見出し画像

足関節背屈制限を診る上で必要な知識④靱帯、底屈制限

内側側副靱帯(三角靱帯)
 内側側副靱帯は、表層と深層の二層構造を示し、内側側副靱帯は6種類の線維により構成される。

画像1

このなかで、tibiospring ligament、脛舟靱帯、後脛距靱帯深層線維の3線維の存在率が高い。

画像2

外側側副靱帯
 足jt外側側副靱帯は、前距腓靭帯、踵腓靭帯、後距腓靱帯により構成される。前距腓靭帯は関節包に隣接する四辺形の靱帯である。

画像3

前距腓靭帯は1~3つの線維束により構成されるが、2つの線維束から構成される足が多い。踵腓靭帯は、前距腓靭帯の下線維束の直下に位置し、後下方へ走行する。踵腓靭帯の表層には腓骨筋腱が走行するため、約1㎝のみ靱帯が露出する。後距腓靱帯は、強靭な台形の靱帯であり、

画像4

足jt底屈位で弛緩し、背屈位で緊張する。
脛腓関節靱帯、後距踵靱帯
 遠位の脛骨と腓骨を結合する靱帯は、前下脛腓靱帯、後下脛腓靱帯、骨間靱帯から構成される。前下脛腓靱帯はいくつかの線維からなり、遠位の線維は足jt前外側において、軟部組織性のインピンジメントとの関連が示唆される。後脛腓靱帯は、表層と深層の2つの独立した線維により構成される。
二分靱帯(踵舟靱帯、踵立方靱帯)
 踵骨と立方骨は、二分靱帯(内側踵立方靱帯)、背外側踵立方靱帯、底側踵立方靱帯(長足底靱帯、短足底靱帯)の4種類の靱帯により連結される。内側踵立方靱帯は、踵骨から前内側へ走行し舟状骨背外側へ付着する。背外側踵立方靱帯は、広く平坦な靱帯であり、踵骨上外側面から立方骨背側へ付着する。長足底靱帯は、踵骨底面から立方骨・第2~4中足骨基部へ付着する。短足底靱帯は、踵骨底面前方から立方骨下面へ付着する。

画像5

足底筋膜
 足底腱膜は踵骨隆起から起始し、遠位部で5つに分かれて各趾の基節骨に付着する足底筋膜群を覆う腱膜である。強靭な中央部分(central component)と菲薄な内側部分(medial component)および外側部分(lateral component)の3つに分けられる。強靭な中央部の腱膜の両側からは、矢状に走行する内側足底中隔と外側足底中隔を分岐しており、これらの中隔により足底筋群は3つの筋区画に区分される。また、前足部には浅横中足靱帯、横線維束、縦走線維束などが存在しており、非常に複雑な構造をしている。

画像6

 足底腱膜は、歩行立脚後期も足趾背屈により他動的に緊張が高められる巻き上げ効果(ウインドラス効果)により内側縦アーチを挙上するとともに足部の剛性を高め、toe off時の推進力に寄与している。この際、足底腱膜への牽引力は最大となり、下腿三頭筋やアキレス腱により推進力が発揮される。また、立脚初期のheel strike時に足底腱膜にかかる圧迫力は非常に大きく、足底腱膜はshock absorberとしての役割も担っている。
 このような機能解剖学的特徴から、足底腱膜はheel strike時の衝撃を吸収し、立脚相における足部の安定化と推進力に大きく関与している。そのため、歩行・ランニング・ジャンプ動作などで足底腱膜の踵骨付着部には牽引力とともに、荷重による圧迫力が繰り返し加わることが推測される。
 足底腱膜は、踵骨を介して筋腱複合体(下腿三頭筋-アキレス腱)と連結する。筋腱複合体の張力は、踵骨を介して足底腱膜に影響し、足底腱膜の張力は踵骨を介して筋腱複合体に影響を与える。

