寅さんになりたい。その1

幼少の頃、僕らの住んでいたアパートの隣に、僕のお姉さんがいた。
お姉さんと言っても、本当に血が繋がってる訳じゃなく、幼い僕をとても可愛がってくれた、隣の家のお姉さん。

ちょっとぽちゃりで、優しくて面倒見が良くて、僕の恋愛観に、きっと多大な影響を与えた人。

今でこそ惚れっぽくて、色んなタイプの人を良いなぁ、と思うようになったけど、僕の恋愛は、もう会うこともない彼女の後ろ姿を追うようなものだったかも知れない。

大人しく内向的な僕の手をとって、色んなところに連れて行ってくれた。
小学校に上がる頃僕ら家族が引っ越すまで、本当のお姉さんみたいにいつも一緒だった。

引っ越してしばらくは、お互いの家を行き来していたように思うが、やはり次第に疎遠になっていった。
僕も、いわゆるお姉さんロスで、小学校の頃は、内向的な性格に拍車がかかっていたように思う。

彼女に会いたくて、友達と自転車で隣の駅の彼女の家まで行ったこともあったが、結局会えずに帰ったりした。

真偽は分からないけれど、大人になって水商売の世界に入ったとかなんとか、そんな噂もちらっと聞いたこともあった。

だけど、もし、僕がテレビ番組のあの人に会いたい的な企画で出たとしたら、きっと名前を挙げるのは彼女だろう、と、時々そんな空想に浸ったりもした。

多分、もう会うこともないと思うし、僕のことも忘れているかも知れないけれど、僕にとって彼女は、一生忘れることの出来ない、僕のお姉さんだ。

#恋愛エッセイ