NiCE(16) ナイス獲得
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お金に関するフィクション
『NiCE』の16回目です。
本文はそのまま読めます。第1回はこちら。
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目がさめたら、元の世界に戻っているのではないか。眠りに着く前にうっすらとそう思っていたが、翌朝目が覚めたゆかりは、やはりミカの家の布団の上にいた。
窓から青い空が見える。暑すぎて、立ち上がるだけでめまいがしそうだ。いつの間にか止めてしまったエアコンのせいで、汗をかいている。ミカがパジャマ代わりにと貸してくれた黒い特大のTシャツも、汗を吸って重く感じる。起き上がってキッチンに行くと、ミカはもうすでに起きていてスマホをうれしそうに操作していた。ミカは毎朝6時半に起きると決めているらしい。
「一人で住んでると、どんどん起きるのが遅くなっちゃうから。ぴったり6時半に起きられたらツイッターで『起きたよー』って写真を撮ってツイートをするんだ。そうすると、ファンの子達がナイスしてくれるの。それが楽しいんだ」
ファンの子だなんて、なんだか芸能人みたいだねとゆかりが言うと、ミカはにんまりと笑う。そうなの、作ったお洋服を見てミカのファンになってくれる子がいてね、朝起きるだけでナイスをもらえる、ミカはラッキーだよねと、有名人気分を喜んでいる。
ゆかりはミカに「今日は私が朝食を作るよ」と申し出る。ミカは喜んで、「食材は冷蔵庫とここの棚にあるから。窓の外のプランターから取ってきても良いよ。ハーブとか植えてるから。調理器具や皿とかはここ」と説明してくれる。よく整理されていて、わかりやすい。調味料の類は塩や胡椒など、最低限のものしかないようだ。冷蔵庫を開けると、卵やトマトが入っていた。
卵を割り、トマトを刻む。トマトは小ぶりでスーパーで買うようなものとは違い不揃いだ。皮に大きく傷がついていて、それが少し気味悪い。味見をしてみたら昨日のトマトとは全く違って甘かった。
昨日のミカのオムレツは味が薄いように感じたのでソーセージやハムがあれば、と聞いてみる。
「ミカ、肉類は食べないんだよ。モエさんって知ってる? ミカはモエさんのことが大好きなんだけど、モエさんは肉や魚は食べないベジタリアンなんだって。乳製品や卵は食べるみたいだけど。それから味付けは塩とか味噌とか、すごいシンプルなものが好きなんだって。だからミカも、モエさんを見習って、ナイス区に来てからはそうしてるの」
と、チーズを出してくれた。パッケージに入っていない、いかにも手作り風のチーズだった。清潔に作られたものなのだろうかと少々不安に思う。
トースターにトーストをセットし、チーズを細かく切ってトマトとともに卵に混ぜ、フライパンに油を引いてオムレツを焼いた。キッチンに、トーストと卵の焼ける匂いがふうわりと漂う。
突然、スマホが震えた。見るとNiCEのアプリから通知が来ていた。「保有ナイス3000」と書いてある。
「すっごくいい匂いがするからナイス付与しちゃった。どう? 初めてナイスをもらった経験は」と、ミカがにんまり笑う。3000ナイスで何ができるのかわからず、価値が判断できないから、ゆかりは笑ってごまかす。
ミカは食事中にも「おいしー! おいしー!」と連発しながら、ひっきりなしにNiCEアプリをいじっていた。私もスマホでSNSを始めた当初はそうだったとゆかりは思い出す。でも少しお行儀が悪い。年上の務めとしてたしなめるべきだろう。
「ミカちゃんは本当にスマホを触るのが好きだねえ。でも食べるときくらいやめたら」
「やだあ、ゆかりん、ママみたい。おいしいと、すぐに作ってくれた人にナイスをあげたくなるじゃん。このチーズ、むちゃおいしいし」
と、ミカは意に介さない。
想像以上においしかった時や、何回かに分けて食べる時など、一度ナイスを付与した相手にも何度も付与しているそうだ。あ、そうか。ゆかりは気づく。私も、食べ物を作った人にナイスをあげなくてはならなかったのか。しかし、ひっきりなしにナイスを付与するのでは慌ただしい。もっと落ち着いて食べたいと思う。
「いっぱいナイスを付与する人の方が、いっぱいナイスをもらえる傾向があるんだって」とミカはいう。食後は掃除や片付けなどをミカの代わりにやって、ミカからナイスをいくらか付与してもらい、スーパーに必要なものを調達しに行くことにした。
< (17) に続く>
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