生きながら10代に葬られ〜正しい青春を送れなかった人へ〜第24話

短大になったので、再びバイトをやろうと思い、仕事を探し始めた。短大が終わった後に、W大学に行く時に使う駅が高田馬場なので、そこで探そうと思いたつ。よく行くお店にバイト募集のチラシが貼られていないかを注意して見るようになった。サークルに行く前に本屋に立ち寄って漫画を2冊ほど買った後、店の壁に「バイト募集」の紙が貼られていた。本屋さんでバイトするのもいいかも、と思い電話番号をメモした。


バイトの面接当日、着て行く服装で頭を悩ませた。面接の時にどういう服装をすればいいのかわからない。高校生なら制服でいいけれど、大学生は何を着ればいいのだろう。スーツというのも気合を入れすぎている気がする。結局、派手でなければいいという結果に落ち着いて、ジーンズとTシャツで赴いた。
本屋さんに着くと、バックヤードに通される。私は姿勢をよくして、面接官の言葉を待った。面接官は私の履歴書を見てからぶっきらぼうにこう言った。
「君みたいな子は、うちの職場では長く続かないと思うよ」
そう言って終わった。


私はひどく落ち込みながら、早稲田通りを歩いた。私の何がいけないのだろう。顔?服装?雰囲気?通りに面したコンビニのピカピカしたガラスに自分の姿が映る。短すぎるショートヘアと男の子みたいな格好。けれど、私は私の見た目を変えることができないし、変え方もわからない。それか、学歴だろうか。私の短大はひどく頭が悪い。けれど、頭が悪いことと、仕事の取り組み方とはまた別の問題だ。それとも、うちの短大の生徒が昔何か問題を起こしたのだろうか。
私はサークルに行こうと思ったが、引き返すことにした。落ちたからと言って落ち込んでいたら、一生バイトができない。次のバイトを探そう。

実家に戻る途中のそこそこ大きな駅で降りた。私の実家周辺にはあまり店がないからだ。駅前のデパートに入り、飲食店をウロウロした。私は実直に母が言っていた通りに、「バイト急募!」の張り紙を探す。レストランや喫茶店で働ければいいのだが、と思っていたのに、「バイト急募!」の張り紙を掲げていたのは居酒屋だった。私は居酒屋は嫌だと思いつつ、雇ってくれるならどこでもいいから働きたいという思いがあった。実は、本屋さんの前にも三つほどバイトに落ちていた。バイトに落ちるごとに、私の自尊心は削がれ、自分は仕事を選り好みする立場ではないということをひしひしと感じた。私は張り紙に書いてある電話番号をメモした。帰宅してから、店に電話をかけて、面接の日取りを決める。今回の面接では綺麗めの黒のズボンに青のニットを着て向かった。面接官は不機嫌そうに私と履歴書を眺める。無愛想であったが、後日採用の連絡がきた。私は心から喜んだ。

バイト初日、まず、居酒屋の掃除を指示されて、窓ガラスをピカピカに磨く。全身を使うので、結構疲れる。けれど、労働をしていることはなんだか誇らしかった。鏡に自分の顔が映り込むくらいに綺麗に磨いた。
そして、名札を作ってもらうのだが、店長に
「趣味は何?」
と聞かれた。突然のことなので、びっくりして、
「えっと、読書ですかね」
と答えたのだが、
「これね、名札に書くの。名前の下に、各自の趣味を書いておくの。」
そう言われて、他の店員を見ると、みんな「ありさ 趣味カラオケ」「たけし 趣味サーフィン」などと書いていた。
私はやっと店長の意向を察して、
「趣味はカラオケでお願いします」
と答えた。
私は店長が筆ペンで崩した字で書いた「エリコ 趣味カラオケ」という陽気な名札をつけた。こんなに陰気な居酒屋店員で大丈夫だろうか。


