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政治資金は広く薄く集める(2016)

政治資金は広く薄く集める
Saven Satow
Feb. 05, 2016

「汗は自分でかけ。手柄は人にゆずれ」。
竹下登

 甘利明前経済再生相のカネをめぐるスキャンダルの実態が『週刊文春』を始め次々と報道されている。それはこんな人物が巨額なカネの動くTPP交渉を担当していたのかと社会を絶句させる。さらに、他の閣僚についても疑惑が浮上している。

 思い出してみれば、今回の疑惑のみならず、安倍晋三政権発足以来、与党議員の政治資金の使途に関しても唖然とする実態が明らかになっている。それはみっともない小物が日本の統治に携わっている惨めな現実を国内外に示している。安倍首相に至っては政治資金で「ガリガリ君」を購入している。これでは、参考書を買うと親からもらったお金をゲームや飲食に浪費する子どもと同じである。こんな未熟な人物が首相の座に居座っている。世も末だ。

 ところが、今のマスメディアには腐敗政治家を擁護する記者がのさばっている。彼らが首相と会食していることはよく知られている。ごちになっていては政治家とカネに関する認知がおかしくなるのは当然だ。そんな日本のジャーナリズムの堕落した実態が国内外に示されている。

 竹下登は、回顧録『政治とは何か』の中で、政治資金を広く薄く集めるようにしていたと告げている。彼は、これを自らの経験のみならず、佐藤栄作を始めとする先人からの教えとしても語っている。

 佐藤栄作は、政治家を長く続けるための資金の集め方を若き竹下に指南する。それは、年に1万円寄付する支持者を100人持つことである。だいたい全都道府県に1県当たり2人の支持者で、100万円だ。貨幣価値が違うので、現在はその10倍の1,000万円と考えればよい。

 現在の条件で検討しよう。支持者1人の月間寄付金は1万円に満たない。夏場の1ヵ月の電気料金よりも少ない。しかし、寄付金総額は1,000万円であるから、結構な金額だ。見事なフェルミ推定だと言わねばなるまい。この発想は今でも有効である。

 竹下は、山梨には金丸信がいるなど仲間に配慮する必要があったので、実際にはすべての都道府県に持つことができなかったと言っている。しかし、広く薄く集めることは彼の政治資金に関する原則になっている。

 狭く厚く集めると、特定支持者の利益に沿って政治をすることになってしまう。これでは公共の利益のための活動がしにくい。贈収賄の危険性もある。また、他の支持者と利益が対立したり、カネに汚い政治家と世間から失望されたりする。支持層が広がらないのみならず、失職する恐れさえある。

 広く薄く集めた政治資金ほど寄付に感謝し、大切に使う必要がある。支持者は私益ではなく、公益のために寄付しているからだ。彼らは公共性への意識が高い。それに反した活動をしたり、公私混同の浪費をしたりすれば、金額が小さいだけに、支持者はすぐに離れてしまう。

 バラク・オバマ大統領がインターネットを利用して広く薄く寄付を募ったことはよく知られている。Web2.0に基づくクラウド・ファンディングだとそれを解説する者もいる。しかし、日本の政治家がこの方法を真似してもうまくいかないだろう。ネット利用の本質は「広く薄く」にあって、資金集めを楽にするためではないからだ。ある方法をとれば、おのずとそうなるという前提は捨ててなければならない。

 広く薄く資金を集めるには、政治家は公共の利益のために働かなければならない。選挙の時以外でも、街を歩き、人々と会う。官僚は政策を立案することが得意であるけれども、彼らは街の雰囲気や声を知らない。政治家が街の漠たる気分や市井の声を政策に反映させなければならない。

 竹下は土建屋選挙が強い理由も明らかにしている。彼は、利益誘導を求めて建設業が自分に協力するわけではないと説く。地方の建設業者は中小零細である。1社当たりの従業員数は少ない。けれども、全体的に見れば、雇用者数が多い。建設現場は労働者が集まっている。選挙を始めとする政治活動をそこで行うと、人が多いから、効率がいい。実際に労働者が汗をかいている現場に足を運び、その声を聞く。汗をかく者は汗をかく者を信じる。

 回顧録を読むと、竹下が選挙に強かったのも当然とうなずかざるを得ない。彼の派閥の野中広務は、見返りを求められたくないので、政治資金パーティーを開かないと言っている。かつてはこのように世代間で教えが継承されている。

 ところが、「いい人とだけつきあっていると選挙落ちちゃう」と甘利前大臣は16年1月28日の辞任記者会見で口にしている。狭く厚く集める方が政治家には楽だろう。特定の支持者と癒着すればよく、街を回る必要もない。資金の目処もつきやすいし、労苦も少ないから、使途は雑になる。さらに、政党助成金がこれを増長させる。それが安倍政権の与党政治家の姿だ。
〈了〉
参照文献
竹下登、『政治とは何か』、講談社、2001年

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