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(劇評)これが私の『ハムレット』

15th Anniversary ジョキャニーニャのジョキャフェス『私立!ハムレット学園祭』の劇評です。
2019年9月27日(金)20:30 金沢市民芸術村 PIT2 ドラマ工房

 「ハムレット あらすじ」で検索をしようとしたところ、「ハムレット あらすじ 簡単」という3単語が提案された。そのように検索をかける人が多いということだ。そんなハムレットを望む人は、coffeジョキャニーニャの『私立!ハムレット学園祭』を観るとよいだろう。その他の『ハムレット』を観たことがない私の言うことだから、間違っていたら申し訳ない。だがこの作品は、『ハムレット』の基本から大きく逸脱はしていないのではないかと感じられた。「ハムレット あらすじ」で検索してみたあらすじに、大体添っている。キャラクター名も同じだ。古典らしい台詞回しもあえて残したものであろう。

 有名な台詞「To be or not to be, That is the question」も出てくる。ジョキャニーニャ版では「To B or not to B」としてなのだが。この「B」が、『ハムレット』を『私立!ハムレット学園祭』に編集する鍵となる。
 
 ハムレット学園に転校してきた、小林ハムレット(Wキャスト:中里和寛・間宮一輝。筆者は中里版を鑑賞)。実は彼は、理事長クローディアス(岡崎裕亮)の義理の息子であった。ハムレットの実の父(春海圭祐)は亡くなっている。その亡霊が、学園の屋上に出るという噂を確かめに、ハムレットはやってきたのだった。亡霊に出会うことに成功したハムレットは、父の死について知る。それは、彼が弟であるクローディアスに、じゃんけん勝負で負けて殺され、妻のガートルード(中山優子)を奪われたということだった。

 じゃんけんである。じゃんけんで勝った者の喜びと、負けた者の悲しみの差が、相手にダメージとして与えられ、命を奪うこととなる。理事長と学園長ポローニアス(佐々木具視)が差し向ける、教師達とハムレットの戦いも、じゃんけんで行われる。そのシーンは超スローモーションで演じられ、決めの一手を出すまでに相当な時間を要する。このじゃんけんには様々な流派があり、それぞれ必殺技を持っている。

 ハムレットは戦う。父の敵のため……ではあるのだが、クローディアスへの憎しみは、父を殺されたことだけではない。学園の校則に「女子は紺色ハイソックスを着用すること」をクローディアスが定めたことにもある。ハムレットは黒色タイツ、Blacck、Bが好きなのだ。To Bであるために。ハムレットは戦う。その内容が何かは置いておいて、『私立!ハムレット学園祭」は、己の信念に忠実に生きる者の姿を、まっすぐに表現した作品である。筆者が観賞した回では、ハムレットおよびクローディアスの足下装備への執着に対して「気持ち悪い」という声が漏れ聞こえたが、そこまで思わせたジョキャニーニャの勝ちだ。
 
 この作品には、様々なオマージュがちりばめられているようだ。ようだ、というのはその多くについて、私に引用元の正確な特定ができないからだが、ああ、こういうネタあったな、と思う箇所がいくつか見られた。じゃんけん勝負の超スローモーションも、漫画やアニメやゲームなどの表現を、演劇的に変換したものと考えられる。様々な媒体の様々な表現に触発されて、新たな創作が生まれる。創作の種となった先達の作品群への、素直な尊敬の念が、この作品にあった。
 同時に、この作品は、扱いが難しくも思える古典作品を、自分達の手で編集してみせようとする意欲にあふれたものであった。偉大過ぎる作品も、様々なネタからちょとずつ力を貸してもらうことで、自分達流に置き換えることができる。その時代においての読み方をすることができる。そうやっていくらかわかりやすくなった、「ハムレット あらすじ 簡単」な『ハムレット』が先にあれば、本家本元の『ハムレット』にも、いつか立ち向かえるかもしれない。

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