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腐敗認識指数と税制論議(2008)

腐敗認識指数と税制論議
Saven Satow
Jun. 06, 2008

「民主主義は、役人どもの手による抑圧と略奪から社会の成員を守ることを特色的な目的と主旨にしている」。
ジェレミー・ベンサム

 かつて東京のタクシーは、その運転マナーの悪さから、「神風タクシー」と呼ばれています。しかし、今では、霞ヶ関界隈の深夜には特別サービスをする「居酒屋タクシー」が走っています。

 日本の民主党の長妻昭衆議院議員の追及により、財務省を筆頭に13に政府機関の官僚がある個人タクシーのグループからビールやつまみ、さらには現金まで受け取っていたことが明らかとなっています。

 こういった報道がされると、一部の職員はそうかもしれないが、全体としては一生懸命仕事をしているという反論が霞ヶ関周辺から発せられます。

 しかし、これはたんなるスキャンダルではありません。と言うのも、増税を含む税制改革には、政府への信頼性、特に、公務員のモラルの高さが欠かせないからです。しばしば、瑣末なことにとらわれず、税制の抜本的論議をすべきだと政治家やメディア・タレントは口にします。

 けれども、このニュースに接して、「税金をとりやすいとこからとっておいて、無駄遣いはするわ、自分たちだけいい思いをするわ」と憤る庶民感情の方が税制の本質に近いのです。税金を上げる論議をする前に、無駄遣いを減らすことを考えるのは当然ですが、それ以前に公務員のモラルを向上させることが先決です。「もったいない」の前に「みっともない」です。

 ベルリンに本部を置くNGO「トランスペエアレンシー・インターナショナル(Transparency International)」が毎年世界の「腐敗認識指数(CPI: Corruption Perceptions Index)」を発表しています。これは政治家や官庁の職員などの公務員の腐敗がどれだけ認識されているかを国際比較した指標です。

 昨年の日本のランキングは、一昨年同様、第17位です。しかし、その理由を読んでみると、公務員の腐敗ははなはだしいが、それが報道されているだけましという何とも皮肉な内容です。公務員のモラルは低く、その対策もなっていないというわけです。

 上位の10ヶ国はデンマーク、フィンランド、ニュージーランド、シンガポール、スウェーデン、アイスランド、オランダ、スイス、カナダ、ノルウェーです。これらの国の多くは人間開発指数や世界平和指数などでも上位を占め、住みやすい国という国際的評価を得ています。情報の公開性を高めたり、規制を強化したりして公務員のモラルを維持・向上させているのです。確かに、これらの国では、国際ニュースを見ていても、公務員による金銭等をめぐる不祥事にあまりお目にかかりません。

 ノルウェーの反ナチス非暴力抵抗運動の指導者ディデリッヒ・ルンドは、L・S・アプシーの『平和を造り出す力』によると、公開性の力について次のように回想しています。

 秘密主義は大胆率直にあからさまにものを言うことや、明白な真理に最後まで固執するという仕方に比べれば、力にはならなかった。このオープンな精神によって抵抗した人々は皆、険しい困難な事態の中でも、静かな、幸福な、ある不思議な感情で満たされていた。われわれは何よりも、能率のよさ、智慧、勇気、そして自己犠牲の精神を備えていることが必要である。もし、われわれがこれらの特質をある程度、持っているならば、非暴力抵抗は正義と愛を求めての闘いに、確実性の高い、かつ悦びに満ちた闘い方の知識を身につけさせてくれる。また、われわれの闘いこそが永遠の勝利へと導く唯一の闘いであると悟るようになるであろう。

 こうした歴史を持つノルウェーのような国は公開性の力を社会のみならず、政府もよく理解しているのでしょう。

 控除や免除などもあり、単純比較はできませんけれども、いずれの国も消費税の税率は日本よりも高いのです。税率が高いにもかかわらず、消費も決して弱くありません。政府に信頼性があり、社会保障制度が充実して将来不安が少ないために、消費しようという気になるのです。

 マックス・ヴェーバーは国家を暴力の独占と官僚機構の発達と捉えています。しかし、これらは税の徴収と財政(統治の経済活動)のための手段です。反政府勢力が実効支配し、彼らが排他的に税を集めている地域が世界的にありますが、そうなると、しばしばその国は国家の体をなしていないと見なされることがあります。税は国家の存在意義にもかかわる問題です。前近代的に暴力を使って強制的に税をとえいあげるというわけにもいきませんから、政府は人々に対して信頼性を持たれるように振舞わなければならないのです。

 1973年、第3次国連海洋法会議において、タンザニア代表は日本人について「彼らは自国の近海を魚がすめないまでに汚しておいて、他国の海に魚を獲りにやってくる。彼らは自国の利益しか考えない民族である」と発言しています。しかし、ケニアのワンガリ・マータイによって「もったいない(mottainai)」が今や世界共通の言葉となっています。これを機に腐敗認識を高め、「みっともない(mittomonai)」も同様にすべく日本政治は世界に発信すべきでしょう。「だがあなたは 腹黒い役人の手中にある それを思うと わたしの胸はつぶれる」(マリーナ・ツヴェターエフ『愛のしるし』)。
〈了〉
参照文献
阿木幸男他、『非暴力』、現代書館、1987年
マックス・ヴェーバー、『職業としての政治』、脇圭平翻、訳岩波文庫、 1980年
トランスペアレンシー・ジャパン
http://www.ti-j.org/
財務省、「付加価値税率(標準税率)の国際比較」
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/102.htm


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