そんキス

【公開中】 「高校デビュー 」(佐藤文香『そんなことよりキスだった』より)

12月25日発売、佐藤文香著『そんなことよりキスだった』から4篇を公開します。 笑える。切ない。少しヘン!?下心満載!言葉遊びを少々加えた恋愛小説30景!! メガネで天パー。前向きで目立ちたがりな佐藤さんは、恋しかしてこなかった。 パワフルにあたって砕け、幾重もの恋がめぐる。 
★装画は同じく1985年生まれの漫画家山本さほさんが担当しています★

 私の高校デビューの準備は万全と思われた。
中学生のときにやってみて全く効果のなかったストレートパーマではなく、ちゃんと縮毛矯正をしたし、眼鏡もコンタクトにし、オバQのような白い携帯も買ってもらった。
 新しくできた友達には「あやか」と呼んでもらおうと決めた。
 しかし入学してみると、手ぬかりがいろいろあった。まずは靴下と靴だ。お洒落な女子たちは、靴はローファーと呼ばれる革靴、ふくらはぎが隠れるくらいのハイソックスで、バーバリーかラルフローレンだった。私の靴下は近所のスーパーの二階で売っているふくらはぎ下のものだったし、足のサイズが二十六センチもあるので、黒のメンズのスニーカーだった。足元を見れば、イケてる子かそうでないかの区別がつく。
 私の中学(1学年160人)から高校(当時は1学年440人)へは約100人が合格したため、クラスに8人も同じ中学だった人がいたのもよくなかった。中学の修学旅行で「サトゥ ー」(トゥにアクセント)というあだ名がついた私は、いくら「あやかって呼んで」と言ってまわったところで、所詮「サトゥー」なのである。
 そして最も痛かったのは、性格が変えられないことだった。気がつけば、学級委員に立候補していた。クラスの女子にもいつの間にか階層が生まれ、一番お洒落でないグループに、私はいた。
 それでも、男友達に友達を紹介してもらって、デートをしてみて、付き合うことになった。完全に、「彼氏がほしい女子」と「彼女がほしい男子」のマッチングだった。
 初めて男子と付き合えることになって嬉しい私は、すぐにその子のことが好きになった。はやくキスしたりエッチなことをしたりしたいと思った。
 しかし、たぶん、彼の方は私のことを好きにはならなかった。私の素性が知れたのだろう、「サトゥーと付き合っとるとかウケる」と思われたに違いなかった。わずか1ヶ月と10日で振られてしまった。

 その1ヶ月と10日のなかに、私の誕生日は存在した。
 初めての彼氏は、無印良品で小さなサボテンを買ってくれた。別れてからもサボテンは大事にしたが、すぐに枯れてしまった。水のやりすぎが原因だった。

佐藤文香(さとう・あやか)
1985年兵庫県生まれ。池田澄子に師事。第2回芝不器男俳句新人賞にて対馬康子奨励賞受賞。アキヤマ香「ぼくらの17-ON!」①~④(双葉社)の俳句協力。句集『海藻標本』(宗左近俳句大賞受賞)、『君に目があり見開かれ』。詩集『新しい音楽をおしえて』。共著『新撰21』、編著『俳句を遊べ!』、『大人になるまでに読みたい15歳の短歌・俳句・川柳②生と夢』、『天の川銀河発電所 Born after1968 現代俳句ガイドブック』など。

さまざまなジャンルとのコラボレーションするなど現代俳句に新しい風を吹き込んできた 短詩界のエース佐藤文香の個性が爆発!の新恋愛小説集▼


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