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【Web3書籍紹介】『世界2.0』(幻冬舎)

本の情報

書名:『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』
著者名:佐藤航陽
出版社:幻冬舎
ISBN:978-4344039544

こういう人にオススメ!

  • ネットの有象無象について「わかってる感」を醸していきたい人

  • メタバースを取り巻くIT、エンタメ、哲学、政治、ビジネスに関する教養が欲しい人、これらを冷笑する者を引き離したい人

  • 上場企業経営の経験者ならではの視点から、時代の一歩先二歩先を知りたい人

総評

 Web3系の書籍なのにタイトルが『世界3.0』ではなく『世界2.0』なのは、著者がかつて『お金2.0』で20万部超えのヒットを飛ばしたことに依るだろう。Web3に留まらず、メタバースやAIなど広範な内容を扱っているからこそのネーミングといえる。

 『お金2.0』は2017年の書籍で、今から5年”も”前に書かれたものだ。だが、その視点は現在においても初めて読む人、とりわけ「価値」や「経済」という言葉を聞いて、カネに変換できるものだけを思い浮かべる人にとって、衝撃を与える本だと思う。おそらくこの視点はWeb3で語られるトークンエコノミーを理解するのにとても必要で、このフラットさがなければ例えばDAOにおけるルールメイキングの要点を掴むのは難しいだろう。若干カブる部分はあるが、ベストセラーでもあるし、『世界2.0』を読み解く補助線としてあらかじめ読んでおくのが良さそうだ。

 本書に話を戻すと、『世界2.0』はメタバースを中心としながらも、そこに拘泥せず、幅広い題材を網羅していく中で、世界(社会)とは? 価値とは? といった根源的・普遍的な内容に切り込んでゆく。

 この幅広さが少々厄介で、読む側にも相当な知識量が求められ、あるいはキーワードで躓いたらすぐ調べるくらいの「前のめり」な姿勢が要る。他のWeb3書籍が、せいぜいGAFAとNFTとブロックチェーンが何であるかのイメージさえついていれば、あるいはメタバースについてスクリーンショットや動画で見たことがあれば、取りあえず読めてしまう、というのとは違う。

 例えば、P.130でアバター技術の将来について映画『竜とそばかすの姫』が引き合いに出されているが、ストーリーについてP.111で若干説明されている程度にとどまり場面写真などもないことから、そのスクリーンで描かれていたアバター技術がどんなものだったのか、未見の読者が想起するのは難しい。

 こういった「アニメもアバターもAIもどこかしらアンテナに引っかかっている」読者、臆せず言えばマルチなオタク的読者と「知らない人はかすりもしないほど知らない」読者の間を埋める解説が少ないため、突っ走った自説披露に読めてしまうところが多い。「わからない人にはわからない」ままに、徹底的に置いてきぼりにする傾向がある。

 これの原因は、序章に書かれている。P.39の『失敗から学んだ意思決定の難しさ』という項がそれだ。補完的にP.157も。身も蓋もない書き方をすれば、上場企業社長として、根回しもコンセンサスもなく新規事業に突っ込んでたらステークホルダーに妨害されて辞める羽目になった、社会は個人の理想とは関係なく回り続ける、という話だ。

 その前後に、ニコラ・テスラ、Yahoo!、宇宙事業の例を置いて、先見の明かつじっくりやらなければならない事業と、功を急く世間の評価には常にギャップがあることをこれでもかと補強している。ビジョナリーはいつもつらい。

 例えば、P.14の『バズワードに対する人間の態度』の項。類例に悪意が感じられる。この類例ではじかれる、チャラいものを疎外する人、斜に構え冷笑する人、すなわちこれから始まる新しい世界を理解しようともしない人々に対しては徹底的に、果実の旨味の、ほんの少しの香りも嗅がせたくないので置き去りにしていく、そういう意志を強く感じる。

 P.16でメタバースについて『そもそも世界最高の人材と世界最大の資金をもつGAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)のうちの2社(AppleとFacebook)が将来有望と読んで兆円単位を投資していくのが確定している分野に、普通の人間である自分たちが「その可能性はない」と考えるのはちょっと無理があります。』と断じているが、おそらく著者の周辺には「その可能性はない」と言う人が多かったのだろう。当たり前に肯定できる材料があるのに肯定しない人はバカだ、というのの迂遠な言い換えである。

 こういう感じで、本書は怨嗟に包まれている。怨嗟を振り切るために、『お金2.0』で見せた開拓者としての高揚感を忘れたのか、突拍子もない表現で一転突破しようとする向きがある。

 このスピード感とダイナミックさに置き去りにされない人、数々の例示についてをわざわざ解説されなくても読めてしまう人にとっては、むしろ「ああ、あれね」と何を言いたいのかすぐにわかるので、著者の主張が浮き上がってくる。言い切りの部分の根拠も明確で小気味良い。

 第一章は最初からメタバースは「神の民主化」とブチ上げる。そこからわかりやすい身近な例で引き寄せ、その後軽快に社会が変革するための論理を畳みかけて連ねてくる。このスタイルがこの書籍の特徴で、疑問が出ることを察知したかのように「~からです。」と著者がそう考えた理由が必ず置かれている。引き合いに出してくる書やコンテンツも豊富なので、先述したとおり、わからないものを検索しながら読めばより一層理解を深められるだろう。

 第二章と第三章は「世界の創り方」と称し、この世界がどのような要素で構成されているかということを丹念に解説する。これは『お金2.0』で価値とは何か、経済とは何か、ということについてを説いたのと同じ手法だ。だが金や価値といった「視点と尺度」だけではなく、生態系という言葉が使われているように、世を構成するエコシステムには、パラメータがものすごく多い。

 なぜデジタルツインが3Dグラフィックへとガワを写し取った都市ではダメなのかというと、現実世界をベースにした強力なデータ基盤がなければ成しえないからだ。著者はその無数のパラメータを属性ごとに分け、ラベルを丁寧に貼っていく作業をしているように見える。

 おそらく、これが読者にとって理解が一番難しい。まず、現実世界が数々の変動するパラメータで構成されているというのを意識しながら生活している人が皆無。この世界、あらゆる物がスマートコントラクトのように(あるいは二十年くらい前ならオブジェクト指向のように)パラメータを持つものが自然法則に基づいてIN/OUTをしている、INとOUTの中途で演算されている、ということがわからない。

 ここでしっかりしがみつくことができなければ、この二つの章は読み解けないと思う。とくに既存の価値観の権化といえる「利益重視を言い張るステークホルダー的な人」には、百年たっても無理に思う。まあ、そういう人は想定読者ではないので良いのかもしれないが……。

 図表も、抽象的すぎて、P.194の「世界構築マニュアル」の図も樹形図のようで体系立てられているかというと疑問だ。このあたりは著者というよりも編集の範囲なので、これは何というか、頑張ってほしかったところである。

 メタバース、デジタルツイン、あるいはまた別の「世界」は全然くだらなくない、ということの証拠を丁寧に集めた、怨嗟と執念の書。

主な章の紹介

 本書は、各章を数行で解説するというのが大変に難しい。なので今回は割愛。

(以上)


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