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【イベントレポート】 「社会活動」と「企業活動」の関係性。 | 資生堂が手がけるサステナビリティアクションの裏側。

こんにちは!Social Business Lab運営事務局です。

わたしたちは毎月1回、SDGsをはじめ、サステナビリティやジェンダー、ウェルビーイングといった社会的なテーマに関連するプロジェクトを、企業の中で担当する人たちとともに考え、学びを共有する勉強会を開催しています。

世の中に新たな考え方を提示するような「あのプロジェクトの裏側」を分析し、実際にそのプロジェクトを担当した関係者から具体的な取り組みについて共有していただくことで、うまく行ったことだけではなく、失敗や「もっとこうしたらよかった」といった視点、どのように社内を巻き込み、プロジェクトを形にしていったのか?など、プロセスから紐解くことで考え方を知り、それぞれの活動や日々の仕事に活かすことができる場を目指しています。

第1回目の勉強会は、このSocial Business Labの主催であるパナソニックのふつう研究室と、CCCMKホールディングスの学校総選挙プロジェクトのメンバーが、資生堂が手掛けたプロジェクト「SBAS(Sustainable Beauty Actions)」を含むサステナアクションについてのお話を伺いました。昨今はさまざまなところで耳にするようになった「サステナビリティ」や「ダイバーシティ&インクルージョン」。資生堂という大きな企業の中で、ゲストの大山さんがこれらに関するプロジェクトをどのように立ち上げ、活動を広げてきたのか個人の経験を軸にお聞きしました。

<第一回目ゲスト> 

大山 志保里 |   株式会社資生堂 
ブランド価値開発研究所 
サステナビリティ&R&Dコミュニケーション室長

◎大山さんが手がけたプロジェクト

<SHISEIDO BLUE PROJECT>
SHISEIDOは私たちの星である地球の海をもっと健やかで美しいものにするために、世界プロサーフィン連盟の「 WSL(World Surf League)」と、WSLの非営利団体であり、海洋保護の推進や啓発活動、 実践を目指す「WSL PURE」と協同で「SHISEIDO BLUE PROJECT」を立ち上げました。海を愛する世界中の人々を応援し、私たちの大切なビーチ、よりどころである海、そして海と暮らす私たちの肌を守り、支える活動を行っています。

https://brand.shiseido.co.jp/shiseidoblueproject.html

<SHISEIDO SBAs>
SHISEIDOは、世界をより美しくするために、SBAS(Sustainable Beauty Actions)を通して、持続可能な開発目標(SDGs)に取り組みます。自分の内外の美しさと向き合うことで、周りもあなたの美しさに刺激され、より良く、より美しい世界につながる。そんなサステナブルで美しい世界を私たちのイノベーションで実現したいと、SHISEIDOは考えます。

https://international.shiseido.co.jp/sbas-jp.html


イベントでは4つの「Social Action Canvas」を軸に、参加者の皆さまからいただいた質問を交えながらお話を伺いました。

社会活動とビジネスの接続を両立するための
プロジェクトを紐解く
ソーシャルアクションキャンバス

Q1. Projectが立ち上がった経緯は? / なぜご自身が取り組むようになったのか

大山さん:現在私はできるだけ商品開発に近い上流の部分からサステナビリティに関連する役割に従事したいと考え研究開発の方にいるのですが、初めはサンケアのプロダクトのプロモーション施策「SHISEIDO BLUE PROJECT」を立ち上げるところからスタートしたんです。私自身がこのプロジェクトのイニシアティブを取っていたわけですが、サステナビリティに興味を持ち、取り組み始めたきっかけとしては、海外に長く住んでいて欧米市場の動きを見ていたこともありました。例えば、ハワイ州が日焼け止めに含まれる紫外線吸収剤という成分を規制したり、セフォラというコスメの専門店がお客様や環境に対する毒性などの安心安全が担保できていないと感じるような成分をカットしていくような動きがあったんですね(参照)。それはやはり生活者の方々のリアルな声だと思うので、そういったマーケティング的な視点からも「今後必ず必要な動きだ」と感じ、立ち上げようと動き始めました。

石井(SBLメンバー) :海外では当たり前に語られている文脈でも、日本となると難しいといった点はあったのでしょうか...?

