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土用丑には近所の鰻重

ジャッキーと歩く散歩道の途中に、
かれこれ30年以上営んでおられるお寿司屋さんがある。
住宅街の中にひっそり佇むそのお店を
これまで一度も利用したことがなかった。

半月程前、そのお店の前を通りかかると、

「鰻重予約承ります。」

という立看板が出ていた。
私がジャッキーとそこを通るのは毎朝6時半頃。
早朝に表に立看板を出されているようだ。

我が家は毎年土用丑に鰻を食べるわけではない。
何なら1度も食べない年もある。

子供の頃は鰻丼が好きで、
家でも外出先でもよく食べていた。
しかし、最近の鰻は身がブヨブヨしていて、
あまり好きでは無くなった。
それくらいなら、穴子の方が美味しいと思う。

それが今年の夏はしきりに鰻を食べたい欲が強まっていた。
どうせ食べるなら、
子供の頃に食べていたような美味しい鰻が食べたい。

1週間毎朝その看板の前を通り過ぎながら思案した。
ようやく勇気を出して?電話をする。
思っていた通り高齢の女将さんの声で応対してくれた。

家族分の鰻重を頼み、
土用丑の当日夕方に取りに伺うことにした。

約束の時間にお店の暖簾をくぐると、
お店の中はカウンターに椅子が5席、奥に小さいお座敷のある、
外から見たままの小さいお店だ。

女将さんはカウンターの上にいくつも並べられたお重を
メモを見ながら紙袋にセットしているところだった。
ご主人であろう大将は、
白衣に白帽子の板前姿で、
カウンターの奥でせっせとうなぎを焼いている。
その姿は誇り高いものだった。

女将さんが、看板を見て注文してくれてありがとうとおっしゃった。
お雛様のちらしずし、節分の恵方巻きなど、季節ごとの行事の際には看板メニューを出しているそうだ。
そうした説明を聞いている間も大将は黙々と鰻を焼く。

支払いを済ませ、お重が入った紙袋を手にお店を出た。

鰻重には鰻巻きと鰻ざく、
それに奈良漬が添えられていた。
鰻の身は適度に引き締まり、
弾力があり肉厚でとても美味しかった。


最近、この町には大規模ショッピングモールが立て続けに3箇所できた。
小さな個人商店はどんどん姿を消していく。

次の日、器を返しに行くと暖簾が出ていない。
呼び鈴を鳴らすと、
女将さんが出てこられた。
聞くと忙しい行事の翌日は休みにしているそうだ。

そりゃあ、それがいい。
ゆっくり休んでまた明日から元気に商売を続けてください。
誇り高い職人の味をこれからも守り続けてください。
来年の土用丑もこちらのうな重を食べて、パワーを頂きたい。

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