2022/06/11 本日のリーディングリスト

決済代行業と表現の自由

 ネットで話題になっていた件ですが、一般のニュースにはなっていないので、ちょっと解説します。

 簡単に言うと、「創作物取引サービス」をやっている企業が独自の仮想通貨を発行する、という話です。

 創作物取引サービスはぼくが説明のために勝手に呼んでいるもので、例えば「絵を描いてほしい人(クライアント)が有償で要望をし、クリエイターが絵を描いて報酬を受け取る」ということについて、このサービスが仲立ちと決済をしています。

 特徴的なのは、クライアントからのリテイク(やり直し、修正)指定を許していない、成果物はクリエイターに著作権が留保されている、というところで、一般的な「受発注と納品(成果物買取)」とは考え方を異にしています。

 特にここ10年くらいネット上で散見された、クリエイターと成果物を巡っての「発注側の横暴」「受注側の交渉と事務の下手くそさ」を補って、一種の「言い値文化」でくるんだサービスとも言えます。

 これを書き始めると長くなるのですが、すこし背景を話します。主観的なもので、業界全体を網羅したものではありません。

 日本で2010年以降、ソーシャルゲームブームが起こったことで、イラストの需要が高まり需給のミスマッチが起こったんですね。ミスマッチというのは、「安かろう悪かろうでも大量に絵があれば儲かる(確率が上がる)ので予算がつく」という現実と、イラストレーターといってもアマチュアからプロまで玉石混交なのに、依頼・採用する方に目利きの才や取引のデリカシーがない、という不幸が重なったことを指します。

 もちろんこのタイミングで、実力に関わらずよい位置よい単価で商業クリエイターとしてデビューできた人もいれば、実績があるのにも関わらず、不躾で不遜で「任天堂の倒し方を知ってる」と吹聴するような一派に買い叩かれて嫌気がさした人もいるわけです。

 これがどれくらい問題になったかといえば、ぼくの下記ツイートが6,000RT以上されたことからもわかります。10年前の6,000RTって、当時のユーザー数の分母からしたらめちゃくちゃすごいことです。2012年、まだiPhoneやAndroidスマホが全てなんて状況じゃなく、それなりにガラケーも多かった時代ですよ?

当時のツイートは、あまりに拡散したので怖くなって削除してしまったが、勝手に収集しているサイトに補足されていたのでそこから引用。

 そういった混乱の中で、スマートフォンをベースとしたSNSの拡大とともに、クリエイターが投稿している多くの画像交流サイトが「漁場」になって、胡乱な企業だけでなく小規模な組織あるいは熱心なファン個人なども、クリエイターに依頼したり取引をしたりするケースが増えていったわけです。

 先述した不幸なミスマッチが、今度はソシャゲほどの予算も無いくせに不躾な小者があいつもこいつも取引をもちかけてくるという規模になり、世界を包むわけですね。

 そういった中で、今回話題となった「Skeb」はクリエイター側の状況への理解と、またクリエイターにリクエストするファン側の希望の在処を握ってきたと言えます。

 話題を本論に戻します。著作物を掲載したり売買するにあたって、投稿サービス、取引サービスといった「プラットフォーマー」の影響を大きく受けます。わかりやすいのがR-18指定に代表されるアダルト、暴力、残酷表現などへの対応ですね。プラットフォーマー側からすれば「ウチの軒を借りて商売をするんだから、穏当にやってくれよ」という話であって、理解できるところであります。そのルールに賛同した売り手買い手がその範囲内で利用すればよい。

 ところが、この独自ルールの策定と強制、そしてペナルティには、利用者とプラットフォーマーとの間で軋轢が生じます。絵というのは情報量が多いので、どこがどのように規制されるのかを、利用規約で表現できる内容で縛るというのは難しい話です。Aという絵ではOKだったものが、Bという絵ではNG。大丈夫だと見込んでいたものが大丈夫ではない。

 結果、人間による「運用」でなんとかするしかないんですね。けれど、人間こそ合理的な存在ではないので、ある程度の「言い訳」が必要なんですよね。「AIが判定した」「決済代行業者から不適切コンテンツを提供しているプラットフォームには決済をさせないと通達があった」などです。

 AIの判定について、先日、表現の自由について、ヤフーコメントが一部メディア提供の記事において閉鎖されたニュースを紹介したと思うのですが、ヤフーコメントで誹謗中傷検出のためにAIを用いているという話題が以前ありましたね。Twitterでも、投稿内容がAIによる判定を受けてアカウントが凍結されるという話題はよく上がります。「AIが判定したんなら、なんか論理的な判断ができたのだろう」と信じてしまう人間、チョロいですね……。