画像7

肉眼解剖学的研究では、8~25%の割合で腓腹筋内側頭の停止腱と足底腱膜との線維連絡があることが明らかにされている。また、足底腱膜炎患者に対する腓腹筋内側頭の筋膜切開法の術後成績が良好であることも報告されている。従って、下腿三頭筋のなかでも腓腹筋内側頭(内側頭の停止腱)の過緊張や伸張性が、足底腱膜の伸張性に影響を及ぼすといえる。
heel cordの評価
底屈可動性障害
基本的知識

概要
 一般的に足jt底屈は距腿jtにおける底屈可動性としてとらえられるが、足jtの最大底屈にはいくつかのjt運動が関与している。また、非荷重位と荷重位では足jt底屈に関与するjt運動が若干異なる。非荷重位での足jt底屈時では、踵骨の底屈と距骨の前方滑りが生じるが、最大底屈には下腿の内旋と中・後足部(ショパールjt・距骨下jt)の外がえしが要求される。さらには、足趾屈曲の制限も足jt最大底屈の制限因子となりうる。今回記述で定義する足jt最大底屈とは、下図で示すとおり、第1趾列の底屈が制限なく行えている状態である。下腿内旋や距骨下jt外がえしの可動性低下はショパールjtの外がえしを制限し、足jt底屈制限の原因となる。

画像8

 一方、代表的な荷重動作である歩行における足jt底屈運動は主に立脚後期に生じ、立脚前期から立脚中期にかけて外がえしした距骨下jt・ショパールjtを内がえしさせることで足部の剛性を高め、推進力を生み出す。足jt最大底屈が要求されるようなジャンプやダッシュ動作では、母趾球にて地面へ力を伝えるため、非荷重位での足jt最大底屈の獲得(下腿内旋とショパールjtの外がえし)と十分な足趾伸展によるウインドラス効果によって足部剛性を高める必要がある。

画像9

下腿
 下腿内旋のアライメントおよび可動性に関する機能解剖について、足関節背屈制限をみる上で必要な知識③を参照して頂きたい。

画像10

足jt背屈と同じく、底屈運動時にもわずかながら近位および遠位𦙾腓jtの運動を生じる。距腿jt底屈時、近位𦙾腓jtでは脛骨に対して腓骨は後下方へ滑り、遠位𦙾腓jtでは腓骨は内側に変異する。

画像12

運動は小さいものの、骨折後など可動性制限が予測される場合は考慮が必要である。
距腿・距骨下関節
 後足部(距腿・距骨下jt)の運動は、足jt底屈運動の重要な要素の一つである。距骨下jtは、主に前額面における内がえし・外がえし運動を担い、足jt底屈時には内がえしが生じる。荷重動作における足jt底屈筋群の筋力が重要となる。足jt底屈作用を有する筋は多数存在し、それらが足jt底屈時の距骨下jtのアライメントをコントロールする。内果後方を走行する後脛骨筋や長母趾屈筋などは距骨下jtの内がえし作用を有し、長腓骨筋や短腓骨筋は外がえし作用を有する。

