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バリ日記4日目(2/5)

バロンダンス観賞の次はウブドの工芸品展へ。

バリへは事前情報をほとんど入れずに行ったけれど、ウブドという場所はアートと工芸の村として昔から知っていた。

私の頭の中では、ウブドはジブリ映画『耳をすませば』のなかで雫が自分の小説『バロンのくれた物語』に書く世界。こんな感じ:

バロンの語り
「私と、いいなずけのルイーゼは、遠い異国の町に生まれた。その町にはまだ魔法が生きていて、魔法使いの血をひく職人達が、工房を連ねていたものだった。
私達を作ったのは、見習いの貧しい人形作りだった。しかし、ルイーゼと私は幸せだった。彼が人を愛する思いを込めてくれたから。ところが……」

もちろんウブドの姿は、『バロンのくれた物語』の背景画を描いた井上直久さんの幻想的なアート作品『イバラード』……を、アジア風に味付けした世界。

ツアーでまず行ったのはバティックという、ろうけつ染の布の工房。ガイドのワヤンから工房の人を紹介されて、その人について歩くことに。

簡素な機織り機で布を織り、その布に蝋で非常に細かい模様を描き、筆で染めていく。植物の模様はとても美しく、見入ってしまう。夫も私も熱心に質問する。が、職人も案内人もなんだか迷惑そうだし、すぐ工房見学は終わってしまい、広いショップに案内される。なんか違和感。いや、買ったけど。

次に行ったのは銀細工の工房。バティック工房と同じく、ガイド・ワヤンから工房の女性を紹介されて、その人について歩くことに。小部屋に8人くらいの女性の工員が二列に並んで何かを作っているところに案内される。

が、なぜかその案内役の人は英語でもいいって言っているのに「私、日本語で案内。でも、日本語、下手」「これ、こうしてこうする。終わり」みたいな超ざっくりした説明をする。そして工房の人たちは、何か疲れた様子で細かい銀の玉やパーツをバーナーで伸ばしたりくっつけたりしている。

これ、知ってる。私もジュエリーデザイナーのお友達に教えてもらって数時間で指輪を作ったことある。初めての銀細工作りで数時間でできるのだから、そんなに難しい作業じゃないような……

と思ったら、「こっち来て」と女性が呼ぶ。行ってみると工房の奥には広い広い銀細工のお店が……。お店の中はものすごく立派な銀細工がたーくさん。あの、さっきの工房でこれらは絶対に作られていないですよね?

しかし、案内役のおばさんは、工房を説明するときとは打って変わってやる気を出して、「これどう?」とむちゃくちゃ勧めてくる。

ああ、わかった。これは工房巡りなのではなく、提携店巡りなのだ。

あたしの、ウブドはどこに行ったー! どこに魔法使いの血をひく職人達がいるのよー! どこにアジア版イバラードがあるのよー!(って、勝手な幻想だし、考えればすぐにわかるのにツアーを申し込んだ自分達が悪いのだけれど。)

暑いし空気も淀んでいるし、銀製品を買うならば作っている人から直接買いたいと思ってしまう。

げんなりして外に出ると、偏頭痛がしてきた。まずい。でもツアーは続く。なんせ夫と私、二人のためのツアーなのだ。

続いて行った先はバリ絵画のお店。また提携店かいなと思ったけれど、バリ絵画には興味があったので頭痛を押していく。バティックや銀細工の工房と同じく、ガイドのワヤンからバリ絵画の工房の人に案内役をバトンタッチ。

でもここは予想に反して、すごくよかった。
マデという名の工房の案内人は、自分でも絵を描くらしく、誇り高い。バリ絵画のものすごい緻密な絵を「これは非売品だが」と言って自慢する。

販売しているバリ絵画のなかにはかわいいバロンが描かれた絵もあって、むちゃくちゃほしくなる。が、値段を聞くと10万円越えばかり。100万円を超えるものもあり、全く手が出ない。

西洋風の絵画もある。が、マデは「これは簡単に描けるからね。安いよ」という。どうもバリの人たちは、自前の文化にはとても誇りを持っていて、文化に関連するものは安値にはしないらしい。そういうのって、すごくグッとくる。

アトリエでは、マデの甥が絵を描いている最中だった。もちろんバリ絵画で、細い線を丁寧に描いている。今はバリ絵画も学校で技術を習得するのだとマデが教えてくれる。マデの甥は、今描いている絵をコンクールに出すそうだ。コンクールで優勝すれば、絵の価格は跳ね上がる。

生活のために日々絵を描いているということが、何かものすごく気持ち良く感じた。アートが崇高すぎるものでもなく、くだらないものでもなく、ちょうどいい位置にある。人々は、日々淡々とアートを作り続ける。上手になろうとしながら、人を楽しませようとしながら。

バリ絵画には今回は手が出ないけれど、彼らの暮らし方に感動して、絵を買うことにする。夫は1つに選べず2つ買う。マデにチップをあげたら、とても喜ばれて「ブラザー!」とか言われてた。

それからマデがこんなことを教えてくれた。このアトリエの経営はマデよりも低いカーストの人がやっているらしい。マデは英語が話せるし、ここの人よりもお金がないので、雇われているそうだ。今はバリ・ヒンズーのカーストよりも、お金の有無のほうが大事だと言っていた。そうか……。

あまりに絵画工房で長居をしすぎて、時間が押したので急いで次のウッドカービングの工房へ。同じくガイド・ワヤンから工房の人を紹介されて、その人について歩くことに。

木の形を利用して作るものを決め、大きな鉈のようなものでガンガンと削っていく……らしいが、工員さんは全然やる気がなさそうだし、ここもあっという間に工房見学は終わってしまい、広いショップに連れて行かれる。なので激早で通り抜ける。

こういう提携店巡りって、そろそろやり方を変えたほうが良いんじゃないか。みんなマデの絵画工房のように誇りを持ってやれることをやっていけば良いのに……と思う。

けれど、この提携店にはそれなりに存在理由があるらしい。

バリの平民階級には一応職業選択の自由がある。でも、家族の勧めで気が向かない銀細工の勉強をしたり、やる気はあるのにどうも才能がなかったりする場合に、こういう工房での仕事をすることになるのだそうだ。そういうことか……と思った。

(つづく)

▼バティック工房にて。作業を見るのはとても楽しかった。▼

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