大山さん:そうですね、やはり各所で言われているように日本企業における環境問題に対するアクションや取り組みって、どうしても遅れていることは事実なんですよね。構想を始めた2017年頃には、まだ「サステナビリティ」という言葉や概念が日本の市場で広がっていたわけではないですし、ほとんどの人が知らない状況だったので、どのようにスタートしようかは模索したことも多かったです。今は日本でも取り組みを拡大できていますが、最初は欧米中心での展開を始めたんです。ただ環境問題に対する取り組みは、昨今ESGの観点からもコーポレートとしても非常に重要になってきていますし、経営層へのアプローチだけではなく投資家たちへのアプローチ、経済的な評価に繋げていくという観点も大事だと思っています。
私の場合、正直当時の業績や社内で「新しいことに挑戦しよう」という追い風もあって取り組み自体を推進していくことはポジティブだったと思っています。まず「SHISEIDO BLUE PROJECT」を立ち上げて形にできたこと、その先に「SBAs」というソーシャルアクションの傘になるようなプラットフォームをつくることができたのは、取り組みを継続的にやっていくにあたっては、とても大きなことだったと考えています。」

Q2. Project推進に向けてどんな作戦を立てたか 周囲の巻き込み方/大変だったこと

大山さん :上層部からプロジェクトの承認をもらうときにはやはり、このプロジェクトがどういった経済的インパクトがあるのかという点はマストですよね。一方で、経営層もお金だけに焦点を当てているわけではなくって。そもそも、わたしたちが「ビューティーを通して体現していきたい本質的な価値」を真摯に伝えることが大事だと思います。

植木のプロジェクトなんかはもちろん直接的にすぐ経済的なリターンがあるわけじゃないですが、私たちがこのプロジェクトを通じてどんなコミュニティにアクセスし、誰を巻き込んで行きたいのか、どんな人たちとどんなアクションを取っていきたいのかを明確に考えていました。
やはり大きな企業ですと表面的なアクションにも見られがちだと思うんです。だけど自分達がまずはアクションしていくことが大事だと思っていて、どんな形をまず社内からつくっていけるんだろうかというところは意識していましたね。

あとは、チームでやっている姿というのも大事だと思っていて。というのも、こういうプロジェクトは企業の中のステークホルダーを繋ぐ役割も持っているんですよね。サステナビリティの本質ってクロスファンクショナルなので、やっぱりこういうイニシアティブは部署や企業同士の壁も越えていかなきゃいけないし、いろんな人と手を取っている姿を見せるところも意識していました。

東江(SBLメンバー): 自分自身はこれから必要だと感じたり考えていることでも、新しい価値観や概念、言葉について周囲が知らなかったり、理解をしてもらいづらいということも壁としてはあると思うのですが、どのように取り組まれていたのでしょう?

大山さん :同じソーシャルアクションの中でも、ジェンダーやダイバーシティ&インクルージョンといったイシューに関しては、個々人の経験や考え方、価値観に関してバックグラウンドが違ったりするとディスカッションでかなりぶつかることもあったりするのですが、環境問題に対するアクションで反対する人って実はいなかったんです。

環境問題に対する取り組みの中でも、パートナー団体として”サーフィン”のコミュニティであることに対してはみんな「おお〜」「エキサイティング!」といった感じの反応だったんです。

社内外で多くの人を巻き込んでいくためには、まだ誰も知らなかったり、考え方に馴染みのないトピックスに関して真剣に眉間に皺を寄せながら、取り組みたいことを伝えるだけではなく、私たちが取り組んでいるビューティ、美しい何かといった観点から、楽しんでやるということは大事だったと感じています。

Q3. 社内外の反応は?プロジェクトの評価/継続

大山さん :わたしがいた本社組織では、プロモーションのコアコンセプトを企画したり、グローバルアセットの制作を行います。それをローカルチームがエグゼキューション(実行)する構造になっているので、まずはそのローカルチームからの反応、彼らの巻き込みが不可欠です。特に主要マーケットであるアメリカチームからは非常に好反応で、今でもこのプロジェクトを軸に様々な販売施策活動を実施してくれています。また、全体を通してPR効果も非常に高い取り組みでした。