画像11

よって、これらの筋のバランスが崩れると、足jt底屈時に距骨下jtのアライメント異常が生じてしまう。
 足jt底屈運動時、距腿jt内では下腿に対して距骨が前方に滑る。この際、距骨の下方に位置する踵骨は底屈するが、踵骨に付着するアキレス腱やその前方に存在する脂肪性結合組織(Kager’s fat pad)動態が底屈運動に影響を及ぼす。炎症や癒着などにより、これらの組織の滑動性が低下すると、正常な踵骨の底屈が制限される。一方、足jt内反捻挫などに起因する前距腓靭帯や踵腓ligの損傷は、距骨の前方変位を助長させることが示唆されており、距骨前方滑りは過可動性にも注意が必要である。
ショパール関節
 ショパールjtの内がえしおよび内転は中足部の剛性増加の役割を担う。ショパールjtの運動は、距骨下jtの内がえし・外がえしと連動する。距骨下jt内がえし位ではショパールjtも内がえし位となり、ショパールjtを構成する距舟jt軸と踵立方jt軸が交差するため、中足部の剛性が高まる。ショパールjtの内がえし可動性の低下は、足部内側縦アーチの低下と関連し、偏平足の原因となりうる。また、水平面においてショパールjtが過度に外転している足では、内転可動性が低下する。ショパールjtの内転可動性も足部の剛性増加に重要な要素の一つである。
リスフラン関節・足趾
 足jt最大底屈に必要な要素の一つである足趾屈曲には、リスフランjtの底屈が関与する。また、リスフランjtの底屈が関与する。また、リスフランjtの底屈は、足部内側縦アーチを高め、足部の剛性増加にも貢献する。リスフランjtの可動性は、第1リスフランjtで最も大きい。歩行における第1リスフランjtの矢状面上での可動性は10°程度とされ、立脚後期において約5°の底屈が要求される。足趾の屈曲制限は、長趾伸筋や長母趾伸筋、足背面の皮膚などの軟部組織の伸張性低下によって生じることが多い。なお、足趾の他動屈曲可動域は約30~40°とされる。
足関節底屈可動性障害の評価
概要
 臨床評価の基準は、非荷重位および荷重位での正常な足jt底屈運動である。非荷重位での評価は膝jt伸展位で行う。この際、股jt回旋による影響を除くため、背臥位で膝蓋骨が天井を向いた状態で評価する。足jtの自動底屈時に足部の内がえしが生じる場合、正常な足jt底屈が阻害されている可能性が高い。このような足では、他動にて足部の内がえしが生じないように第1趾列を把持して足jtを底屈すると、膝jtの屈曲や股jtの内旋が生じることが多い。これは、ショパールjtの外がえしや下腿内旋の可動性低下による代償運動ととらえられる。

画像13

足jt底屈の参考可動域は45°とされるが、非荷重位での足jt底屈運動は膝屈曲位よりも伸展位で可動性の低下を認める例が多い。

画像14

これは、膝jt伸展位で回旋可動性が低下することに起因すると推測される。膝jt伸展位で下腿内旋可動性に制限を有する例では、ショパールjtの外がえしが制限され、足jt底屈制限が生じる。このような代償を伴った状態での可動域測定は、測定の再現性低下の原因となるため、測定時には足部中間位での可動域測定を心掛ける。
 荷重位での足jt底屈は、足趾と膝の向きを一致させた状態での可動性や安定性を評価する。また、非荷重位と同じく膝の向きを一致させた状態での可動性や安定性を評価する。また、非荷重位と同じく膝jtは伸展位で評価すべきである。正常な可動性と十分な筋力による安定性を有する場合、足部の外がえしに伴う母趾球荷重による足jtの最大底屈を行うことが可能である。一方、なんらかの原因によって底屈が制限されている場合、踵骨の挙上高は減少し、スムーズな母趾球への荷重が阻害され、足部・足jtの安定性も低下する。

画像15

安定性の評価を目的に踵骨を下方へ引くと、底屈可動性制限や足jt底屈筋群の筋力低下を認める足では、踵骨を保持することができない。同様に足部内がえし方向への抵抗を加えると、ショパールjtの外がえし可動性の制限を認める足では、外側へ荷重が変位し、容易に足部が内がえしする。

画像16

このような足では、足趾屈曲により代償的に可動性・安定性を確保しようとする例も可動性・安定性を確保しようとする例も多いため、注意が必要である。
各関節機能評価
下腿

 下腿回旋のアライメントや可動性は、膝jtの屈曲角度によって変化するため、膝伸展位と屈曲位の両方で評価すべきである。現時点で脛腓jtの可動性や腓骨アライメントの確立された評価法は存在しないため、主に左右差による主観的な評価となる。
距腿・距骨下関節
 距骨下jtのアライメント評価には、下腿長軸と踵骨長軸が前額面上でなす角度として定義されるleg-heel alignmentが一般的に用いられる。内がえし・外がえしの可動性は、固定した下腿に対する踵骨の内がえし・外がえし可動性によって評価する。距骨下jtの外がえし可動性の低下は、ショパールjtの外がえしを制限し、距骨下jtの内がえし可動性の低下は、荷重動作時の足部剛性の低下を招く。
 現時点で踵骨底屈と距骨前方滑りに関する定量的な評価法は確立されていない。踵骨底屈の可動性は、固定した下腿に対して踵骨を底屈された際の可動性およびエンドフィールで主観的に評価を行う。

