133.喫茶店時代

 本当に久しぶりに、この原稿を喫茶店で書いている。かつて放送作家の仕事場と言えば喫茶店だった。そりゃ、自宅に机はあるし、放送局で会議室をとってくれることもある。だけど、いつでもどこでも、ほんの30分の空き時間でも、原稿用紙とペンさえ持ち歩いていればすぐに仕事ができるのが、喫茶店のよさだった。
 だから放送作家はみんな、放送局の近くに、原稿を書きやすい好みの喫茶店を何軒かリストアップしていたものだ。ぼくも駆け出しのころ、週に1回は喫茶店を3~4軒はしごして、松田聖子のためのショートショートを書いていた。当時、時々通った有楽町の喫茶店で、紅茶一杯でねばりながら、テーブルに原稿用紙を広げていたら、マスターが近づいてきたことがある。
(あ、いかん。怒られるかな)
 と思っていたら、
「このテーブルでは、よく奥山侊伸さん(バラエティー系放送作家の大御所)も原稿を書いていたんですよ」
 と話しかけられ、驚いた経験がある。原稿を書こうと思う人間は自然に同じ店、同じテーブルを選ぶのかと驚き、世間的には裏方である放送作家の顔と名前を、放送局近くの喫茶店のマスターは知っているということにも驚いた。

 バブル以降、地価の高い都心では、喫茶店経営は成り立たなくなったといわれている。それで喫茶店の数が減っている。しかし、ワープロ・パソコンの普及で、放送作家が喫茶店で原稿を書かなくなったから……という理由もあるのかも?

【モンダイ点】
◎もっとも、コーヒー一杯で2時間もねばる放送作家が来なくて、せいせいしてるのかも。

(ステラ/2000/11/15)

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