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アンケート小説

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記事一覧

「短編」心に焔を「小説」

 自分の役割は終わったと思わないか。
そう言ったのはグランの友人で、同業の時計職人だった。
「なんだよ急に」グランは赤ら顔で問う。
 すると友人は、自分の節くれた指を見ながら。
「役割が終わったんだよ」と言った。
 桜という東洋の花が町役場で咲き誇っているときだった。
 町は珍しい花を祝うために、祭りを開いて賑わっていた。
 グランは冗談めかして友人の肩を叩く。
「何なんだよ、急にそんなこと言って

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〈小説〉パズル〈少しホラー〉

 布団をかきあげてベットの縁に腰掛ける。またと思ってしまったが、隣で寝ている部長を見ると、ひとときの情事に身を溺れていた自分に気がつく。背筋が冷える。
 部長との関係は半年以上にも及んでいた。最初は仕事の後に皆で飲む関係だったが、それが二人きりで飲む関係になり、やがてはベットを共にする仲になった。
 いったいどうしてこうなったのかと思うだろう……昔の私は。しかし今の私からすると、何か、必然めいたも

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それは甘くて、酸っぱいもの(小説)

 国語の先生に恋をした。めがねをかけてて、猫のように目を細めることのある先生だった。そんな表情を浮かべて、のんびりした口調で授業をするもんだから、裏ではニャー先生と呼ばれていた。

「桜木ー。カギ括弧の部分を読んで」

 ニャー先生が私の後ろの席に座る友人の萌衣(もえ)に授業で声をかけた。
 萌衣は立ち上がり、教科書を持って読み出す。淡々とした口調でつまることなく読み進めるから、段々と眠くなってき

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