画像17

正常では踵骨底屈時に抵抗を感じないが、Kager’s fat padを含むアキレス腱周囲組織の癒着などが生じている場合、底屈時に抵抗感や詰まり感を訴える例が多い。また、踵骨底屈と合わせて距骨の前方滑りの可動性も距骨頭を把持して評価する。
ショパール関節
 一般的に前足部のアライメントは、距骨下jt中間位とし、踵骨底面(後足部)に対する第1~5中足骨頭の底面(前足部)のなす角度で評価される。この前足部アライメントの基準値は6~8°程度の内がえしとされる。この前足部の内がえしは、主にショパールjtによって生じていると推測される。ショパールjtの内がえし可動性は、外がえしの可動性評価と同じく、距骨下jtを中間位に固定して舟状骨および立方骨を把持した状態で可動性を評価する。

画像18

ショパールjtの内がえし可動性の低下は、荷重動作における足部内側縦アーチの低下に関連する。
リスフラン関節・足趾
 リスフランjtの底屈可動性の低下は、足部内側縦アーチの低下を招き、足部剛性の低下や扁平足の要因となりうる。最も大きな可動性を有する第1リスフランjtの底屈可動性は、内側楔状骨を固定した状態で評価する。

画像19

なお、第1リスフランjtの底屈には軽度の回内を伴う。足趾屈曲の制限は主に非荷重位における足jt最大底屈の制限因子となりうる。足趾MTPjtの屈曲は、主に足趾伸展作用を有する長趾伸筋や長母趾伸筋の短縮により生じるが、外傷や術後に足部に腫脹が生じた例では、足背部の皮膚などの軟部組織の伸張性の低下が制限因子となる場合もある。足趾伸展可動性は中足骨を固定した状態で評価を行う。
運動連鎖による影響
 ここまで足jt底屈可動性の障害に対する基本的な評価の流れを提示したが、膝・股jtなどの近位jtのアライメント・可動性異常が足jt底屈制限の原因となっている場合もある。例えば、過度な股jt外旋(骨盤に対する大腿骨の外旋)は、下腿外旋と足部の内がえしを生じさせ、足jt最大底屈を妨げる。また、膝jt伸展制限を有する膝では、膝jt伸展域における下腿内旋可動性が低下している例が多く、同じく足jt底屈可動性を制限する要因となりうる。このような例では、股jt内外旋や膝jt屈曲角度で足jt底屈可動域の変化を認める。

画像20

股jtの内外旋は骨盤の前後傾に誘発されている場合も多いため、評価の際には下肢の近位jtや体幹の影響も考慮したうえで治療を進めることが重要である。
足関節底屈可動性障害の治療
各関節機能障害の治療
概要

 足jt底屈可動性の障害を有する足の治療における目標は、非荷重位および荷重位での正常な足jt底屈可動性の獲得である。足jt背屈可動性の障害に対する治療と同様、各関節機能評価において異常を認めた部位に対してアプローチするが、患者の受傷機転や現病歴、既往歴などから優先順位を決め、治療を進める。また、足jt底屈可動性に障害を有する例では、足jt背屈可動性の障害も有していることが多い。臨床では、患者の主訴や求められる動作に応じて優先順位を決めることになるが、小林は足jt背屈可動性を改善した後に足jt底屈可動性の改善を図る方がスムーズに治療が進行すると考える。ここでは、足jt底屈可動性の障害において特異的な機能障害に対するアプローチ法を近位関節から順に提示する。しかし、現時点で足jt底屈可動性の改善に対して有効性が証明された徒手療法や運動療法は存在しない。
各関節機能障害に対するアプローチ
下腿

