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チケット動的プライシングーBTSのLA公演を自分でとった記録

2021年、人気絶頂のBTSのロサンゼルス公演のチケットをとった。
日本で一番前でも3Fの一番後ろでも定額のコンサートに慣れた身としてはすごく新鮮だったのでメモにしておこうと思います。

座席の価格が変動する、ダイナミックプライシング

ダイナミックプライシングでは、座席の価格は固定ではなく需要に応じてその場で変動する。ホテルや飛行機を予約するときと似たような感じだ。一同最初の値段設定はあるのだが、販売が始まってすぐに価格変動が始まるため初期設定値段で買えることはまずない。

BTSのLA公演、「BTS PERMISSION TO DANCE ON STAGE – LA」通称「PTD_ON_STAGE」は2021年の11/27,28,12/1,12/2にロサンゼルスの新しいスタジアム「SoFi Stadium」で行われる。動員は単純計算で1日7万人だそうだ。7万人は日本でいうと国立競技場、長居陸上競技場(ヤンマースタジアム)クラスであり「スタジアム公演」と呼ばれているキャパシティのもの。既存の施設を使うコンサートとしては最大規模だろう。

NEWS(ジャニーズ)やドリカムでスタジアムクラスの公演は見に行ったことがあるが、スタジアム公演の利点は大規模なセットを組んでフライングや花火などのド派手な演出ができること。悪い点は音響がぐだぐだになりやすいこと、座席によっては肉眼で演者を見ることは難しいことだ。

選ばれしものだけが買える発売日

今回のBTSのPTD LA公演はコロナでキャンセルされた一昨年のツアーのロサンゼルス公演のチケット持っていた人、グローバルファンクラブに入っている人に優先権が付与された。前回ツアーのチケット保持者は限定されているが、グローバルFCは2000円程度払えば誰でも入れるものだ。(ただし、日本では日本向けファンクラブが存在し、重複した電話番号では入会することができない)

さすが人気絶頂のグループである。4日間28万人動員と言われているこの日程も、グローバルFC会員枠が抽選制になりそもそもチケット発売時に買う権利が持てた人はそれ自体がラッキーなことになってしまった。

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事前に告知されたチケット販売の日程。
ここでは「ARMY MEMBERSHIP」がグローバルファンクラブ会員のこと。
FCのアカウントをTicketmasterと紐づける9/27-10/2の「Apply for ARMY MEMBER PRESALE」期間があり、その後前回の公演チケット保持者、グローバルFC会員、一般と5日間の発売日程に分かれている。

回線の速さがモノをいうチケッティング

チケット発売時は、発売時間の1時間前から指定のURLにアクセスすると「Waitingroom」が表示され、そこで待機する。東京オリンピックのチケット発売などでも採用されていた仕組みで、購買画面に入ってからのエラーを減らす施策だと思う。

発売時間に順番に席を選ぶ画面に案内されるのだが、先にウェイティングに入っていたからといってその順番で次のステップに入れるわけではない。そのあとナンバリングされて行列に入る。ある程度ランダムに案内されるものだと思われる。私は1時間以上待った。

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そして出てくるのは座席表。そこから空いている席を、とにかく席を選んで買う。会計に入れられれば10分間ホールドできるという仕組み。争奪戦なので空いていることになっている座席も会計しようとすると「他の人が買っちゃいました!」などと言ってくる。座席選択、これは最前線の死線なのだ。

他の人がとっちゃいました

想像に難しくないと思うが、この座席を確保するところまでは高速回線がものをいう。e-sportsカフェなどの高速回線を利用すれば買える確率が高くなるだろう。逆にいうと、不安定なモバイル回線では不利である。

初期設定は60ドル〜450ドル、実際に買えたのは180ドル程度

席を選ぶところに来るまで、座席の値段はわからない。これがすごく衝撃的だった。どこにも価格が買いていないまま、申込権利の手続きを進めるのだ。

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優秀な海外ARMY(ファン)によって発売初日にキャプチャされ、拡散された初期設定値段がこちら。一番遠いシートなら60ドル、最前ブロックで450ドルと日本のコンサートよりは高いけど物価を考えれば安いな、という設定である。

座席は発売日によって開放されるシートがちがう。各日まだらに座席があったので基本的にはキャンセルされた前ツアーのLA公演のチケット保持者も、グローバルFC枠でも一般発売でも偏りが出ないようにしてあったのだと思う。実際には発売日によって販売された座席数自体に偏りがあり、阿鼻叫喚だったのだが...

