138.ミニ創世期

 テレビの初期は、海のものとも山のものともわからなかった。メディアの先輩であるラジオから送られる人材には、はっきりいって「人身御供」「左遷」という色合いが強かった。他にも映画、演劇、バンド、ショー、出版、美術、興業、レコード会社などからもさまざまな人がやってきた。そのいずれもが、成功を確信していたわけではない……という。

 テレビ放送が始まってたかだか45年。まだその創世期を生きた人々は多く生存しているし、彼らが書いた本も沢山ある。そうした本には「ナマ放送が予定より早く終わってしまった」とか「照明の熱で着物が焦げた」といったエピソードがゴマンと載っている。
 ぼくを含めて現在一線で働いている放送マンたち(創世期からは三、四世代目になるのだろう)には、そういった創世期への憧れがある。そこへ、このBSデジタル各局の開局ラッシュである。
 先日、NHKのBSデジタル開局番組「デジタルリクエスト世界旅」という番組をやった。なにせ、双方向テレビなんて初めての経験なので、打ち合わせの段階からわからないことだらけ。ナマ放送の現場もドタバタし、小さなミスが相次いだが、それでもとりあえず5時間の放送を終えた時、妙な充実感があった。

 すべての創世期の特徴である混沌とバイタリティーと風通しのよさ、とんでもない失敗とそれを責めないおおらかさ……といった雰囲気が、そこにはあったのだ。
 遅ればせながら、ささやかな創世期を体験できた気がした。

【モンダイ点】
◎それでもやっぱり、ぼくの自宅にはBSデジタル受信テレビはないのだが。

(ステラ/2000/12/20)

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