 足jt背屈可動性障害と同じく、足jt底屈時にも遠位脛腓jtにおける外果の動きが制限されている例を多く、経験する。このような場合、足jt底屈運動に合わせて徒手的に外果を上方や前方へ動かす方法が有用である。

画像21

距腿・距骨下関節
 距骨下jtの内がえしは、足部内側縦アーチを保ち、足部の剛性を高めるためにも重要な要素である。荷重時に距骨下jtが過度に外がえしする足では、内がえし作用を有する後脛骨筋や長趾屈筋、長母趾屈筋のエクササイズが有効である。

画像22

 踵骨の底屈可動性改善には、アキレス腱周囲組織の滑動性の改善が必要である。足jt底屈に伴うKager’s fat padのアキレス腱と踵骨の間への進入を促す方法が有効と考える。一方の手で踵骨を把持して底屈させながら、Kager’s fat pad(長母趾屈筋関連区域)を踵骨方向へ誘導することで踵骨底屈時の詰まり感の消失と可動性改善を図る。

画像23

ショパール関節
 荷重時の足部内側縦アーチの維持や、足jt底屈運動時の足部剛性の向上にはショパールjtの内がえしおよび内転の可動性が必要となる。ショパールjtの内がえし可動性の低下は、主な内がえし筋であるTAの筋力低下が関連していることが多いため、TAエクササイズによって可動性の改善と足部内側縦アーチの保持を図る。

画像24

 ショパールjtの外転可動性の低下には、短腓骨筋の柔軟性低下や踵立方jt周囲組織の癒着などが関与していることが多い。このような場合には、短腓骨筋や立方周囲組織のマッサージを行うことで柔軟性改善を図る。

画像25

また、自動での足部内転運動(後脛骨筋エクササイズ)の実施も可動性改善に有効である。

画像26

画像27

リスフラン関節・足趾
 第1リスフランjtの底屈可動性の改善には、徒手療法が用いられることが多い。内側楔状骨を把持した状態で中足骨を底背屈方向に動かすことで可動性の改善を図る。また、足趾の屈曲はタオルギャザーなどの自動運動によって可動性の改善を図る。

画像28

足趾伸展運動と同じく、外反母趾を有する場合にはjt面の向きに気を付けながら実施する。
足関節底屈機構(heel cord)の障害
 足jt底屈機構(heel cord)は下腿三頭筋、アキレス腱、踵骨、足底腱膜で構成される。各構成組織は非常に特徴的な形態学的特徴を呈しており、足jt底屈機能障害と密接に関係している。そのため、各構成組織の形態学的特徴を十分に理解することが重要である。
基本的知識
概要

 heel cordでは、各構成組織の形態学的特徴や機能不全に加えて、各組織の関係性がアキレス腱障害や足底腱膜などの障害に大きく関与する。各構成組織の機能障害に関連する解剖学・運動学・バイオメカニクスの情報を整理する。
下腿三頭筋
 下腿三頭筋の構造は、筋線維と腱膜とが三次元的に重なり合う複雑な構造を呈している。

画像29

腓腹筋の起始腱膜は筋腹の表面(皮膚側面)を、停止腱は筋腹の裏面(骨側面)を覆っている。腓腹筋内側頭の方が腓腹筋外側頭に比べて筋腹は大きく、内側頭は半羽状構造、外側頭は羽状構造を呈している。そして、内側頭・外側頭・ヒラメ筋の停止腱が互いに捻れながら融合してアキレス腱を形成している。

画像30

そのため、下腿三頭筋とアキレス腱は筋腱複合体としてとらえられている。
 腓腹筋はtype Ⅱb線維が多く、ダッシュやジャンプなどの推進力を生みだす役割が強い。一方、ヒラメ筋はtypeⅠ線維が多く、姿勢保持筋としての役割が大きい。足jt底屈筋群は7つの筋で構成されるが、足jt底屈モーメントの約93%を下腿三頭筋が担い、他の5筋(後脛骨筋、長腓骨筋、短腓骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋)はわずか7%の底屈モーメントを生じるのみである。さらに、下腿三頭筋のなかでもヒラメ筋が最も筋重量や断面積が大きい。踵を最大挙上した運動では、腓腹筋よりもヒラメ筋の筋活動が重要である。
 ヒラメ筋は、形態学的に3つの部位(marginal、posterior、anterior)に区分される。

