拝啓、ファインマン様。

本好きは、母親の影響が大きかったと思う。

幼い頃から、我が家にはたくさんの本が、とはいえ裕福な家庭ではなかったのでほとんどは図書館で借りたものだが、とにかくたくさんの本があった。

当然のように自分も本を読むようになり、本好きが高じて、大学時代はずっと、近所の書店でバイトをしていた。


なぜだか、その日のことははっきりと覚えている。

バイト中、文庫本の棚を整理しているとき、ふと、ある本のタイトルが目に入ってきて、妙に惹かれてそのまま購入して帰宅した。

「ご冗談でしょう、ファインマンさん」との出会いである。

ノーベル賞も受賞した物理学者ファインマン氏の、ユーモアあふれる生涯を綴ったこの本は、まだ二十歳だった僕に3つのことを教えてくれた。


この世には、天才がいると言うこと。

自分は、天才ではないと言うこと。

人生を楽しむ大人は、素敵だと言うこと。


強烈な原体験だったと思う。


そんな二十歳の青年も、大学を卒業しサラリーマンになり、ノリと勢いで会社を辞めて宮崎に移住し、そして先日、ふと思い立って改めて本書を読んでみた。

紙なのだから当たり前だが、本の中のファインマン氏は、相変わらず好奇心旺盛で、好きなことへの追求に余念がなく、自由で、人生を楽しんでいた。


あの頃描いた大人のように、生きているだろうか。

たとえ今は生きていられなくても、目指す大人になるためのステップを踏んでいるだろうか。

世の中は甘くないとか、そんな常識的な言葉を言い訳にして、自分の人生を妥協してないだろうか。


1988年2月、私がこの世に生まれる約1年前、ファインマン氏は69歳で亡くなった。

癌だったそうだ。

人生は短い。

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