天地さんのこと2

その年はモーツァルトの没後200年だった。同じNHKFMで、斉藤晴彦さんでモーツァルトの番組を書いた。そこで、モーツァルトの曲に詞を当てて、彼の人生を語る企画をやったのだ。ぼくがサンバイマンのドラマで替え歌をいっぱい書いていたので、「こいつに書かせよう」という起用だったのだろう。
その中の一曲が、「フィガロの結婚・序曲」に詞を当てた「イタリア大好き」。これはたんに語呂合わせではなく、モーツァルトがイタリアに憧れていたという事実をふまえての詞なのだ。

我ながら出来がよかったので、その年の年末のNHKFMでもう一度使った。その時の出演者が、再び天地さんだったのだ。ここで天地さんは見事に「イタリア大好き」を歌った。

それから数年後、突然天地さんからぼくに電話があった。
「天地でございます!」
「あ、フーコさん、ごぶさたしています」
「今度出すCDに、イタリア大好き、入れたから」
「え!?」
いやあ、驚いた。なんでもかつて番組で歌って以来、天地さんはいろんなステージで歌っていたらしい。ぼくはまったく知らなかった。
どこで歌っても大喝采。なのでCDに入れることにしたという報告だった。

これで「作詞・藤井青銅/作曲・モーツァルト」というクレジットの楽曲が誕生することになる。天地さんに感謝だ。
せっかくCDを出すんだから話題にしたい。当時ぼくがやっていたウッチャンナンチャンのオールナイトニッポンで、発売前のこの曲をかけ、
「この超早口の歌の歌詞はなんと歌っているでしょう?」
というクイズ企画をやった。ラジオを聞いて歌詞を聞き取れ!というヒアリングクイズだ。いまみたいにネットに歌詞が出る時代では成立しない。アナログ時代ならでの企画だ。
リスナーは、必死に聞き取った歌詞をハガキに書いて送ってくれた。CDの歌詞カードとピッタリ合っていたらプレゼントをあげるという企画だったと思う。正解発表時は、天地さんを生ゲストに迎え、歌ってもらった。

正直言って、コマソン女王でタレントの天地総子さんの凄さを肌身で感じているのはぼくの世代。当時のラジオリスナーは若いので、天地さんを知ってはいても、ピンと来てはいなかったと思う。
だけどいま天地さんの訃報に際して、SNSの書き込みを見ると、
「ウンナンのオールナイトニッポンで、イタリア大好きのクイズ企画をやったので覚えている」
という方がけっこういた。天地総子さんが若い世代の記憶に刻まれるお手伝いができてよかった、と今は思っている。


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