位 3 位は東京以外のサウナ施設が占めたものの、31 軒中 14 軒東京のサウナ施設がランクインしている。
それ以外では、北海道と神奈川が 3 軒、愛知が 2 軒で、それ以外の府県は各 1 軒ずつのランクインになっている。
これらのサウナ施設は各地域における象徴的なサウナ施設と言える。

地域ごとの抽出軒数や言及数の違いを見るため、都道府県別の抽出サウナ施設数と言及数を調査した。
その一覧を表 2 に示す。

信頼性・透明性のある調査手法による人気のサウナ施設ランキング_-_Google_ドキュメント

抽出された軒数、言及数共に東京が非常に多く、北海道、神奈川がそれに続く。
東京や神奈川の軒数や言及数が多くなる理由としては、メディアの情報が首都圏に集中しがちであることが考えられる。
埼玉、千葉に関しても多いこともこの仮説を補強する。
また、北海道の言及数が多いのは、情報源とした「&sauna」が北海道のメディアであり、地元のサウナ情報を数多く発信していることが理由として考えられる。

各地方の主要都市(仙台、名古屋、大阪、福岡)はそれぞれ抽出数も言及数も多い傾向にあるが、それ以外でも静岡県、熊本県、長野県はその人口などと比較して相対的に言及数が多い。
これはそれぞれの県で象徴的な人気サウナ施設があるためと考えられ、それぞれ「サウナしきじ」(静岡・1 位)、「湯らっくす」(熊本・3 位)、「The Sauna」(長野・14 位)が該当する。
こういった象徴的なサウナ施設は話題となり、人を集めることで地方の活性化の一翼にもなりうると考えられる。

4. 考察

本手法によるランキング結果の妥当性を検討するため、他のランキング結果との比較を行う。
また、構成概念妥当性への脅威の観点から考察する。

4.1 他のランキング結果との比較

本手法によって決定したランキング結果がどのような特徴があるかを他のランキングと比較して検討する。
比較対象としては、公表されているサウナ施設ランキングとして有名なSAUNACHELIN [18],[19], [2]と週刊SPA!サウナ大賞[3](以降「サウナ大賞」と呼ぶ)の 2 つを用いることとする。

SAUNACHELIN は各年度で上位 11 位のサウナ施設のランキングを公表するもので、2018 年度から 2020 年度までの 3 年間分の結果が存在する。
複数年度にまたがってランクインするサウナ施設もあるため、順位毎に 1 位は 11 pt. 2 位は 10 pt. … 11 位は 1 pt. といったポイントを与え、3 年間分の総計によってランキングを再構成したものと比較した。
その結果を表3に示す。
順位A の列は本手法によるランキング結果の順位である。

信頼性・透明性のある調査手法による人気のサウナ施設ランキング_-_Google_ドキュメント

3 年分の SAUNACHELIN の結果より、25軒のサウナ施設が抽出された。
その内、本手法によるランキングにも入っている施設は 14 軒であり、56% は同じ施設が選ばれているが、44% は異なる施設が選ばれている。

特筆すべきは本手法によるランキングでは 1 位となっている「サウナしきじ」や 5 位の「湯乃泉 草加健康センター」といったサウナ施設が SAUNACHELIN では選出されていない。
これらの施設に共通するのは人気があるものの歴史がある施設であり、SAUNACHELIN の評価観点である「新たなサウナの価値を導き出し、サウナ愛を通じてより多くのサウナーをととのえた、革新的なサウナ施設」[20]から外れているためと考えられる。
本手法は革新性などでサウナ施設を除外しておらず、より一般的な「人気」という観点でのランキングでは本手法の方が妥当な評価ができるといえる。

サウナ大賞と本手法のランキングの比較結果を表 4 に示す。
順位A の列は本手法によるランキング結果の順位である。

信頼性・透明性のある調査手法による人気のサウナ施設ランキング_-_Google_ドキュメント

31軒のサウナ施設が抽出された。
その内、本手法によるランキングにも入っている施設は 22 軒であり、71% が同じ施設が選ばれている。
サウナ大賞では順位内にも関わらず、本手法では圏外になっている 9 軒についても本手法による調査の言及数が多いサウナ施設であり、「ニュー椿」を除いて全て 100 位以内に含まれていた。
このことから本手法でもサウナ大賞と同様に人気のサウナ施設を順位付けられたと考えられる。
またサウナ大賞は全国のサウナー 1000 人にアンケートを取るという手法であるが、これは手間とコストがかかる手法であるが、本手法は公表された記事を調査するだけのため、サウナ大賞の手法と比べるとコストを抑えることができる点で優れている。

