見出し画像

国語の教科書


高校三年生の時には一本か二本早い電車に乗って学校まで通っていた。田舎の私鉄の、それでも日中時間帯は一時間に三本くらいはあったように思う単線の電車。片道20分。

一、二本早いと15分20分早く学校に着く。それまでは中学校の同級だった数人と同じ駅から始業五分くらい前には教室に入れる便で通っていた。

早くしたのは特に理由らしい理由もなく、ただちょっとだけその電車が空いているのと一人で行動したかったからだ。

受験校だったので朝から理数系を中心とした補習授業が理科教室かどこかであったはずたが、ぼくは半ば共通一次を諦めていたのかもしれない。ぼくは文系クラスにいた。母親にはさんざん男が文系なんて就職口がないなどと言われていた。そんな時代だった。

教室に早く着いても特にやることはない。教室そのものもまだ人が少なかった。男子はいなかった。女子が何人かいたがぼくは彼女らの話には加わらなかった。彼女らとも特に仲がよかったわけでもなく女子どうしでなにやら楽しそうに話をしている中に入る隙は見つけられなかった。

窓際の席、机の中に入れっぱなしの国語の教科書を出して、最後のほうに載っていた小説かなにかを読んでいた。どんなタイトルでどんな内容だったのかもあまり覚えてはいないが、その時間が好きだった。読むのに飽きてくると自然と女子の会話が聞こえてくる。その話に時に笑いを堪える。いつも男子ともいるような女の子たちではなかったがそのことに好感を持っていた。ぼく自身モテるタイプでもなかった。

ケラケラと笑う声、二階の窓から見る中庭にも生徒が増えてくる。木々が朝日に照らされる。ぼくのいる教室にも人が増えてくる。

現実に戻り、教科書を机にしまう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?