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旭川問題が民事調停に〔嘱託医問題〕No.3

SBSK自然分娩推進協会では、ご希望の方にメルマガを配信しています。
今回は、メルマガ70号(2022.12.24)の配信内容です。

今回は続編として、前回ご紹介したm3.com記事で気になる点の2点目を解説します。

m3.com記事での発言について

2022年12月7日付けm3.com記事「旭川医大産婦人科科長ら3人に民事調停、有志が嘱託医療機関求めでは、以下の発言があったとのことです。

  1. (旭川医大産婦人科の)科長からは、「正常な分娩はない。そもそも危険なものに責任は持てないので助産所の嘱託医は受けられない」「大学病院の産婦人科で、嘱託医を引き受けているところはない」などの趣旨の返答があったという。
    → 前回noteで解説

  2. (旭川医大学長の)西川氏は、「助産所の出産は妊婦の死亡率が医療機関よりも高い一方、妊婦の満足度は高いとされているようだ」

今回は「2」について解説します。

「助産所の出産は、妊婦の死亡率が医療機関よりも高い」のか

「妊婦の満足度は高いとされているようだ」は、私どもの動画「自然なお産」の再発見 ~子どもの誕生と内因性オキシトシン~で、北島先生が詳しく述べているとおりで間違いありません。

しかし前半の「助産所の妊婦死亡率は医療機関よりも高い」は根拠がはっきりせず、また下記のとおりイギリスの調査報告からすると真逆のような印象が残ります。

Birth Place Study - イギリスの調査報告 -

有名なイギリスでのBirth Place Studyは、妊産婦死亡率そのものではありませんが、リスクの低い産婦の分娩場所による分娩結果を追跡したものです。2008年から2010年の2年間の前向き調査です。対象は陣痛が始まったときに低リスクであった産婦64,538人です。

その結果を図1に示します。

Birth Place Study(調査結果)
図1 リスクの低い産婦の分娩場所による分娩結果
(Birth Place Studyの調査報告をもとにSBSKにて作成)

出産場所は自宅分娩(助産師が対応)、助産所、院内助産院、病院の4か所です。
結果は、例えば帝王切開の率は 自宅:2.7%、助産所:3.6% 院内助産所: 4.3% 病院:11% でした。
また初産婦に限ると正常分娩率は、自宅:67% 助産所:70% 院内助産所:62% 病院は少なく46%でした。
しかしいずれの場所でも、赤ちゃんの異常は非常に少なく大差ありませんでした。

つまりリスクのない産婦さんは、自然で安心な環境で生むほど、医療介入が少なく正常なお産に終わるということです。

帝王切開を必要とするお産は、自宅分娩に比べて病院で4倍も多かったという事実から、「病院での出産環境は異常を起しやすい」ということを推測させます。
そして帝王切開が多いということは、それ以外の介入も多いことを意味します。即ち子宮収縮剤使用や吸引や鉗子といった医療介入も、同時に施されていることが多く、これらは日本産婦人科医会のHPにもある通り、致死率の高い羊水塞栓症のリスク因子でもあります。

「助産所で妊産婦死亡率が高い」とは考え難い

この調査から言えることは、しっかりした搬送システムがあれば、低リスク産婦の自宅分娩や助産所分娩では、病院より圧倒的に異常が少ない、ということです。

従って状況証拠から言えば、助産所で妊産婦死亡率が高いということは考え難い、ということになります。

付言するとイギリスには嘱託医制度はありません。
この制度が周産期死亡率や妊産婦死亡率をダイレクトに下げるという証拠はありません。この嘱託医制度を失くせば旭川の問題の大半は解消します。

然してこの嘱託医制度を失くせばどんな事態が生じるのか生じないのか、行政や各団体がどう考えるか。こんなことを平場で議論されることは、大変有意義な機会になると思います。

次回へ続く

次回は日本の母体死亡率の推移について、日本産婦人科医会の調査報告から見えることを紹介します。


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