痛い。痛い。痛い、痛い痛い痛い。
そんなことを思いながら起きる朝はいつもより活気に溢れる。いや、活気に溢れると言う表現は正しいのだろうか。でも、いつもより、心臓から流れ出る血液が多いのは確か。
痛い。
その感情は僕の石炭であった。
痛いから泣く。痛いから頑張る。痛いからもうしない。痛いから、痛いから、たとえ誰にも知られずとも、痛いから、僕は生存している。
そう痛い。僕には痛い以外に燃料がない。
周りより劣ってても、頑張らない。だって痛くないもん。どんだけ頑張っても、痛みは与えられないもん。そんなの努力する価値ないでしょ。自明。
そうだ、そう言えば、なんで僕の燃料となっているのだろう。と不意にいつも考える。
なんで?
なんでだろう。
はてな。
はてはて。
全くわからない。
僕は研究者でも、脳に詳しいわけでもない。わかるはずがない。シナプスがーとか前頭葉がーとか、なんのことだろう。
でも、記憶の片隅に、とてつもなく大きい、扉がある。すごく、装飾品で煌びやかに彩られてる。あそこに着いてる大きなツノ、かっこいいな。でも、この扉埃が多いな。きっと相当昔の扉なんだな。うん。
開けてみたいな、どんな景色が待ってるんだろう。なんで誰もこの扉使わないんだろう。
わからない。いくら考えてもわからない。
僕はとりあえず、その扉を開けてみた。
眩しい光が目の奥を突き刺す。ここは昼だ。周りから中国語が聞こえる。「最近怎么样?」「身体不好啊。」「〜〜〜〜〜」

今気づいたが、どうやらここは闘技場型の建造物らしい。
中国の闘技場。本場スペインにも負けを引かないかっこいい闘技場。いいね。
僕は、そこに立っていた。闘技場の窪んでいるところ。砂のところ。周りの中国人に紛れる形で。決して目立ってるわけじゃない。隠遁に。でも、息はしている。
そうだ、そういえば、ずっと喉が渇いてる。
飲もう。水を飲もう。いいね。
农夫山泉と書かれた水を手に取る。しかし、飲もうとした瞬間、思わず、陽の光の痛さによって、水をこぼしてしまった。
水は僕の体をつたって、床に落ちる。滴る。僕はどうにかそれを拭こうとしたが、砂に落ちた水は決して拭けない。終わった。直感でそう感じ取った。
そうして呆然と立っている間に、奥の、出口のようなところから一人の、牛が入ってきた。すごく白い。アルビノみたいに白い。日光アレルギー持ってそうなほど白い牛が、ツノをこちらに向けている。
心臓の鼓動が速くなるのを感じ取った。
痛いな。あのツノ痛いな絶対。
体に伝った水は、飲料水だけではないことが確か。
なんだろう、泣けてくる。怖い。逃げたい。
逃げたかった。逃げれなかった。
周りの中国人は皆、逃げれた。僕は逃げれなかった。
その牛と対峙せざるを追えなかった。闘牛士だ。僕は。あんなでっかいツノと戦う。逃げたい。無理だ。痛い痛い痛い痛い痛い。やめて。对不起,我不好孩子,我不好,不要打,救命啊。ごめんなさい。許して。僕が悪かった。ごめんなさい。
一,二,三,四,五,,,
中国語で発音されたその数字は、いつまでも僕の頭に響いた。
今何年だっけ。
お母さんはどこ行った?僕生きてる?先週姥姥の誕生日だよね?姥姥今何歳?なんだっけ。
わからない。痛いから、逃げないと。出口に向かって、ひたすら門叩く。無理だ。誰も助けてくれる人いない。さっきまでたくさんいた中国人は、あちらでシーンとしてる。
終わった…


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