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陰キャのためのヒップホップ入門

陰キャは、教室の隅っこでジッとしていなきゃいけない。
だから、うるさい音楽なんか聴いたらいけない。

うるさい音楽は、クラスの目立つ奴らのものだった。
世紀末生まれのぼくら陰キャに与えられた「音楽」は、悲しいピコピコ電子音かアイドルソング。
陰キャにとって居心地のよい教室の隅っこに、ヒップホップなんか流れない

だから、車でジャカジャカ流れてる音楽には、こんなイメージが付き纏う。

・私とは違う世界を生きるマイルドヤンキーたち
・なんか見た目が怖い人たち


一部の陰キャたちは、ヒップホップを聴く人たちをこういうイメージを持っている。

加えて、


・大麻容認派
・口汚く罵り合うイベント
・逮捕者がたびたび出る
・ビーフという抗争を楽しむ文化
・めちゃめちゃタトゥー
・奇抜な見た目
・ブレイキングダウンなどとのつながり


これらのイメージが、ヒップホップを陰キャからさらに遠ざけているのかもしれない。
いずれにしても、ヒップホップはカウンターカルチャーなので、その性質上どこか物騒でどこが悪さを持ち合わせてもいるのだ。



そこで本記事の登場だ。そんなクラスの周縁に追いやられていた陰キャたちに向けて、ヒップホップの入門の手引きをする。

ヒップホップ気になってたけど、何から聴き始めたいいの?
怖い感じじゃなくて、おしゃれでセンスいいラップが聴きたい

こんな読者を想定している。つまり、悪く言えば、チー牛にヒップホップを聴かせてやろうというコンセプトの記事なのだ。

ちなみに、ぼくは陰キャにヒップホップを紹介してきてハマらせてきた実績がある。
典型的なヒップホップのイメージとは、かけ離れた楽曲をおすすめする。
ぼくがこれから紹介する曲は、「これってありなんだ?でも好きかも!」となるはずだ。そういう斬新だけど、病みつきになる。そんなヤバイ楽曲を。
陰キャはそういう楽曲を求めているはずだ。
というわけで、陰キャにこそ薦めたい楽曲を7曲まとめた

ヒップホップ文化がイルマチックである理由

ヒップホップは逆転現象。
パワーの絶対値だけを自分のパワーにする。僕はdopeでillな病人、やばくてかっこいい!

『武器としてのヒップホップ (幻冬舎単行本)』ダースレイダー


陰キャのヒップホップ入門のために、
こんなかっこいい一節の紹介をファンファーレとさせていただきたい。

この本の筆者は「片目のオジキ」の異名をもつラッパーダースレイダーだ。
氏は、「東大中退」「余命5年」こんな衝撃的な経歴を持ち、難病との闘病をしながら精力的にライブを行っている。世間一般の病人のイメージからはかけ離れた活躍ぶりだ。

そして、「dopeでillな病人」を「やばくてかっこいい」と言ってのける。ああ、本当にカッコいいかもな。「ヒップホップは逆転現象」とはそういうことである。
病人というネガティブなイメージを、言葉とリズムに載せて払拭して、「やばくてかっこいい」に変換しているのだ。

こう考えると、「常識」は仮固定された一時停止の地点に過ぎないことを知ることになる。
そして、「常識」という狭窄した視野の世界で生きていれば、そう言うサイズに収まってしまう人間になってしまう。
なんだか、そんなことを言われている気がする。


社会の中で誰々と比べてどうか、みたいな基準や物差しが溢れ過ぎていて、羨望と嫉妬か優越とマウントでしか、人と関われない人が多くいるかもしれないが、そういう社会の一般常識とは決別した生き方を選んだラッパーという存在の、魂の気高さを感じてほしい。

どうだろう。
ヒップホップの世界が少しカッコよく映り始めたのではないだろうか。(そう読み取ってくれれば、ぼくはうれしい。)



曲紹介のルール

ビーフやディスのないヒップ曲を紹介する。
どの曲も、楽曲としての完成度が高いので、ついつい何度もリピりたくなってしまう。
そんな選定基準だ。

ビーフ=ディスりあい
ディス=disrespect(ディスリスペクト、無礼・軽蔑などの意)

