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「ストーリー」で人は動くのか?

「ストーリーをしっかり伝えよう」

結構、僕のプロジェクトでご一緒するパートナーは聞く言葉だと思う。
同時に同業には「ストーリーで人は動くのか?」という問いが多い。
ただ経過を伝えるだけでは機能しないと思う。そして世界は物語に溢れている。その中でこれだというものを見つけなければ物語を語っても意味がない。と僕は思っている。

遡れば、この手法は8年前に思いついた。今でこそストーリーテリングと言われ一つの手法となっているが、2011年頃ではまだ誰もやっていなかったように思う。HOTEL ANTEROOM KYOTOというホテルの立ち上げメンバーに関わり、提案した手法である。その時から「ドキュメンテーション」とずっといっていた。

例えば、新しいホテルがトンと出来上がる。おしゃれでスタイリッシュなデザインで告知されていくのが従来の手法。

でも、ここで僕らがやったのは開発現場のブログ。
カーペットを剥がすとコンクリが出てきて、猫の足跡が残ってました。
タイルを全部剥がしました!とか。

出来上がるホテルは上記のサイトのようなイカしたテンションだが、開発期間中淡々と更新される日記は、おしゃれさとは真逆の地道な作業だ。
新しいホテルに過去の歴史はないので、毎日生成し続ける。
これで得られるものは「ホテル作りの裏側の努力」であり、人間的な温度感。当時のブログを覚えている人は少ないかもしれないが、少しずつ身近な存在になっていく感覚を与えていった。今の時代でいう共感を育んでいったわけだ。

ストーリーは機能しないケースもある。
例えば、創業●●年。先代が築いた●●産業を大きく舵きりし…みたいな歴史の教科書に出てきそうなものは「ストーリー」ではない。創業何百年であろうが関係なく意味はない。消費者はそこに物語を見出せず、ただの歴史の記述になるからだ。

例えば、スーパーカブという誰もが知る原付がある。

戦後の日本で妻が自転車で闇市まで買い物に出かける姿を見て、この悪路では皆が困ると自転車にモーターをつけたのが始まり。

らしい。嘘か本当かわからないが有名な話だ。

しかしここには琴線にひっかかる要素がある。
「誰かが」「誰かのために」というストーリーのエッセンスがある。
つまりは「想い」から見える人の存在感というものが非常に重要になってくる。

知人のコピーライターがスパイダーマンの素晴らしさを語ってくれたことがある。その前にまずはスパイダーマンの概要説明を読もう。

ニューヨークのクイーンズに住んでいる平凡な男子学生ピーター・パーカーは、特殊なクモに噛まれたことによってスーパーパワーを得て、スパイダーマンとして活躍するようになった。
参考:ピクシブ百科事典

この文章は「状況説明」ということがよくわかる。
次にコピーライターの説明をざっくり書いておく。

スパイダーマンは「親愛なる隣人」なんです。
世界を救うとか、ヒーローである以前に僕たちのご近所さん。
半径3mの世界で出来ることを彼はしている。結果、世界を救うこともある。それがスパイダーマンなんです。

この説明をされると、「ちょっと見たいかも」とか思う。
これは状況説明ではなく「人となり」の説明から、「なぜヒーローなのか」の根底が説明されている。

ただただ歴史を紐解いてくことがストーリーではなく、
例えば、漬物屋であれば手作業をする老婆の手の写真にストーリーが宿ることもある。対象がもつ大きな文脈を掴んで、そのエッセンスたるものを見つけ出し人を起点に起きてること・向き合っているものを語る。
これが僕の考える「ストーリー」であり、この力は人を動かすと思っている。それで動かしてきた自負もある。

ストーリーを語って人が動かない。ストーリーなんて意味ない!
と思ってる人がいたら、それは見るべき場所と語り部としての練習不足なんじゃないかと思う。そして、ストーリーがない物事も多分にある。
それを見極めて時代の流れに文脈を重ねてこそストーリーは正しく伝播し人を動かす。

この力の練習に最適なのは、映画でも漫画でもなんでもいいから、読んだ・見たものを友達に説明する、本当これだけ。「それ見たい!」と言わせたらゴール。どういう語り方をすると人は心を動かされるのか。説明する方も聞く方も練習になるのでやってみることをおすすめします。

いただいたお金は子どもに本でも買おうかと思ってます。