画像31

それぞれの機能的な違いについては明らかにされていないが、筋束長や羽状角など筋の作用に影響する形態学的特徴が大きく異なることから、同一筋内において機能的な部位差が生じる可能性がある。一般的に筋電図学的体表解剖学的にヒラメ筋の収縮をとらえやすい部位はmarginal部であることから、ヒラメ筋の一部分の活動しか明らかにされていないと推測される。
 腓腹筋は二関節筋であり、膝jt伸展位での足jt底屈が主な作用である。腓腹筋内側頭の停止腱は、踵骨隆起の外側に付着することから後足部の外がえし作用を有する。一方、ヒラメ筋は単関節筋であり、膝jt屈曲位での足jt底屈が主な作用であるが、ヒラメ筋の停止腱が踵骨隆起の内側に付着することから後足部の内がえし作用を有する。
アキレス腱
 アキレス腱は人体における最大の腱組織で、歩行時には体重の約4倍、走動作時には体重の約12.5倍の負荷が加わっている。また、アキレス腱が付着する踵骨は歩行動作時には三次元的に非常に大きな可動性を有する。このような日常生活やスポーツ活動において、アキレス腱には大きな衝撃吸収能と可動性に耐えうる機能が求められる。
 衝撃吸収と可動性を担保するものとして、腱の形態学特徴と力学的特徴がある。アキレス腱に特有の形態学的特徴としては、捻れ構造がある。捻れ構造は、異なる筋群がjt運動時に同範囲で働き効率よく力を発揮するのに適した構造である。また、腱内の異なるストレイン(歪み)を軽減し、筋が効率よく力を発揮するために重要である。さらに、捻れが生じていることで後足部の三次元的な可動性に適応することができる。
 アキレス腱は例外なく捻じれており、また捻れの方向に関しては共通している左側のアキレス腱では時計回りの方向へ捻れる)。近年の大規模な解剖学的研究により、軽度の捻れのタイプ(24%)、中等度の捻れのタイプ(67%)、重度の捻れのタイプ(9%)の3つのタイプが報告された。

画像32

足jtの他動運動時や下腿三頭筋の収縮時に、アキレス腱を構成する各停止腱には異なるストレイン(歪み)が生じることが明らかにされている。従って、アキレス腱を考える際は、1つの腱としてではなく、腓腹筋内側頭・外側頭、ヒラメ筋の3筋の停止腱の複合体として考える必要がある。この捻れ機能を活用するためには、アキレス腱の伸張性(頭尾方向、内外側方向、水平方向)と滑走性が重要となる。
 腱の力学的特性の指標としては、スティフネス(N/mm)がある。スティフネスは引っ張った力(N)を伸張された長さ(mm)で除した値であり、腱の硬さを表す指標である。適切なスティフネスは、筋-腱の効果的な相互作用や運動のエネルギーコストを最小限に抑えるために重要である。また、アキレス腱のスティフネスが低下すると他のheel cordへも悪影響を及ぼす。
 アキレス腱周囲組織でアキレス腱に影響を与える組織として、パラテノン

画像33

Kager’s fat padがある。

画像34

パラテノンは血行と神経が豊富に存在している結合組織性の被膜である。アキレス腱には腱鞘が存在しないが、パラテノンに走行する血管から栄養を受けている。また、このパラテノンが2~3㎝伸張することでアキレス腱はスムーズに滑走することができる。従って、パラテノンの伸張性がアキレス腱の滑走性や栄養に影響を与える。
 Kager’s fat padは、アキレス腱と長母趾屈筋腱と踵骨に挟まれた三角形の空間に存在する脂肪組織である。この脂肪組織は①アキレス腱関連領域、②長母趾屈筋関連領域、③踵骨滑液包ウエッジの3つに分けられる。それぞれの領域に役割があり、足jt底背屈時のアキレス腱の滑走性やenthesis organ(腱付着部構造の破綻を防ぐためにその周囲に存在する組織、すなわち滑液包、滑膜性脂肪組織、線維軟骨組織、骨組織などの複合的な器官)の圧迫力の軽減に寄与している。
heel cord障害の評価
概要