補足


1,MOROHA——革命

MOROHAは、高校の同級生だったアフロとUKのふたりが結成したユニットである。
ふたりの曲を聴くと「今日からがんばろう」「今のままじゃだめだ」という気持ちになる人が多いだろう。
それもそのはず。
アフロの言葉は、魂を鷲掴みにする。
そして、その言葉を「聴かせる」ための、リズムとメロディを生み出して、魂の叫びを音楽にしているのがUKのギターだ。
アフロの言葉とUKのリズム。
相互に必要とし合うコンビなのだ。

MOROHAを聴くと音楽の多様性を感じるかもしれない。
そうか、これも音楽だよな。いや、これこそが音楽か。

2.DOTAMA,MAKA,SAM——TRIDENT

先日、宇都宮に遊びに行ったのだが、餃子以外にもう一つぼくのお目当てがあった。
それはこの曲だ。そう、この曲を歌っているDOTAMA、MAKA、SAMは、栃木をレペゼンするラッパーなのだ。
だから、ぼくの中で栃木は聖地だったのだ。
宇都宮にMAKAがいないことは分かっていたけど、宇都宮についワクワクしてしまったのだ。

さて、曲紹介。
MCバトルで超実力派3名による、クソかっこいい楽曲だ。

「直感ONLYの突貫工事 今更いらねえ防弾チョッキ」

歌詞(かっしー)

このように、韻を踏むことで、言葉が引き立てられるが、こういう素敵な言葉が散りばめられている。

3.Creepy Nuts——友人A

この楽曲は物語になっている。
しかも、クラスの目立たない陰キャの気持ちを歌った歌詞である。
ラップが物語になっていて感情移入できるというのが、もうありえないくらいの離れ業なのだが、平気でそれをやってのけるのがR指定の天才性だ。

R指定は、芸人以上の頭の回転とソシュール以上の言語感覚をもつ驚異の異才。

ストーリーの情景がありありと浮かぶのに、ラップとして成立しているのは、もちろんのこと。夏目漱石の「坊っちゃん」くらい切ない物語を詰め込みながら、アルファベットで韻を踏むという言葉遊びが両立されているのだ。
そんな職人の技が光るのが、この楽曲だ。

M字開脚の写真
彼氏に送ってるのかも no!
3P とか経験済み?
読み取れない QRコード
SコートしようランチにT
UV カットしたいほどに
その笑顔と Wピースが眩しい
また妄想でエクスタシー
開いてんぞ社会の窓がほら X Y Z

歌詞(かっしー)

4.Taboo1——禁断の惑星 feat.志人

ここは禁断の惑星 忘れ去られた革命 漠然とした雑念の広がる発展の脱線 核戦争に敗れ悪戦苦闘する文明 君の住む楽園の百年後

歌詞(かっしー)

こんな言葉で始まる。
まるでディストピア系のSF小説のようなダークな雰囲気をまとっている。「君の住む楽園の百年後」とあるので、21XX年あたりの物語なのだろう。
この世界観の雰囲気は、アニメ「ファンタスティック・プラネット」の世界観ともばっちり融合していて、PVにはそのアニメが流れるが、こちらもいい感じだ。
ちなみに、アニメはU-NEXTで見れた記憶がある。

この曲を聴くと思い出すのは、バンチラインの威力である。

ぼくは予備校で現代文を教えるのだが、授業で、進行の流れから(どんな流れだよw)この曲を流したことがある。
そして、この曲を聴いもらった後、生徒たちにある質問した。
質問内容は、「今の楽曲の中で印象に残っている言葉は?」
この曲が初めてだという生徒たちにとって、印象に残っている言葉がなんだろうと当ててみたくなったのだ。パンチラインを確かめたかったのかもしれない。

だいたい以下のふたつの歌詞が印象に残る。

・「太陽なんてとうの昔に死んだよ」
・「後世に残せそれぞれの個性」

印象に残る言葉の影響力は普遍的ということがよくわかるエピソードだ。
ちなみに、メッセージの意図について補足を加えると、ディストピア的未来に備えて、「後世に残せそれぞれの個性」とメッセージを送っているのだ。
それだけ作り込まれた楽曲の完成度を堪能してもらいたい。