私が買えたのは2F席のほぼ見切れで手数料込み184.40ドルだった。座席が販売途中で追加投入されたみたいで、そこをさっと買えたようだった。ラッキーだった。

リセール開始直後に60万円以上まで上がる

座席の公式転売を自由価格でやることは、アーティストやイベンターなら誰でも夢見たことがあると思う。同じ公演内容で、利益率をあげるには1チケットあたりの単価を上げなければならないからだ。Ticketmasterはこれをやるためにうまれたサービスといっても過言ではない。ということで一般の購入者が自由な価格で転売できるのだが、10/24現在、ステージ正面でPA前、ブロック最前列という条件のよいシートは4528ドル(約50万円)でした。

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ちなみに私が約184ドルでとったブロックの席は1273ドルで売ってました。やっぱりそれだけで遠征費用が出るくらいにはなるのか...。(長年のファンによると今高額リセールを出している人は転売目的なので公演直近になれば価格は落ちるはずだとのこと)

リセールは一般発売の日程のあとから有効になる。私は日本語のツイートでは60万円の提示価格を見たのが最高だった。これはとっぴな価格ではなくて、ジャニーズでも希少な公演の良席は40万円くらいは超えて取引されている。念のため書いておくと日本国内でのこの高額転売はいまや完全に裏取引です。

Ticketmasterの転売機能(リセール)は今回はアメリカ国内に銀行口座がある人でないと使えず、国外の購買者はこの機能を使わずに転売するしかない。日本のファンの間ではPaypayやLINEpayなどを利用して話し合った金額で送金し、チケットをその人の名義にTransferするという手段がとられている。Transferは複数枚とった際に、同行者のアカウントにチケットを分けるための機能で、これだけではアーティストや主催者にお金が入らない。

全席同額が正義か、誰でも買える競争性が正義か

とりあえず、今でもBTSのLA公演は金さえ出せば公式に買える状態だ。ちなみに販売5日目の一般発売は結局中止された。つまり4日目までに全座席が販売されたということなのだ。

一般売り出し日程がなくても、もっと普段の公演であれば適度な価格で買えるだろう。買うだけなら米国外からもクレジットカードとメールアドレスさえあればいけるし。

今回の価格差までいくともはや投機商品だが、全体の仕組みとしては便利なこのシステムをなぜ日本では取り入れていないのだろうか?

日本のコンサート・演劇チケットがダイナミックプライシングに踏み出していないのはおそらく2つの理由がある。私が勝手に予測している理由を聞いてください。

1つ目は日本のファンは忠誠心が高いと言われ、あまり好きな音楽を乗り換えないため、ファンクラブ制が発達しており、その中でチケットが売り切れるからだ。人気アーティストはファンクラブに入っていてもチケットをとるのは難しいため新規ファンの獲得よりは既存のファンにいかに平等にチケットを買わせるかが重視される。

2つ目は1の理由とも関連するが、紙チケット時代にぴあ、ローソンチケット、e+が巨大なインフラを築いたからだ。基本的にはカウンターやコンビニの端末で買うことが一般的になり、その紙チケット文化に沿って「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(略称チケット不正転売禁止法)が制定されたのは平成の終わりである。コンビニ決済などクレジットカードを持たないユーザーへの課金手段を保ち続けているのも日本のサービスの特徴だ。

今年、ぴあのカウンター販売はすべて終了した。

新興のチケットサービスとしてはチケットボード、Peatixなどがある。ジャニーズ事務所などファンクラブが直接チケット機能を開発しているところもある。いずれもデジタルで完結するチケットサービスを目指すところは同じであり、コロナで一気にサービスが使われ出した感覚はある。東京オリンピックの観光需要を見込んで日本に乗り出してきた外資サービスなどもあったのだが、今のところ目立った活躍はない。

ちなみにBTSも日本公演はダイナミックプライシングではなく、日本FC会員内での抽選が基本である。今後のツアーがどのようになっていくかは不明だが、ここまで新規ファンを自粛期間中に獲得した以上、新しいチケットシステムに踏み込むのは絶好の機会だと思う。

世界がステージに熱狂する日々が楽しみ

ここまでの一連の工程を経験しただけでも、チケット代の元はとった気がする。飛行機も予約したし各種書類も揃えた。お仲間も募って情報交換をしている。日本も韓国もドーム以上の大規模会場でのフルキャパでの公演はまだ先になりそうだ。世界中のARMYと一緒にスタジアムの席で静かに暴れ狂ってきたいと思う。

※なお、タイトル画像は申込番号を消す加工がしてあります。

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