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あなたは世界をどう感じていますか?

走りながら休む感覚で3日間の丹後リサーチに同行していた。プロジェクトの契約上、僕らはこの3日間帯同する必要はない。書面上は。
9月があまりにバタバタしていた。10月も引越しやら色々と結局過密に過ごした。本来なら休んどけばいいのだが、リサーチにひっついていった。

聞き取りをし続けたRADの榊原さん・本間さん、カメラマンのガサキヌは本当疲れたと思う。3日間で15人ほど聞き取りと撮影だ。1日5人の話を真剣に聞く。アテンドしてくれた原田さんもクタクタだったろうに終始笑顔。感謝である。

体力をHP。気力をMP。
そう捉えている根っからのゲーム好きだ。
僕はHPが結構高い。今まで過酷な現場が多かったからかもしれない。
というか食べて寝たらすぐに回復する。コスパがいい。
しかし人類皆共通してMPの回復は難しい。制作期間はMPも消費していく。それが間も無く枯渇する感じがした。なので同行しようと計画していた。
きっと何かいいことがある気がしたから。

RPGでもそうだけど、MPを回復するアイテムは少ない。道具屋でもHP回復するアイテムより高値だ。これは現実でも同じである。MP回復は結構難しい。なので定期的に仕事にかこつけて走りながら休みにいく。この調査期間、僕らにタスクはなかった。見守る。それだけ。

RADが聞き込みする間、僕は現場周辺をうろうろし続けた。
聞き取りの半数が移住者。半数がそこで生まれ育った人。触りの話だけ聞いて、彼らの過ごす土地を薄っぺらい靴であるく。僕がいつもやるリサーチなのか感度を得るための儀式みたいなものだ。

電波も怪しい山頂で雨の中、遠くの山々を眺める。
呼吸するように山が霧を吐き出す。川が流れる音が聞こえる。水がぶつかり合う音。それに鳥の鳴き声が混ざっている。ここで生きているのか。その実感が染み込むまで歩き続ける。

ある人は坂を登り切ると目の前に日本海が広がった。
右手に小さい漁港が見える。あそこで子供の頃、遊んだりしていたのかもしれない。彼らが当たり前すぎて言葉に出てこない空気を深く吸い込む。
小高い丘の上に木のベンチ。そこに座って静かな日本海を眺める。気づけば結構時間が立っている。すっと立つと隣の木陰から猫がこちらを眺めている。部外者を観察していたのかもしれない。もしかしたら彼の特等席なのかもしれない。軽く僕の匂いを嗅いで草木に潜っていった。

漁師さんの話を聞いている間、他の舟屋も覗き込む。
シワシワのおじいさんが網を直している。なんたら丸が無数に横並びだ。
みな、椅子に腰掛けて時折宮津湾を眺める。視線はもっと遠いもののように感じた。舟屋の裏手には真新しい商業施設。かつてはこの建物はなかったのかもな。風景も違っていたのかもしれない。その変化をこの人たちはどう思って眺めてきたのだろうか。

僕のこだわりというか、ここを捨てたら終わりだなと思っていることがある。それは「誰よりも近い第三者であること」だ。
ただ、何かを作って終わりではない。関係性は続いていく。だって僕らの時間も、その土地の人たちの時間も有限だから。とても限られた時間。たまたま何かの流れでこの時間をともにしている。

当たり前だが、僕たちがご一緒できるプロジェクトも限られている。
全ての土地に関われない。この縁でこの地にいるのだということを強く考えている。簡単なことではないが、できるだけ早く・深く彼らの深さにまで潜ることが大切だと思っている。

そういう意味で「僕とあなたの違い」の話をよくする。
差分を知ることは距離を知ることだ。自分自身をリトマス紙のように道具のように使って、言葉になる手前のこと、言葉を通り過ぎた当たり前のことを染み込ませていく。その色を掴み取る。

多くの言葉にならない状態のものを体に溜め込んで見える形に翻訳していく。それを見える形にしていくことが僕らの仕事である。

家に帰り、ゆっくりタイムラインを見ていると誰かが作った言葉がひしめき合っている。別に悪いことではないが丹後の空気を溜め込んだ僕の目から見ると違和感がすごかった。○○モデル、××思考、カタカナの真新しい言葉が組み合わさったプラモデル見たいな概念。何か深く重そうな言論のように見えて意味が軽い感じがした。気のせいかな。どうだろう。

対比の世界じゃないとは思っている。
何が正しくて、間違っているかでもないと思う。
君がどう思ったか?どう感じたか?の世界でしかないのだろう。

今、あなたは世界をどう感じていますか。
あなたの感情は?あなたの言葉は?どう?
もっとこういう議論が必要なのだろうなぁ。
今、僕は都会がローポリンゴンのように見えていて大変です。

いただいたお金は子どもに本でも買おうかと思ってます。