ヒトの細菌叢(Microbiome)とプライマル・ヘルス 10

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今回は、メルマガ43号(2022.03.19)の配信内容です。

今回も微生物叢に関する話題です。
前回の内容は下記をご覧ください。

セクション1 姙娠と胎児の生命

Chap1 妊娠中の微生物叢の変化(1章の最終回)

10)妊娠中に消費される母体抗生物質とプロバイオティクスは子にどう影響するか

抗生物質は病原性細菌を治療する一方で、健康な微生物叢成分にも影響を及ぼします。多くの研究が、乳児の抗生物質暴露が代謝の変化、発達中の免疫系への影響、メタボリックシンドロームおよびアレルギー疾患のリスクの増加、 さらには不安や攻撃的な行動を含む人格への長期的な影響をもたらす可能性を示しています。

その理由は、妊娠中に投与された抗生物質が、腸内微生物叢組成に影響を与えるからです。例えば妊娠中のラットでは腸内微生物の多様性を減少させ、プロテオバクテリアおよびエンテロバクターを増加させ、フィルミキュトおよび乳酸菌のそれを減少させることが示されています。また出産前に抗生物質の予防投与を受けている妊婦では、乳児の腸球菌とクロストリジウムの相対的な存在量が増加し、バクテロイデスとパラバクテロイデスの存在量が減少し腸内微生物叢組成に明確な変化が見られます。さらに妊娠および授乳中に低容量のペニシリンを投与したマウスの研究では、仔の腸内微生物叢に有意な変化認めています。

また妊娠マウスに投与された抗生物質は、仔の運動活動および探索的行動を減少させました

その他マウスの妊娠中の抗生物質投与では、免疫応答に影響を与え、体重を増加させ、仔のアレルギー疾患および喘息のリスクを高めることも示されました。メカニズム的には、微生物叢が微生物代謝物およびIgGの胎盤通過やリポ多糖(LPS)およびSCFAへの暴露によって胎児免疫系を変化させ、子のアレルギー疾患および喘息を発症しにくくさせているのです 。

また予想通り、妊娠中のプレバイオティクスまたはプロバイオティクスの母親への投与も代謝効果につながり、抗生物質投与に関連する変化を減弱することが示されています。さらに、妊娠中のマウスにラクチュロースが豊富な食事を与えたとき、彼らの腸内微生物叢には、より高いSCFAレベル、より高いプロゲステロンレベル、および低い血清グルコースおよび総コレステロール濃度と共に、ビフィズス菌およびバクテロイデスの有意に高い存在量が認められました。妊娠中の母親がプロバイオティクスを受けた研究では、プラセボコントロールと比較して細菌の変化が乳児のメコニウムで検出されました。別の研究では、乳児微生物叢が変化しました。1000人以上の妊婦のメタ解析では、グルコースおよび脂質代謝を改善するプロバイオティクスを発見しました。

しかしながら、 妊娠中の女性の太りすぎへのプロバイオティクス投与は妊娠に関連する血清ゾヌリンまたは LPS のレベルを減らさず、その効果ははっきりしませんでした。 またプロバイオティクスを有する妊婦の治療は、子の自己免疫疾患の割合を減少させることも期待されていますが、これまでのところそのようなデータは得られておらず、さらにこの効果はセリアック病では観察されませんでした。

妊娠期間を通じてプロバイオティクスの摂取は膣マイクロバイオーム組成物に影響を与えないようですが、妊娠中の母親の真菌集団からなる腸内細菌叢の存在量は、有意に増加させました。その意義は今後解析が必要です。

Chap1の(妊娠中の微生物叢の変化)結論

この章では、健康な妊娠や妊娠合併症中の、複数の部位(腸、膣、口腔)における微生物叢組成の変化と、これらの細菌の潜在的な機能について議論した。

  1. 微生物叢は身体組成の変化、体重増加、ホルモンレベル、炎症、代謝などの、妊娠中に起こる生理学的変化に呼応して劇的に変化する。その変化の一部は、体重増加、炎症性サイトカインの発現、およびインスリン分泌不全を促進する。これらのプロセスにおいて細菌の役割が立証できた。

  2. 妊娠中の微生物、代謝、免疫に相互関係があり、統一された調節ネットワークのあることが示唆される。

  3. よって健康な微生物集落を維持することは、子どもに長期的な影響を及ぼすため健康な妊娠に不可欠である。

  4. 微生物叢は食事、BMI、代謝状態によって大きく影響されるため、妊娠中のHFD(高脂肪食)とコントロール食を比較すると明確な違いが見られる。

  5. 妊娠中の機能的な微生物叢の変化を理解すると、妊娠中の抗生物質使用に懸念が生じ、この重要な期間中にプロバイオティクスとバランスのとれた食事を採ることが重要である。

  6. 妊娠合併症における微生物叢の役割が解読できると、その病因がわかり治療法を見出せる可能性がある。

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