ちなみに、読者のみなさんはこの曲を聴いてどの言葉が一番印象に残っただろうか。
気になるのでぜひコメントで聞かせてほしい。

5.SKRYU,鎮座DOPENESS——Golden Time

SKRYUは、今一番勢いのあるラッパーだ。
元銀行員という異色の経歴をもちながら、MCバトルでの優勝するなどの経歴から、現在は楽曲制作に専念している。
都会的で洗練された楽曲が多い。
かと思いきや「ブランド」という楽曲の歌詞では、泣かせるフレーズを忍び込ませてうるっとさせたり、かなりの曲者だ。

かれの楽曲の中でも特にぼくが好きなのがこの曲である。
鎮座DOPENESSは、どんなアーティストとコラボしても、しっかりと存在感を残しながら主役を引き立てる。
まさに、King Gnuの常田大希のような男である。カッコ良すぎる。

ちなみに、鎮座DOPENESSは、あまりビジネスが上手なタイプではないのでSpotifyではその楽曲のすべてを楽しむことはできない。
やはりライブへ行くしかないのである。
しかし、一度鎮座DOPENESSのライブへ行けばその魅力に取り憑かれることになるだろう。
まさに本物のアーティストだ。

6.Shing02——少年ナイフ

このアルバムには、90年代の日本が詰まっている。
本来それは映画や文学の役割だったはずだ。
ラップという建物の中には、時代を埋め込み、時代を象徴させることすらできるのだ。
この曲から、ラップのもつポテンシャルの高さを実感してもらいたい。
ちなみに、紹介している楽曲の「少年ナイフ」は、地下鉄サリン事件・酒鬼薔薇事件。
こんな暗いニュースが日本中を覆った時代を象徴するような楽曲である。

最後の「先生さようなら」は、軽くホラーなので要注意です。

しかし、それほどの狂気を孕んだ事件だったのだろう。1997年当時は、子どもが子どもを殺すなんて、誰も思わなかった時代だったのだ。

余談だが、アートは怖くて当然、不快で当然である。
それは、アートの役割なのだ。美術館で「おしゃれ」のアクセサリーにするのが、アートじゃない。アートは不快で当然なのだ。
アーティストは、社会に迎合も忖度も必要ない

7.RIKEYDADYDIRTY——PIRATES

最後は、ラッパーの代名詞のようなこの男の楽曲を紹介したい。
くわしいことは割愛するが、このアルバムは、受刑者として収監中に書かれた歌詞がもとになって収録されている。

ラッパーは、ほんとうに多様な生き方をしている。
犯罪者・ジャンキー・ヤクザ・不良・ギャング。
なんでもありだ。
もちろんそんな怖い部分は否定しない。
しかし、ぼくが紹介したアーティストのように、犯罪や反社とは無縁を貫き、ヒップホップという業界を大きくしようと奮闘している。
だが、ぼくら陰キャが、練馬のヤバイ話や熊谷のヤバイ話を臨場感たっぷりに聴くことができる機会なんてヒップホップくらいしかないんじゃないかな?
怖い人とかかわるのは少し怖いけど、キニナル!という人はぜひもっと多様な世界の旅行へ行ってみて。

さて、楽曲紹介。
リッキーダディーダーティの見た目はすごく怖い。やっていることもなんか怖そうだ。
しかし、この言葉を聴いて安心感に包まれた。

針指す動く時計
いつまでも変わらない仲間と
涙見せたり傷を背負い
それでも生きる仲間と

かっしー

こんな素敵な言葉を紡ぐ人が怖い?
まさに、アーティストだろ。

そんなラッパーの人生も合わせて噛み締められるのが、ヒップホップという世界なのだ。

刑務所に収監されていたり、見た目がすごく怖い。
しかし、人間として、あまりにもあたりまえの気持ちをここまで素直な言葉で歌い上げる。

ぼくはこの言葉を受け取って、「仲間を大切にして生きよう」と強く思った。
生き方に効く楽曲。人生の処方箋。
それがヒップホップだ。

まとめ

以上が、陰キャに勧めたい楽曲でした。
陰キャはヒップホップと縁遠いかもしれないけど、これから聴いてみてね。
そして、ここを出発点に自分なりにかっこいい曲をたくさん発掘してぼくにも教えて下さい!


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