4.2 構成概念妥当性への脅威

本研究の構成概念妥当性への脅威として、人気の指標値として雑誌記事やメディアでの言及数だけで測定していることが挙げられる。
人気の指標としては一般的に公表されている記事だけでなく、SNSなどの言及数を用いる手法もある。
日本サウナ総研は過去1週間の「サウナ」という単語を含むツイートを取得し、その中に含まれるサウナ施設名によって人気を計る取り組みを行っている[21]。
このような取り組み結果も加えていくことで、より妥当な人気の指標値を構成することができるようになると考える。

また今回は言及数だけに着目しており、記事に記載されているランキングの順位や記事の扱いの大きさ、その記事が掲載されている媒体の影響力などについては考慮していない。
例えば、ランキング記事であればその 1 位と 100 位では人気に大きな違いがあると考えられるし、複数ページで紹介されている施設と 1 行だけで紹介されている施設にも違いがあると思われる。
このような場合、指標値に重みを付けて集計するのが一般的であるが、どのような基準で重みを定量化するのかは容易でない。
今後、妥当な重み付け手法についても検討していきたい。

5. おわりに

本研究では信頼性や透明性を確保しつつ、定期的・安価に実施できる手法として、刊行されている雑誌記事や公表されているメディアにおいて言及された数を指標値とする人気の定量化手法を提案した。
また、その手法に従って 16 種類の情報源から各サウナ施設の言及数を調査し、人気のサウナ施設ランキングを作成した。
このランキングを既存のランキングと比較を行い、提案手法のランキングは既存のランキングよりも人気度という観点で妥当であり、信頼性や透明性、安価という面で有利であることを示した。

今回策定した各サウナ施設の人気度の情報は、他の情報と組み合わせることで活用できる基礎的な数値である。
例えば、サウナの温度や水風呂の温度などの施設情報と人気度の情報を組み合わせることで、人気が出やすい最適なサウナ温度などを検討できると考えられる。

今回の結果をサウナ施設研究の第一歩として、「より人気が出るサウナ施設」、「より良いサウナ施設」の検討に役立てていきたい。

参考文献

[1] 小学館 SJ ムック saunner+,小学館 (2021).
[2] SAUNACHELIN 2020 <https://www.saunachelin.com> (accessed 2021-05-30).
[3] 第1回 週刊SPA!サウナ大賞「行ってよかった!サウナ」2020 <https://nikkan-spa.jp/1721330/2> (accessed 2021-05-30).
[4] 100%ムックシリーズ 完全ガイドシリーズ219 SPA&サウナ&日帰り温泉ガイド,晋遊舎 (2018).
[5] クラリベイト “Journal Citation Reports: インパクトファクターとは” <https://support.clarivate.com/ScientificandAcademicResearch/s/article/000007386?language=ja> (accessed 2021-05-30).
[6] 小学館 SJ ムック saunner,小学館 (2014).
[7] タナカカツキ: マンガ サ道〜マンガで読むサウナ道〜(1),講談社 (2016).
[8] タナカカツキ: マンガ サ道〜マンガで読むサウナ道〜(2),講談社 (2019).
[9] GetNavi 特別編集 大人のたしなみシリーズ サウナの教科書 電子版,学研パブリッシング (2015).
[10] テレビ東京: テレビドラマ サ道 第1話(2019/07/20放送)〜第12話(2019/10/05放送)、年末SP(2019/12/28)、2021年冬SP(2021/02/14放送)
[11] Saunner BOOK
[12] 橋本智広: 極上!サウナめし Vol.1,ナンバーナイン (2019).
[13] サウナ for ビギナーズ 2021, 晋遊舎 (2021).
[14] SAUNA BROS. vol.1,東京ニュース通信社 (2021)
[15] BS朝日: サウナを愛でたい #1 (2020/03/31放送)〜#40(2021/06/07放送)<https://www.bs-asahi.co.jp/sauna/> (accessed 2021-06-12).
[16] 北海道文化放送: &sauna (2020/07/02放送)〜(2021/06/09放送) <https://www.uhb.jp/program/and_sauna/> (accessed 2021-06-12).
[17] MROラジオ : マグ万平の のちほどサウナで|突撃!!我が街サウナ #1 (2019/05/28放送)〜#43(2021/04/20放送)<https://www.youtube.com/channel/UCqcoat4Wur2_9SMKg6PfpYg/> (accessed 2021-06-12).
[18] SAUNACHELIN 2018 <https://www.saunachelin.com/saunachelin-2018> (accessed 2021-05-30)
[19] SAUNACHELIN 2019 <https://www.saunachelin.com/saunachelin-2019> (accessed 2021-05-30)
[20] サウナイキタイ <https://sauna-ikitai.com/search> (accessed 2021-05-30).
[21] 週刊サウナツイート分析 <https://twitter.com/sauna_soken/status/1403860606751444994> (accessed 2021-06-14).

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