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バリ日記4日目(4/5)

ランチの後は、標高3142mの霊峰アグン山の麓に位置するバリ・ヒンズーの総本山・ブサキ寺院へ。ブサキ寺院、あの長~い階段と割れ門が特徴的な寺院だ。

駐車場に車を停めると、参拝に必須のサルン(腰布)を売ろうとわらわらと人が集まって来た。物売りが苦手なので、車に戻りたくなる。けれど、今回はガイドのワヤンと、ドライバーのワヤンまで車を降りてきて、物売りに対応してくれた。「サルンはあるから大丈夫」とでも言ってくれたのだろう、物売りの人はさーっと撤退してくれた。ほっとした。

ガイドのワヤンと、ドライバー・ワヤンは夫と私にサルンを巻いてくれる。私にはドライバーのワヤンが巻いてくれることに。

ドライバー・ワヤンは車内でまったくしゃべらず、「我はミッションを遂行するのみ」と運転に専念していたので、私の頭の中で彼の顔はどんどんゴルゴ13化していた。けれど、すごくかわいくサルンを巻いてくれた。うれしい。念願の、サルンだ。ありがとう、ゴルゴ・ワヤン。よく顔を見たら、全然ゴルゴじゃなかった。

ガイドのワヤンについてブサキ寺院へ向かう。
バリ・ヒンズーでは、山は神聖なもの、海は穢れたものとされていて、神聖な山々の中でも最も高いアグン山は古くから島民に崇拝されてきたとのこと。

ブサキ寺院と一口に言うけれど、ここには30以上のお寺が集まっている。バリ人たちは自分たちの村のお寺に参拝し、自分のカーストのお寺を参拝した後に、最後に中央のプナタラン・アグン寺院で参拝するらしい。でも、自分たちのお寺などは、ヒンズー教の人のみ入れるので、案内できないと言われる。

そして、ワヤンが申し訳なさそうに言う。
「実は、僕はこの地域の村の人間ではないしカーストも低いので、プナタラン・アグン寺院を案内するときに、あの長い階段を割れ門まで上がるわけにはいかないんだ。脇にある通路を通って、脇から案内するよ」

この言葉に、私はめちゃくちゃ感動した。
やろうと思えば簡単にできそうなこと、しかもやれば観光客が喜びそうなことを、このワヤンは、正直いえばパッと見はちゃらちゃらしているようなのに、信仰を理由に頑なにできないと言っているのだ。
なんと尊い……

以前にアーティストの鈴木康広さんと、モデル兼エシカルプランナーの鎌田安里紗さんの対談記事の構成を担当したことがある(あと少しで記事がweb上で公開になるはず)。そのときに鈴木康広さんが「何かを“やらない”と決めることが『その人自身』を作っていく」と語っていた。

鈴木さんの言葉:
「例えば、『富士山を登らない』『カラオケで歌わない』というような、別に正解があるわけじゃないようなものを、自分で決めることが大事。
正解がない状態で何かを選択するときに、人は高速で揺らいでいる。こっち、いやこっち、と悩んで揺らいで、その結果がその人の性格になっていくと思う」

(実際にはもっと深くふかーく語っていらして、すごく味わい深い対談なので、記事を読んでほしいなあ…)

もちろん、ワヤンにとっては階段を上らないことが宗教的に正解なのであって、自分で決めているわけではないかもしれない。でも、ワヤンは、後で知ったけれどそこまで厳格にバリ・ヒンズーを守っているわけでもないのだ。なのに「階段を上って案内することはできない」と言っている。すごい、と思った。それが、このワヤンという人なんだなと感心した。

脇道を通ってプナタラン・アグン寺院の境内へ。ちょうど貴族階級の人たちがお葬式をしている。
ワヤンが、言う。
「ほとんどのバリの村で火葬をするが、火葬にはお金がかかる。貴族階級の人たちはお金もあるので亡くなったらすぐに火葬ができるし、すぐにブサキ寺院にきて葬式ができる。けれど、平民階級の人たちはお金がないので、村人合同で葬式をやるんだ。合同と言ってもすぐにできるわけではない。お金が溜まるまで15年、20年と待つ。その間、遺体は一時的に村の管理地に埋めておき、お金が溜まったら掘り起こす。そして火葬をしてベサキ寺院で葬式をするんだ」

20年も遺体を土に埋めておいたら、土葬ちゃうん? とも思うけれど、最終的に火葬することが大事らしい。なんだか、壮大。死後も村の一大プロジェクトに参加している感じだ。お葬式から垣間見える死生観に感じ入る。死生観って本当に多様だなーと思う。

……などとワヤンの話をありがたく聞いていると、8歳くらいの女の子2人が近づいてきた。手には絵葉書を持っている。「いらないよー」と伝えるが、立ち去らない。
ワヤンの話を一緒に聞きながら満面の笑みでこっちを見ていて、ワヤンが話しを終えるなり、
「えーと、あなたは日本人ね。ミスターは、イタリア人? ポルトガル人? スペイン人? オランダ人? フランス人? よくわからなーい」と英語で話しかけてくる。けっこう流暢な英語だ。

「わあ、どうして日本人だとわかったの? この人はフランス人だよ」
「当たったー! じゃあ、あなたの国のコインをちょうだい」
と、にこにこしながらペロッと手を出してくる。かわいい。無邪気な感じ。いや、邪気はあるんだけど、嫌じゃない。なんか、ティンカー・ベルっぽい。アジアのティンカー・ベルが2人。

「今、二人で日本に住んでるから、日本のコインをあげるね」と、二人に10円ずつあげる。
「これ、何ルピア?」
「1000ルピアくらいかな」
「もっとちょーだい!」にこにこしながら、またペロッと手を出す。かわいい。
100円ずつあげる。あんまり高額なものをあげると良くないのかなあ……とも思うから100円まででやめておく。ワヤンはその間、渋い顔をしている。

子供の物売りも、私はとっても苦手だ。親にやらされている感じがあって悲壮感が漂うから、どうしたらいいかわからなくなる。けれど、この子たちは何だかゲーム感覚だ。かわいい。危ない目に合わずに元気な感じのまま大人になってほしいと思う。きっと、したたかなビジネスウーマンになると思う。
ワヤンに聞くと「ああやって、本代を稼ぐ子供が多い」と教えてくれる。

女の子たちと手を振って別れる。いよいよ割れ門を見るのだ。

(つづく)

▼割れ門に続く広間への入り口で。


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