Q4. 活動をスタートさせるためのヒント

大山さん :サステナブルな活動にするためにはどうすればいいかを考えて始めることと、まずは自分自身がコミットすること、ですかね。やっぱりこういう活動が一発で終わってしまうことは一番良くないことだと思っています。そのためには自分自身がコミットすることが重要だと感じる一方で、わたしじゃなくても続くよう、属人性をなくすためにプラットフォームをまずつくった点はよかったと思っています。何かを始めるためには、ある程度の準備が必要かもしれないし、サポーターが必要かもしれない。あとは、軸ですよね。なにを軸にやっていくのかというところが定まった上で、まずは自分が一番にコミットしてスタートするっていうことがいいんじゃないかなと思います!


第二部では、主に参加者の皆さまからの質問に答えていただきました。

Q. サステナビリティやジェンダーといった概念的なお話に関してチームで話し合った時、どのような場面で認識や考え方がズレると感じることがありましたか?

大山さん :アンコンシャス・ビューティー・バイアス*に関してはかなり議論しました。例えば、使用する言葉。外国籍の人もチームにいたのでどう訳すかについて揉めたりしました。議論が進む中でどんどん主観が走り出すのでそこで結構ズレていったり、バトルしたりというのはあったかなと思います。その際はやはりどうしても個人的な考え方や意見に偏ってくるのを避けるために、外部の専門家の方に入ってもらいました。本当にセンシティブなトピックなので情報発信は気をつかいますよね。きちんと専門家を入れてやっているということが対外的にも重要だと思ったのでその人の選定からやりました。

Q.グローバルメンバーとのコミュニケーションの活性化のために工夫されていたことや、上手くいった理由などはありますか?

大山さん :日頃からの顔を見てのコミュニケーションってすごく大事だと思っています。特に海外のメンバーとはなるべくチャットだけではなく、ビデオで話すようにしています。常日頃からきちんとコミュニケーションを図ること。個人的なつながりとか日常的なディスカッションからサポートを得られる部分があるというのは、このプロジェクトに関してもあったかなと思います。やっぱり一人サポーターができると、そこから味方は広がっていくので。

✍️社内の活動をサステナブルに継続できる形にするために

アクションを続けていく上で重要なのは「属人化させないこと」だと大山さんはいいます。

大山さん:会社なので、自分が離れても継続していくようにプラットフォームを立ち上げた部分もありました。絞りすぎたり、縛りすぎたりしてもいけないですけれども、資生堂としてフレームワークを作っておいて、そうすることで継続して続いていく仕組みを作るということは意識的にやっていました。

社会課題への取り組みを社内に根付かせていくためには、プラットフォーム化する必要がある。

ビューティ領域でのサステナビリティに真摯に向き合うため、現在は研究室で奮闘する大山さんからの言葉にはとても迫るものがありました。大企業となると企業やプロジェクトのイメージが先行し、なかなか中で社会的なイシューに取り組む人の思いを知ることのできる場は少ないですが、大企業ならではの取り組み方、また課題をどう乗り越えてきたのかなど学びの多い会でした。

🗒学びになった4つのポイント

◯問題へのハードルを下げる

:取り組みたいテーマだけにフォーカスするのではなく、多くの人が興味を持つ分野(=共通言語が取れるジャンル *今回はスポーツ)からアプローチを始めた。
◯専門家をチームに入れる
:個人的な思いや主観、経験が強いイシューに関しては専門家の意見やアカデミックな視点を取り入れて判断軸を作る。
◯face to faceのコミュニケーション
:対面でのコミュニケーションを大切にする。テキストではなく、普段からそのテーマに関する議論や日常的な会話を大切にし、味方をつくる。
◯属人化させない
:社会課題への取り組みを社内に根付かせるため、一発で終わる企画やキャンペーンではなくプラットフォーム化することが重要。

Social Business Labでは、今後も気になるプロジェクトの担当者をお呼びし、ともに学ぶ時間を作っていきます。ぜひTwitterをフォローの上、次回のイベントもチェックしてみてください!


企画 / 編集:Creative Studio koko
ライティング:Ai Tomita