 そして「決済代行会社からの通達」これも、プラットフォーマーからしたら良い言い訳材料ですね。本来は、プラットフォーマーは自身の顧客を守るために決済代行業者と交渉すべきです。社会的に問題を問われる作品があったとして、それを掲示する自由について、カネを右から左へ流して手数料を取る業者などの言い草を前に、放棄してはならないはずです。

 ところが、こういったことを「世間に叱られないための方便」に使う側に回る。

 加えて「決済代行業者」という言葉で思い浮かぶのは、以前世間を騒がせた「4630万円誤振り込み事件」です。

 国民が国内から利用してはならない海外カジノについて、そのための入出金サービスを用立てていたとあっては、決済代行業者はその腹を探られたくないというわけです。4630万円を早々に容疑者に代わって返還してしまうスピード感も、わかろうもの。

 企業によってカラーもポリシーも違うのでしょうが、違法な金の流れに噛んでしまうと責任を問われるわけですね。業法やガイドライン違反、資金決済業の登録取り消しともなれば、一族郎党が食い詰めるわけです。影響はそこと取引していた銀行にも波及するでしょう。

 様々なしがらみがあって、決済代行業者は自身のシステムを使わせる顧客に対して、審査の名を借りて、社会のルールブックのように振る舞うようになっている、それを求められているわけです。

 こういう状況では、表現の自由と折り合いがつかないのも当然です。

 先ほどはイラストを例にしましたが、図画だけでなく、映像やゲーム、3Dモデルデータなど、ありとあらゆる電子表現物が対象です。これらの自由を、プラットフォーマーの弱腰外交と、生命線であるカネの出入りを人質にとる決済代行業者が、干渉してくる。

 ということがあり…… 今回取り上げた取引サービスは独自の決済システムを構築するにあたって、非中央集権的な実装が可能なブロックチェーンを選択した、というわけです。

 若干興奮気味にこのニュースをとらえましたが、引き続き動向を窺っていきたいと思います。

ふるさと納税と換金サービス

 ふつうならしないことを敢えてやる、これは蛮勇なんでしょうか。「ふるさと納税(寄付)の利用者が得る返礼品を売却し、元々の寄付額の20%を利用者にバックする」サービスが出現し、あっという間に撤退したというニュースです。

 一方、総務省によりますと、地方税法上は自治体に関する規定しかなく、今回のサービスに法令違反があるとはいえないということです。

引用:上記記事

 これはまたいずれ字数を割いて書きたいと思うのですが、フリマ系のアプリが流行って以降、フィンテックの名を借りた、「金融業」「貸金業」「資金移動業」といった、業法や登録・許可などが必要な事業の隙間をぬったサービスが多く出ています。なぜ業法が定められているのか、というところへの無理解とはでは言いませんが、法への挑戦をイノベーションと読み替えるには拙いものも多いと感じます。

 今回は上記で引用したように、総務省としては「定めた法律や規定が無いので法令違反とはいえない」としつつも、今後定めなくてよかったものをわざわざ定める、それに国のコストが用いられる、その発端になるのだろうなと思います。

 ルールは、実は人間としてあんまり合理的ではないことを、わざわざそうさせるために定めたりしているのですよね。合理的ではない、というのは「損得勘定をしたらおかしい」とも読み替えられます。

 例えば最近話題の消費税インボイス制度。細かい税務を個人事業主がわざわざやる、それを税務署が受けて確認をする、なんてことを始めると、微々たる税金のために、税務署のコストがかかる、逆ザヤになる、ということが考えられるわけです。

 でも、それを損得からいっても合理的だからといって益税の発生する現状をそのままにすると、それはそれで「不公平」なわけです。消費税は累進課税ではないので額の多寡で納税の有無が決まるものではない。そういう制度設計がされていないものなので。

 となると、インボイス制度は呑んで担税する。返す刀で、逆進性があって制度的に瑕疵があると考えられ、なおかつ税率アップと消費の冷え込みが連動していることが明白な消費税については撤廃を求める。というのが合理を求める人間の在り方として正しいんじゃないかと思います。過去の人類の頭の悪さを責めても仕方ない。

 ちょっと話題が逸れましたが、お金をめぐってのニュースが気になる一日でした。

 今日のところはこれくらいです。

 

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