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名阪国道


東名阪自動車道と西名阪自動車道に挟まれる形で国道25号線・名阪国道は三重県亀山市あたりから奈良県天理市までの山あいを走っている。一般道とは全てインターチェンジで交わる無料の自動車専用道路で法定速度は60km/hだ。

しかし実際に走ってみるとほとんど高速道路並みの車の流れができている。高速道路ではないから片側2車線とはいえ車線幅は高速道路よりは狭い。頻繁に覆面パトカーが走っていているからバックミラーに前席に二人乗車した大型セダンが見えたら速度を落として左側の走行車線に戻ったほうがいい。

以前、新名神自動車道が開通する前は関西と名古屋とを結ぶ重要な道路だった。あくまで高速道路ではなく一般の自動車専用道路だから勾配やカーブのややきついところもあるし、インターチェンジの合流はゼロヨン並みにアクセルを踏まないと後ろから来たやんちゃなワンボックスに追突されそうになるかクラクションを長押しされそうなほど短いところもある。

勾配がきついから左側車線を大型トレーラーが息を切らしながら上っているのも見かけることがある。

なかなかにスリリングな道路で昔から一部の間では人気があり、ここ岡山県でも名阪国道といえばたいていは話が通じていた。

有料道路ではないから各インターチェンジに料金所はなく、そのため本線を自転車が走っているなどという目撃情報も耳にしたことがあるが、ぼく自身は幸か不幸かその場面に遭遇したことはない。

そんな道路を一時期倉敷から愛知県の実家に帰省するのに使っていた。家族4人が乗った車で山陽自動車道、中国自動車道、大阪の吹田から近畿自動車道を南下する。そこで普通なら松原ジャンクションから西名阪自動車道に入りその流れで料金所だけ通過して名阪国道に続くというのがオーソドックスなルートだと思うが、いまいち実家にあまり早く着くのもなあというか昼食を食べてから向こうに入ろうかという、正直に言えば母と同居している兄夫婦と姪甥に若干遠慮する気持ちもあって、わざと少し時間を稼ぐ道路を開拓していた。

西名阪道まで南下せずに近畿道の途中から阪神高速を経由し第二阪奈道路で生駒山脈を抜ける長いトンネルをくぐって奈良市内に東進、奈良公園の中を通る一般国道を鹿さんたちに車内から声を掛けて南に折れ天理に向かい、天理インターチェンジから名阪国道に入る。まだ明けやらぬ早朝に倉敷の自宅を出るから奈良市に到着するのも東大寺や興福寺などへの観光客らが本格的に動き出す前の時間帯で、高速道路を乗り継ぐルートとそう大差ない時間で天理まで行けていたと思う。

名阪国道の針パーキングでゆっくりと柿の葉寿司を食べるのがある年からのお決まりになり、それで昼に伊勢湾岸自動車道のパーキングあたりでのんびり昼食でもとってから、いざ、という気分で愛知県に向かう。

上の娘が大きくなり下の息子が大きくなり母が認知症になりするころまでそれは続いた。帰りもたいていは同じルートか、若しくは天理で降りずに西名阪道にそのまま進むかしていて、今思えば体力があるからできたことだなと思う。

子ども二人が進学などで家を出てからはぼくひとりか妻を伴っての二人で行くだけになってしまったので新幹線だけが愛知県に行く選択肢になった。

そうは言いながらも実家では何泊かする。正月にも昔は帰省していたのだけど、一度実家にいる間に肝心なぼくが体調を崩したり帰りの新幹線でインフルエンザをもらったりしてからは夏だけの行事になった。

実家ではほぼフル接待扱いで財布を出そうとすると兄の妻が(嫁と書くのもなあ)けっこうな勢いで制止し、あるいは姪に、これお父さんに渡しといて、とお金を入れた封筒を預けると倍になって返してくるなどして、ただでさえ歳をとった母と同居してくれて申し訳なさも感じていたから、滞在中は少し窮屈な思いもしていた。できれば兄とは対等な、少なくともお金に関しては対等な付き合いをしたいのだ。そんなことを言っていたら罰当たりだろうか。

そんなこんなで数日を向こうで過ごして名阪国道を今度は西に向かって走っていると、空が雲が光がいつの間にか秋の色を纏っているのに気がつくのだ。お盆を過ぎたら夏は終わったんだな、と。

今日は4年前に亡くなった母の95回目の誕生日だ。そしてぼくの生まれる1年前に病気で亡くなった兄ちゃんの命日もきのうだった。母の四十九日で分けてもらった遺品を入れた菓子箱を久しぶりに開けてみて、ぼくの通知表やぼくと兄ちゃんの分の母子手帳や兄ちゃんの最後の夏休みの、多分お腹の痛みでそれどころでなくなった日付まで書かれた日記帳や落書き帳を眺めていたら、そんな秋の空気を思い出した。

気がついたら外の草むらからは秋の虫のような声も聞こえてくるから、ちょっと感傷的になってしまった。

先日、2人(と父)の墓参りに行こうとした日に体調を崩して断念した。

今度はいつ行けるだろう。

天理インターを降りて南に数分走ったところに、みたらし団子が涙が出るほどおいしい和菓子屋さんがある。またいつか書けたらと思う。



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