 heel cordの障害では、特に下腿三頭筋-アキレス腱で構成される筋腱複合体と下腿三頭筋の機能不全が重要となる。特に筋腱複合体のスティフネスの低下や、伸展性・滑走性の低下、下腿三頭筋の筋力低下が問題となりやすい。また、これらの機能不全は偏平足やハイアーチなどの異常アライメントとも相互関係があり、足底腱膜への過剰な牽引力や圧迫力の原因となる。
各構造の機能評価
●筋腱複合体の力学的特性(スティフネス・ストレイン)

 超音波診断装置(以下、エコー)やBIODEXなどの筋力測定機器を使用することで、足jt底屈トルク(Nm)、腱伸長(筋腱移行部の移動量)(mm)、腱横断面積(mm²)の計測できる。その値を用いて腱張力(N)を算出し、

画像35

腱伸長-腱張力曲線からスティフネス(N/mm)が算出できる。

画像36

また、ストレイン(%)は腱伸長量をアキレス腱長で除すことで算出し、ストレス(MPa)は腱張力をアキレス腱横断面積で除すことで算出できる。そして、ストレイン-ストレス関係における回帰直線の傾きをヤング率(MPa)として算出できる。

画像37

一般的な基準値などは存在しないため、左右差や経時的変化で検討する必要がある。
●筋腱複合体の伸張性・滑走性
 エコーを用いた評価により筋腱複合体(下腿三頭筋-アキレス腱)の伸張量、アキレス腱の伸張量、筋束長の変化量を算出することが可能である。足jt底背屈中間位から最大背屈位まで動かすと、筋腱複合体では約2㎝、アキレス腱や筋束長はそれぞれ約1㎝伸張される。足jt背屈可動域の計測も定量的な評価法の一つである。腓腹筋は二関節筋であるため膝jt屈曲位よりも膝jt伸展位でより伸張される。そのため、膝jt伸展位と屈曲位で足jt背屈角度を比較することで腓腹筋の伸張性が評価できる。ヒラメ筋は単関節筋であるため、膝jtや足趾の肢位を変化させても足jt背屈角度が変化しない場合、膝jt屈曲位で後足部外がえし位での足jt背屈可動域を計測することでヒラメ筋(ヒラメ筋の停止腱)の伸張性を評価できる。
 内外側方向や水平方向は伸張性については定量的な評価方向が存在しない。そのため、触察により確認する。各停止腱の触り分けは、体表上から比較的容易に可能である。

画像38

内外側方向の伸張性は、アキレス腱を内外側方向に圧迫することで確認する。

画像39

また、水平方向の伸張性・滑走性は後足部を内がえし、外がえしさせて確認する。

画像40

●アキレス腱周囲組織(パラテノン・Kager’s fat pad)の伸張性・柔軟性
 現時点でパラテノンの伸張性を定量的に評価する方法は存在しない。そのため、触察により確認する。アキレス腱部を把持し、下腿筋膜とパラテノンを頭尾方向、内外側方向に移動させることでパラテノンの伸張性やパラテノンとアキレス腱間の滑走性を確認する。

画像41

 Kager’s fat padはエコーを用いて動態を評価することが可能であるが、柔軟性を定量的に評価する方法は存在しない。そのため、触察により内外側に移動させることで柔軟性を確認する。アキレス腱の深部を把持し、内外側方向へ圧迫することでKager’s fat padの柔軟性を確認する。

画像42

●足底腱膜の伸張性
 現時点で足底腱膜の伸張性の定量的な評価はない。足底腱膜炎の評価としてウインドラス検査があり、足jt背屈中間位で足趾を伸張させ、足底腱膜付着部の疼痛の増悪がある場合を陽性とする検査である。通常は足底腱膜炎の評価として用いられるが、足趾の伸展可動域やエンドフィールにより足底腱膜の伸張性を評価することが可能である。

