9年会っていない、絶縁した父のこと(8話 父との別れ)

生活保護を受けている人のことを社会の人はどう思うのだろう。怠け者?税金泥棒?私は生活保護を一時期受けていたけれど、そんなに怠惰な人生を送ってはいない。子供の頃は宿題をこなすどころか自習もきちんとしていたし、進研ゼミは全て黒く埋めた。人間は一生懸命頑張ってもどうにもならないことがある。私は高校生になってから精神を病んで毎日死ぬことを考えた。勉強はしなくなって、本ばかり読んだ。私にとって毎日は生きるか死ぬかの選択だった。その日1日、死なない選択をするために本に教えを乞うていた。自殺や幸福論などのタイトルばかりを選んで読んだ。
短大生の時、高田馬場でコンビニバイトをしていた。安い時給で働かされて、酔った客には罵声を浴びらせられることもあった。テスト前なので休みたいと言ったらマネージャーに「わがままお姫様」とあだ名をつけられた。全く働かないマネージャーのお気に入りの男子大学生の代わりに4時間連続でレジを打ち続けた。私はだいぶんくたびれていた。
バイトが終わった夜の10時過ぎ、晩御飯がわりにコンビニのパンを食べながら駅に向かう。高田馬場の駅前にはホームレスがいつもいた。私はいつもその人たちの前を通るのが申し訳なかった。少し考えて、近くのコンビニであんぱんと牛乳を買ってホームレスのおじさんに渡した。おじさんは深々と頭を下げてお礼を言った。お礼なんていいのです。私は未来の自分に渡したのです。私もそちら側に行くかも知れないから。それから10年して私は生活保護を受けることになった。私はあっけなく、そちら側に行った。

生活保護を受け始めて、わりかし早くに絶望した。何回も自殺未遂を経験している私としては、自殺を決行することは大した問題ではなかった。薬局で大量のカフェインの錠剤を買って一気に飲み込んだ。さようなら。さようなら。さようなら。しかし、いつだって私は死ねない。身体中をのたうち回らせて、救急車で運ばれる。人工透析を何回も受けて私は生き返った。入院中に父と母が来た。バカな父はなぜか焼き林檎を持ってきていた。そんなものが食べられる状態ではない。私は全粥しか口にできない状態なのに。私は泣きながら父と母に謝る。2人ともただ泣いているだけだった。

そういう姿を見ると父も私のことを娘として愛してくれているのかと錯覚してしまうのだが、退院して、母のいる実家に戻った時にやってきた父と言い争いになった。父は私に向かって「誰のおかげで生活保護が受けれると思ってるんだ。俺がサインしてやったからだぞ!」と言い放った。多分、一生忘れないと思う。父の得意技は「〜してやったからだ」だった。そもそも、私はこの世に生まれてきたくなかった。私は頭に血が上ってうまく回らない口で「お父さんとは絶縁する!」と叫んだ。

それから9年、ずっと父と会っていない。父と母は離婚してしまって、私たち家族はバラバラになった。

父はとても嫌な父親だったが、本来の父親の役割とはそういうものだ。子供に疎まれることで、子供を家庭から追い出す。だから、父がろくでなしで、子供に対して残酷なのも、多分、間違っていないのだ。私は父を恨むことで、家庭から早く脱出したい気持ちになったし、生活保護を受けてもなお、働いて見返してやりたいという気持ちになったのだ。

しかし、正常な家族なら、一度は父を恨んでも、また、和解するものだと思う。しかし、私と父は連絡先も携帯番号も知らないままだ。父はもう65歳を過ぎた頃だと思う。父は今、何を考えて生きているのだろう。まだ、映画館に足を運んでいるのだろうか、まだ、ロックを聞いているのだろうか、まだ、競輪場に行っているのだろうか。たくさんの疑問符が頭をよぎる。もしかしたら、私は父に会いたいのかも知れない。短大生の時に、朝の9時に新宿の思い出横丁で話した時の話の続きはまだ終わっていない。私たちはまたねと言って手を振ったのだ。

こうして、父に会いたいという気持ちが芽生えたことは発見だと思う。しかし、もう、父には会わなくてもいいのではないかと思う。会ったらまた憎んでしまうかも知れないからだ。だから、会いたいという気持ちだけを大事にして生きていきたい。

父の話はひとまずここでおしまいにします。加筆修正してこのお話は秋の文学フリマで売ります。あまり手を入れていない、雑な文章を読んでくださってありがとうございました。

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9年会っていない絶縁した父のこと

コメント1件

全編を拝見させていただきました。
貴女のお気持ちがよくわかりました。
なぜなら、私は貴女のお父上と本質は同じだからです。
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