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バリ日記1日目(3/3)

少しずつ太陽が傾き、ぽっちゃりイタリアン幼児も両親に手を引かれながら部屋に戻っていった。私たちはまだまだ泳ぐ。だって興奮の1日目だもの!

ホテルの従業員らしいバリ人女性がプールに近づいてきて、葉っぱで作られたお皿をプール際のぎりぎり水がかからないところに置く。プール脇にある東屋の中の神棚らしきところにも置いている。近づいてみると、お皿の上にはプルメリアの花や緑色の細い草、お菓子が乗っている。来る途中、あちこちで見かけたものだ。

「お供え物だから触っちゃいけない」と夫が教えてくれる。そうか、バリ・ヒンドゥーは、ヒンドゥー教とアニミズムが融合したような宗教で、あちこちに精霊がいると考えているのだったなと思い出す。

私の母方の祖母も、家の裏の井戸跡に毎朝水を供えに行って、「井戸の神様にお水をあげるんだよ」と言っていた。

他にも、お風呂の神様がいるからお風呂でおしっこをしたらいけないとか、トイレの神様がいるから「ありがとう、ありがとうってきれいに掃除するんだよ」と言っていたし、「火の神様が怒るから、そういうことをしたらいけない」と指摘されたこともあった。
(何をしたら火の神様が怒るのかを忘れてしまった、ダメ孫っぷりが悲しい。)

こういうのっていいな。その土地に根付いた神様をそのまま大切にしている感じがいい。泳ぎながら思った。

ひとしきり泳いでお腹が空いたので、シャワーを浴びて着替えて夕食を食べに行くことにする。もちろん私はノープランだ。
「どこに行く?」
「もちろんワルンだ」
「ワルンって何? どこにあるの?」
「ローカルの食堂だ。街にある。どこにでもある」
夫は胸を張って答える。さすがバリの達人、頼もしい。(と、ここまではバリ4度目の夫に全面的に頼りきっていた。)

しかし、泊まったのは観光地として開発されたタンジュンベノアというエリア。大衆的なワルンは見当たらない。てくてく歩く。がんがん歩く。街の様子が目新しくてテンションが高まっているから、街歩きも楽しい。

あれ? もしやお任せしっぱなしはダメでしたかい? 20分くらい歩いて思った。急に疲れも感じてきた。深夜便で東京を出発し、飛行機の中で2時間くらい寝ただけだし、さっきものすごく張り切って泳いでしまった。ちょいと足もつり気味だ。なので、ようやく提案する。
「あのさ、さっき通り過ぎたお店、ホテルと同系列のレストランだよ。評判いいみたいよ」
サクッと決まった。

レストランはBUMBU BALIというところ。バリの民家と同じ造りになっていて、入り口は一人ずつしか通れない。お店に一歩足を踏み入れると、オープンキッチンで働くスタッフたちが声をそろえて「スラマッ・マラーム」と言ってくれる。日本の居酒屋みたいだ。

席に案内する前に、お店のスタッフが耳の上にプルメリアの花を飾ってくれる。夫にも。「ふしぎの島のフローネ」状態だ。ただし夫はスキンヘッド。

お店はオープンエアの席のみのようで、屋根のないガーデン席や、茅葺屋根の下のテーブルエリアがある。私たちは茅葺屋根の下の席。よく見るとスタッフの女の子がすごく若い。16歳くらいじゃないかと思うほどだ。

ミゴレン(バリ風焼きそば)とナシゴレン(バリ風焼き飯)を頼む。女の子が「チキンはどう?」と勧めてくれる。
若いのに商売熱心で感心する。チキンとビンタンビールも頼む。

最後にバリに来たのいつだっけ? え、15年前? そりゃだめだ。ガイドブックが必要だった。でも、まあ、なんとかなるね。食べ物を待つ間にそんなことを話す。もうすでにバリが大好きになっている私は寛容だ。
これが別の時だったら「なんでもっと早く言わなかったのよぅ」って夫のせいにしちゃうだろう。夫とは11年前からつきあっているのだから、ちょっと考えればガイドブックが必要なことぐらいわかったはずなんだけど。

大きな赤唐辛子とレモングラスの葉が飾られたお盆で食べ物がやってきた。お通しのえびせんがおいしく、ピリ辛のナシゴレンもミゴレンもおいしい。ビールもおいしい。サテという名のチキンもおいしい。全部おいしい。
(隣のテーブルに大きな体の白人老夫婦が座っていたのだけれど、男性の方が赤唐辛子にかじりついて「ガー」って言ってた。)

ビールの酔いと店内に流れるエキゾチックなバリの音楽にすっかりいい気分になる。料理は思いの外量が多くて、満腹になって店を出る。

1日目の興奮で、疲れ果てているのに帰りたくない気持ちもあり、またまた歩く。客引きに「コンニチハ」と声をかけられたり、「TAXI?」と聞かれたりするのをこなしながら、スーパー兼土産もの屋に入って木彫りの像を眺めたり、他のレストランを眺めたり。コンビニで水を買ってようやくホテルに戻る。

表通りの喧騒が、ホテルに入った途端に消える。プチ・ヴィラまでの小径の明かりにヤモリがいっぱい来ていて、ケケケと鳴いている。星が見える。風がさーっと吹いて木々が揺れる。

ブルーグリーン色のプールがライトアップされていて、ものすごく美しく見える。興奮して、もう一度プールに入る。40代と30代の夫婦とは思えない大はしゃぎっぷり。思いのほか深いプールの水は、これ以上考えられないくらいのちょうどいい温度で、水がとろりと気持ち良く、カエルのように泳ぎまくる。

ああ、バリに来たんだなあ。充実した1日目だった。天蓋付きのベッドに飛びこんで思う。眠りに落ちる時にはいつも、意識は風に舞う落ち葉みたいにひらひらと何度も揺らいで、最後にようやく眠りの側にいけるけれど、この日はくるりと一瞬で眠りの側に行けた。

(2日目に続く)

▼晩御飯。食べ始めてから、「あ、写真撮らなきゃ」と慌てて撮ったので量は減っちゃっているけど。


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