スキルアップの理由

 MDPは1992年の創刊当初、埼玉新聞社が編集を請け負っており、僕も会社の業務としてそれに当たっていた。写真は埼玉新聞社の写真部が撮影したもののうち、新聞に掲載しないものを使用していた。

 しかしMDPに載せる写真は試合のものばかりではなく、その他の写真は僕が撮っていた。もともと業務で少年スポーツの写真などを普通に撮っていたので大きな問題はなかった。

 最初は試合での撮影はしなかったが、そのうち応援しているサポーターやゴール後のスタンドのにぎわいなどの写真が欲しくなり、試合でも撮るようになった。プレー中もたびたび後ろ(ゴール裏のスタンド)を向き、レッズに点が入ると選手の喜びではなく、スタンドでサポーターが抱き合っているところばかり撮っている怪しいカメラマンだった。あるときなど、駒場で警備員から「サポーターばかり撮らないでください」と注意されたこと(笑)。新人でまだ僕のことを知らず、かつ業務熱心な警備員だった。そのエピソードについては拙著「浦和レッズがやめられない」に詳しく書いた。
 
 プロスポーツのナイトゲームは、昼間の少年スポーツとは次元が3つくらい違うほど撮るのが難しい。当初、僕が撮るプレー写真はほとんど使い物にならなかった、というのもスタンドばかり撮っていた理由だった。何とか使えるかなというのはデーゲームのものばかりで、夜の写真で使用可能なものが撮れるのは僥倖だった。フィルム時代だったから、現像したら使えないコマばかりというのでは経費ばかり増え、会社に申し訳ない。僕が撮るのはせいぜい1試合に36枚撮りフィルム(懐かしい!)を3本、多くて5本ぐらいだった。

 その後、いろいろな理由から試合写真がちゃんと撮れるようスキルを磨いた。
 理由の一つは、クラブから紫のカメラマンビブスを預かったことだ。1クラブに2人しかいないオフィシャルカメラマンの1人に僕が任命されたわけは「清尾さん、試合全部行くでしょ。それ持ってると取材申請しなくていいし、ペン記者の入れるところは全部入れるから」というもので、決して僕の写真に期待してのものではなかった。それでもカメラマンビブスの重みは感じた。

 一つは埼玉新聞社の写真部が「MDPからのリクエストが多くて思うように写真が撮れない」と直接でなく、公の会議で発言したことだった。たしかに新人がメンバー入りしたときなど、その選手が出たらお願いね、とか福田正博が得点王争いしているときなどもゴール後の喜びを多めに、などという依頼をしたことはあるが、そんなに頻繁ではなく、そもそも埼玉新聞としても必要なものの延長だったはずだ。それが、彼らの仕事に支障をきたすほどの枷になっていたとは知らなかった。というより、何かの口実に使われた気がして憤慨した。その後、試合の際に特別な何かをお願いすることは一切なくなったのはもちろん、MDPの写真は極力自分が撮ったものを使うようにした。当然、スキルを上げなければMDPにしわ寄せが行く(正直、少しは行ったかもしれない)。そのうち埼玉新聞社が全面的にデジタルカメラに切り替え、MDPはまだプリントやポジフィルムで製作していたので、物理的にも写真部の写真は使えなくなったが、全く困らなかった。

 理由の最後は、本格的な機材を一気にそろえたことだ。2003年からMDPの印刷もデジタル対応になり、再び写真部に依頼をするか、自分のカメラをデジタルにするか二者択一を迫られ、後者を選んだ。薄給の身としては天文学的数字の経費だったので、実家に泣きついた覚えがある。そんなことで手にした機材なのでまともに撮れるようにならなければもったいない。あのときは必死に練習した。幸いフィルムコストが掛からなくなったので、数打ちゃ当たる方式が可能だったのも良かった。カメラの性能が格段に良くなっていったというのも大きい。
 
 後に埼玉新聞社を辞めて独立するときには、写真を他人に頼まなくても自分で撮れる、というのが大きな後押しになった。決して、それを見越してスキルを上げたり機材をそろえたりしたわけではないが。

「weps」(writer,editor,photographer & supporter)というのは、僕が自分の立場を表わす略称として考えたものだが、最近「p」の部分は薄れてきた。それでも「写真も撮れるライター&編集者」としての気持ちはなくしていない。育成チームやレディースの試合などはMDPに載せる載せないに関係なく、行ければ行く。理由としては「そこに試合があるから」としか言いようがない。撮っておいて、何にも使わないことがあっても何も害はないが、将来、「あの試合の写真が欲しい」と思ったとき、撮ってなければどうしようもないからだ。

 キャンプも同じ。今季、レッズが変わっていく、その端緒となる時期を見逃すわけにはいかないし、それを写真で残しておくことがMDPの財産になるからだ。


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