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此岸からの祈り

ビリヤードのように散り散りとなった感情をひとつずつ収めていくしかない日々である。ふいに規則無く積まれた本の山から江國香織の『つめたいよるに』を手に取った。抱え切れぬ悲嘆をフィクションへ押し上げようとした。 創作はけれど、現実に洩れ、やはり心を蝕んだ。 愛犬が虹の橋へ旅立った。 12年と8ヶ月。私たちは家族であった。 病は無言に訪れる。二ヶ月前、平時にやや咳の混じる程度の軽症で動物病院を受診した。健啖であり身動きも軽快な容体は、しかし既に末期であった。余りに唐突な宣告は、徒

    • 幸せは歩いて来ない、だから

      評論家とか有識者とか経営者とか、成功者ポジションで、口から思考を垂れ流してる動画ばかりがYouTubeのショートに流れてくる。薄ら寒い。 インスタのリールに移れば、チーズだらけの食べ物とか可愛い犬猫の動画で、それらは嫌悪感のない魅力的なものばかりなんだけど、蠱惑的な欲望の塊でもあって気味が悪い。 TikTokは開いた瞬間、もう対象年齢じゃないよ、って如実に訴えかけてくる。 無意識操作でとにかくスマホをいじって、眠くなるまで時間を潰す。 決して有益ではない時間を過ごしておきなが

      • 生活の遊びを、ミニマリストに

        最近流行りのミニマルな生活、皆さん実践しているのでしょうか。 私はミニマリストが大嫌いだ。 少なくとも私は、ミニマリスト的生活は絶対にできない。 物を集めるために生きている、といっても過言ではない。 それくらい、私は物が好きだ。 私の家には物があふれている。 本、CD、服、香水、調理器具、その他雑貨。 今の時代CDをプレーヤーで聴くなんて滅多にないのに、それでも手放すことはできない。 「必要か?」と人に聞かれれば、 確かに不必要なものは多いだろう。 しかしそもそも、“必

        • フィルムに写る愛情

           昨今、「写ルンです」が小さなブームになっているらしい。噂では聞いていたが、手に取ったのは恋人の影響。曰く、「写ルンです」を1個買って旅行へ行くのが楽しいらしい。旅行とまでは言わないが恋人とは遠距離恋愛ということもあり、自然と月に一度、会えるタイミングでフィルムカメラを買うのが決まりになった。  最新のiPhoneを手にしながらアナログなフィルムカメラを使うなんて、最初は矛盾を感じたがコレが面白い。なにせ何がどう映るかわからない。撮りたいものが撮れているかわからないままにシ

        此岸からの祈り

          はじめての恋を、ミサイルの下で

          水着姿のグラビアアイドルがタコと戯れている。 恋人の寝息が詰まった、2時40分。 点滅する深夜番組は、無邪気に眠気を奪い取る。 今日1日を振り返りながら、私はテレビの電源を消した。 この人は、キミとしか呼ばない。 だから私は安心できた。 私の肩書きや、状態や、そんな形容するもの全てをとっぱらって、私という個体を見つめてくれる眼に、私は頷けた。 それが、何も見ていないことを、知らないままに。 おはよう、お疲れさま、おやすみ。 それだけで充分だった。 カレーが大好物で、生野菜

          はじめての恋を、ミサイルの下で

          贅沢は味方、いいね!

          Webラジオの中で歌手のYUKIがこんなことを話していた。 「SNSの『いいね!』って英語だと『Like!』なんだよね。『Like!』を『いいね!』って訳すのって、いいね!」 笑いながらいいね!を連呼していて、ぼくもつられて笑ってしまったけど、たしかにそうだよな〜と思った。 「好き!」だとなんか「あっそうですか」ってなるし、「うらやましい!」だとどこか受け手に罪悪感が生まれる。 「いいね!」は、自分が共感したという想いだけが相手に伝わって、とてもやさしい言葉だと思った。 そ

          贅沢は味方、いいね!