次に、お酒の作り方を教えてもらう。これが、何十種類もある。レモンサワー、ハイボール、シャンディガフ、ソルティードック、私はまだ居酒屋にそんなに行っていないので、お酒の名前もちんぷんかんぷんだ。お酒の名前だけでも覚えるのが大変なのに、入れる焼酎とサワーの分量も覚えなければならない。簡単な説明は壁に貼ってあるけれど、専門用語もあり、覚えやすいとは言えない。そのほかにも、チョリソーやシューマイなどの蒸し物や簡単なサラダも作らないといけない。注文の取り方を教えてもらうと、すぐに接客に入るように言われた。入ったお客さんには元気な声で店員一同「いらっしゃいませー!」の掛け声をかける。
男女二人組が入ってきて、私は注文を取りに行く、「とりあえず、ビール」と言われて、注文を受ける。店長がやってきて、
「うちは、一杯目のお客さんには号令かけるからよく覚えておくように」
と言われる。なんのことかわからないのだが、店長に見ておけと言われて、後ろをひっついて歩く。
店長はビールを男女の手に握らせて、ホール中に響く声で言った。
「今日も一日、お疲れ様でしたー!」
他の店員が揃って、声を出す。
『お疲れ様でしたー!』
みんなの元気な声がこだまする。
「かんぱーい!」
店長の声は熱を上げ、二人に乾杯を促す。
『かんぱーい!』
また他の店員が揃って声を出す。みんな、元気だ。死ぬほど元気だ。こんな元気な職場でうつ病の私がやっていけるのだろうか。今だに精神科に通って抗うつ薬を飲んでいるというのに。


少し経つと、また、客がやってくる。女性3人グループのところへ行って、おしぼりを出し、注文をとる。
そして、ビールの注文を受け、ジョッキを三つがっしりと掴んで持って行く。いよいよ私もあれをやらなければならない。店長の元気な声を思い出す。3人にジョッキを持ってもらい、精一杯の笑顔で腹の底から声を出す。
「今日も1日、お疲れ様でしたー!」
私の声の後に続いて、皆が声を揃える。
『今日も1日、お疲れ様でしたー!』
私はもう一段大きい声で言う。顔もこれ以上ないくらいの作り笑顔だ。
「かんぱーい!」
『かんぱーい!』
こだまする店員たちの声。このサービスは訪れた全ての客に行っているので、それなりに疲れてくる。私はこのバイト先ではカラオケが趣味の明るいエリコちゃんにならないといけないのだ。

ずっと立ちっぱなしで腰が痛い。お盆の上にたくさん皿をのせると筋肉のない腕がプルプル震える。それを見ていた店長は、私を大声で注意し呼び寄せた。私はビクッとして店の隅に行く。
「もっとちゃんとお盆を持て!」
そう言って、私の手のひらにお盆を乗せて、水の入ったコップを何個も何個もガンガンガンガンと乗せた。コップの水が勢いのあまりハネる。10個くらい乗せられて、私の筋肉が限界だと叫んでいるが、どうすることもできず、必死で腕に力を入れる。
「すみませんでした」
そう言って、コップをテーブルに戻し、すぐに注文を取りに行く。居酒屋の客たちは酔っているせいもあり、店員には横暴だった。
「ねえ、注文のサラダ、まだー?」
そう言われて、
「はい!すぐにお持ちします!」
と急いで厨房に入る。
サラダを作れと言われても、どこに何があるのかさっぱりわからない。先輩たちは調理で忙しくて、新入りの私の話を聞いてくれない。仕方がないので、見よう見まねで、サラダを作る。レタスを入れて、トマトを入れて、ひき肉を乗せた。それを恐る恐る持っていったのだが、サラダの挽肉が冷えていたままだったので、客の男性は烈火のごとく怒った。私は泣けるなら泣きたかった。店長にまた叱られて、私は心の奥の方の何か大事なものがポキリと音を立てて折れるのを聞いた。正直、やめてしまいたかった。けれど、何個ものバイトに落ち、本屋の面接で「君みたいのは長く続かない」と言われた悔しさから、もう少し頑張ることにした。

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生きながら10代に葬られ〜正しい青春を送れなかった人へ〜

いじめ、学級崩壊、全く幸せじゃなかった10代。恋愛したり、友達と海に行くとかそういったことができなかった人に読んでもらいたい。
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