画像43

運動連鎖による影響
 代表的なものとして、足部外がえしが下腿内旋、股jt内旋、骨盤前傾を生じさせる運動連鎖がある。このような地面に接地している足部(遠位)から骨盤(近位)に関節運動が連鎖する。足部外がえしは足部を一つの剛体としてとらえられることも多いが、足部を後足部、中足部、前足部の3つのセグメントで考えると、後足部の外がえしは中足部の外がえし(内側縦アーチの低下)と強い運動連鎖関係にある。従って、過度な後足部外がえしは、過度な中足部外がえし(内側縦アーチの低下)による偏平足の原因となる。過度な後足部の外がえしは、アキレス腱はwhipping action(ムチ打ち)を生じさせることで過度なストレスを与える。また、後足部外がえしが大きく内側縦アーチの高さが低い偏平足では、足底腱膜に加わる張力が大きくなる。
heel cord障害に対するアプローチ
概要

 heel cordの障害を有する患者における治療の目標は、筋腱複合体の力学的特性の改善、筋腱複合体と周辺組織の伸張性・滑走性の改善、下腿三頭筋の機能改善である。
各機能障害に対するアプローチ
●筋腱複合体の力学的特性(スティフネス・ストレイン)の改善

 近年、アキレス腱障害の治療として遠心性収縮トレーニングが有用であると数多くの研究にて報告されている。詳細なメカニズムは不明であるが、遠心性収縮トレーニング後に超音波画像上でのコラーゲン線維配列の正常化や新生血管の消失を認めている。遠心性収縮トレーニングにより腱のスティフネスが改善するかは不明であるが、コラーゲン配列などへの影響があることから腱の材料特性(ヤング率)を改善されている可能性があり、腱スティフネスの改善に有効なトレーニングであると考えられる。回数や頻度については、Alfredsonらのプロトコルが有名である。膝伸展位と膝屈曲位の2種類をそれぞれ3セット(15回×3セット)、2回/日、7日/週、12週間、痛みのない範囲で実施する。

画像44

●筋腱複合体(下腿三頭筋-アキレス腱)の伸張性
 筋腱複合体の伸張性の改善に関しては、スタティックストレッチング(SS)が有効である。SSの効果として、関節可動域の増加、筋腱複合体や筋のスティフネスの減少が報告されている。時間や頻度に関しては、対象とする組織によって異なるが、筋腱複合体の伸張性を向上させるには2分以上のSSが必要とされる。しかし、効果は持続せず、4分以上実施しても持続性は10分程度とされる。しかし、効果は持続せず、4分以上実施しても持続性は10分程度とされる。そのため、他の運動療法などと組み合わせて行う必要がある。
●アキレス腱周囲組織(パラテノン・Kager’s fat pad)の伸張性・柔軟性
 パラテノン、Kager’s fat padの伸張性・柔軟性の改善は、評価方法と同じく徒手的に伸張性や柔軟性の改善を図る。

画像45

画像46

●足底腱膜の伸張性
 足底腱膜炎患者に対して、足底腱膜ストレッチングとアキレス腱ストレッチングはともに有用であり、足底腱膜ストレッチングでより有用とされる。

画像47

しかし、痛みなどの主観的評価をアウトカムにしており、ストレッチングにより足底腱膜の伸張性が増加するかについては不明である。
●下腿三頭筋の筋機能改善
 下腿三頭筋の機能不全に対しては、評価で用いたカーフレイズがそのまま治療に使用できる。膝jt伸展位と屈曲位で、足趾伸展位でしっかりと母趾球荷重をした状態で、踵を最大位まで挙上できることが重要である。両脚から片脚へ段階的に移行していく。また、目的とする動作に応じて底屈位を保持したままのスクワット動作やコンビネーションカーフレイズなどを使い分ける。

引用・参考文献

片寄正樹監)、小林 匠他):足部・足関節理学療法マネジメント、MEDICAL VIEW、2020年

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?