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大切な人に贈りたい、とっておきの小説5選


今日は、親しい人に本をプレゼントする"Saint George Day"(スペイン語だと"Diada de Sant Jordi")かつ、世界本の日。
でも「大切な人に本をプレゼントしてみましょう」なんて言われても、戸惑う人も多いのでは…?

プレゼントに本を贈る人は意外と少ないし、何よりも選ぶのが難しいのが現実です。とりわけ小説の好みというのは個人の根幹の部分に関わる問題だから、どれを送ればいいのかすっかりわからなくなってしまいますよね。

そんな方のために、わたしがお気に入りの小説たちを、どんな人向けかを述べながら勝手に紹介していこうと思います!どれも以前の本紹介noteではおすすめしていない新しいものです。(もう日本は夜なのがとても悲しい)

ちなみにSaint George's Dayの由来はこちらのnoteがとてもわかりやすかったで、ぜひ一読を。



1.「自分」を探しているあの人に

i /西加奈子

この物語の主人公の名前は、ワイルド曽田アイ。シリア難民として生まれ、ニューヨークでアメリカ人日本人カップルの間に養子として引き取られ、小学六年生以降ずっと日本で暮らしている女の子だ。しかしアイは「自分は選ばれて日本にやってきた、もしかしたら母国での犠牲者は自分かもしれなかった」という負い目を常に感じていて…。

i、アイ、愛、どれも"ai"。この物語は、アイとその周りの人々が、生涯をかけて自分自身と愛を追求していく物語だ。

「自分らしく生きるとは何か」「自分を愛するとは何か」そういったことに疑念を抱いている人が周りにいたら、ぜひこの本をプレゼントしてほしい。そして、自身でも読んでほしい。この小説は、現代に生まれるべくして生まれてきた小説なのだから。

「実は次はLGBTについて書こうと思っていたんです。自分がLかGかBかTか分からない、どこに属するかも分からないQ(=Questioning)という概念が素晴しいなと思って。でも、究極私たちが最初に属すアルファベットがあるとすればI(=自分)だな、ということは思っていました」(ポプラ社公式インタビューより)

インタビューはこちらから。


2.アートを愛するあの人に

暗幕のゲルニカ/原田マハ

最近大人気の原田マハのアート小説の一つ。わたし自身がアートを愛している人間だから断言するけれど、原田マハのアート小説は絶対に裏切らない。本当に、アートとアーティストへの愛と敬意の存分に詰まった作品群であるのだ。

この物語はピカソの反戦作品「ゲルニカ」を巡るミステリーで、MoMAのキュレーターが主人公の現代パートと、ピカソが主人公の過去パートが交互に進んでいく形で構成されている。ピカソの徹底した正義、制作への途方のない熱量、それを見守る恋人・ドラの切ない胸の痛み、キュレーター・瑤子の強い願い、繰り返される人類の負の歴史…。物語は全てが交錯していって、最後の章で巻き起こる奇跡に息を呑まずにはいられない。

戦争と平和と、現代においてアートが持つ力、それらについて、じっくりと考えさせてくれる素敵な物語です。

そしてこれを読んだ後には、『楽園のカンヴァス』『ジヴェルニーの朝食』『たゆたえども沈まず』『モダン』などをおすすめします。

(ちなみにわたしは明日から南仏を旅行してピカソの美術館を巡ってきます!たのしみだああ)


3.想うと哀しくなるあの人に

海辺のカフカ/村上春樹

言わずと知れた村上春樹の大人気作。余計なことは言いません、どんなに言葉を尽くしたところでこの本の魅力を語り尽くすことはできないから。

「ねえ大島さん、ひとりでいるときに相手のことを考えて、哀しい気持ちになることはある?」
「もちろん」と彼は言う。「おりにふれてある。とくに月が蒼く見える季節には。とくに鳥たちが、南に渡っていく季節には。とくにー」
「どうしてもちろんなの?」と僕は尋ねる。
「誰もが恋をすることによって、自分自身の欠けた一部を探しているものだからさ。だから恋をしている相手について考えると、多少の差こそあれ、いつも哀しい気持ちになる。ずっと昔に失われてしまった懐かしい部屋に足を踏み入れたような気持ちになる。当然のことだ。そういう気持ちは君が発明したわけじゃない。だから特許の申請なんかはしないほうがいいよ」
ー『海辺のカフカ』下巻149ページより

この台詞を読んで思い出し、そして哀しくなった人がいたのなら、その人にぜひこの本を贈ってみてください。


4.日々に疲れたあの人に

ペンギン・ハイウェイ/森見登美彦

昨年夏に映画化もされた有名作品、『ペンギン・ハイウェイ』。

今思うと、小学生の頃って毎日何をしていたんだっけ?何もすることがなかったはずなのに、毎日があんなにきらめいていたのはどうしてなんだろう?

この小説に詰まっているのは、その「きらめき」の正体。全てが新しくて、不思議で、追求せずにはいられない…そんな小学生時代の、ソーダ水みたいな思い出。

この物語が呼び起こすのは、いつかの私たち自身と、それに付随する少し痛くて眩しい記憶の数々。そしてそれらは日々の私たちの疲れを洗い流し、新たに背中を押してくれることだろう。

そしてラスト一ページの切なさが半端ない。わたしは最寄り駅でちょうど降りるときに読み終わったのですが、帰り道に歩きながら号泣したのを覚えています(笑)そして読後に映画主題歌である宇多田ヒカルのGood Nightを聴くと、また歌詞が沁みてきてボロボロ泣いてしまうのでした。

映画の情報はこちらから。



5.悲しいことがあったあの人に

デッドエンドの思い出/よしもとばなな

生きていく上で悲しいことなんて経験しないほうがいいけれど、それでも出遭ってしまうことはある。それは交通事故のように避けようのないもので、その衝突を前にするとどんな備えも一瞬で霧散してしまうのだ。そして悲しみの渦に足を捕られたら最後、自分の人生の意味を見失い、呼吸ができないままどんどん海の底へ沈んでいってしまう。そういうものなのだ、悲劇というのは。

悲しみからの療養の日々の中、色はその鮮やかさを増して、風の音はまるで誰かの歌のように優しさを帯びる。そしてその研ぎ澄まされた感受性とただ過ぎてゆく時間こそが、私たちの痛みを静かに癒してくれる。『デッドエンドの思い出』は、そんな優しさの詰まった、まるで薬箱のような物語。5つの短編はどれもどこか不思議で、暖かい。

人が人を救いたいと思うなんてエゴだ、なんて誰かが叫ぶのを聞いたことがあるけれど、その相手が大切であればあるほど、役に立ちたいと思ってしまうのが人間の性なのではないだろうか。そんな相手には、何も言わずにそっとこの小説を差し出してほしい。きっとその人の傷を静かに癒してくれるはずだから。


以上です。こういうnoteを書いていると、自分がどれほど物語に救われてきて、物語を愛していて、その存在が自分の根幹をなしているか、ひしひしと感じます。

どうかみなさんも、自分だけのとっておきのスペシャルな物語に出会えますように。そして、大切な人に本を贈ったり贈られたり貸したり貸してもらったりして、そのスペシャルを増やしていけますように。

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